第19話 女子が3人以上になったらお風呂回だと決まっています!! (来海紗希さん個人の感想です)

 無敵要塞オペペペラにまた仲間が増えた。


「ふぃー! もう夜だねぇー。ご飯まだかなー?」


 現在、オペペペラは行先を決めずに航行中。

 別に飛んでいてもガス欠が存在しないので構わないのだが、「けど、空にこんなの飛んでたら地上の人の迷惑じゃない?」という、紗希艦長の極めて常識的な発言により、現在は良い感じの着陸地点を捜索しながら微速前進している。


『こちらノリーオ。3時の方向へ7キロ進んだ地点に荒野があります。周囲には生体反応なし。来海さん、こちらで夜を明かすのはどうでしょうか?』

「わー! 助かります、畑中さん! ところで、なんでノリーオって名乗ってるんですか?」


『僕、ノリーオ・バターケがルワイフルでの名前なんですよ。先代がね、勝手に名乗り始めて20年です。今さら、畑中です! って言うと違和感すごくて』

「うへぇー。そんな苦労もあるんですかー。とりあえず、お知らせありがとうございます!」


 元から死角などなかった戦艦にルワイフル全土にパイプを伸ばしている2代目最長老ノリーオという情報分析官まで加わったので、いよいよ無敵も極まってきた。

 ナビに従い航行すると、すぐに件の荒野が眼下に広がる。


「紗希様! あたし、今度こそ綺麗に着陸してみせます!!」

「おおー! 頑張れー!! ミリアちゃんならできる!!」


「あの、紗希? 自動で着陸できるらしいし、無理して手動にすることないんじゃないか?」

「えー。ラミーさんがルッツくんみたいなこと言い出したー! チャレンジしないと成長は見込めないんですよ!! やだなー。ラミーさん、美人でカッコいいのに。ちょっとルッツくんと被るんだよね。一人称も同じだし。口調も似てるし」


 ラミーが静かに崩れ落ちた。

 彼女も薄々気づいていたのだ。


 「あれ? 私の個性、薄すぎ?」と。


 外見は綺麗な色のロングヘアーに整った顔。

 スレンダーな体と長い脚。


 だが、オペペペラの乗員を眺めると、だいたい属性が被っているのだ。


 来海紗希は身長159センチ。

 実に平均的な女子高生の数値。


 対してラミーの身長は166センチ。

 確かに高いが、バレー部にスカウトされるほどではない。


 胸のサイズは地球基準だとCカップ。

 紗希も同じくCカップ。

 被っている。


 ルッツリンドはマントを取ったらスレンダー。

 実はラミーよりも華奢である。


 独特の色合いの髪は個性だったのだが。

 彼女の視線の先には先ほど仲間になったばかりの炎髪少女ルビーがいる。


 絶えず炎のように揺らぐ赤い髪に比べると、ラミーはコスプレイヤー御用達のちょっと良いウィッグで再現可能なヘアースタイルに落ち着く。

 鏡の精霊としての個性はさらに薄く、そもそも鏡を持ち歩いている訳ではないが、仮に持ち歩いたとしてもただの身だしなみに気を遣う綺麗なお姉さんなのである。


「ラミーよ!! さては腹が減ったか! フハハハハハ! 他愛のないヤツめ!!」

「うるさい! 黙れ!! お前、船降りろ!! そうすれば口調と一人称は私が独占できるのに!!」


「フハハハハハ! 何を申しておるのかサッパリだ! 紗希! 食事の用意ができたと奴隷どもが言っておるぞ、いかがする!?」

「やった! 食べよ、食べよー! お腹空いてたんだよー!! ルッツくん、意外とそーゆうとこ察してくれるよねー! ちょっとだけポイントあげちゃう!」


「フハハハハハ!! 女子の様子を見るのはリリンソン皇国ではナイフとフォークの扱いの前に学ぶ基礎教養よ!! 艦橋で済ませるか! ルビーは景色を見たかろう!!」

「あ、ありがとうございますー。ルッツリンドさん、優しいですね。ルビーは優しくされても興奮しませんけど、感謝はします」


 気遣いの分野でルッツリンドにリードされたラミー。

 彼女の「個性が欲しい」という孤独な戦いはこの時から静かに始まるのだが、孤独な戦いゆえ特に誰かが気付くこともないのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 食事を終えた一同。

 ルビーを居住区へと案内し、部屋割りを決めようと紗希が提案した。


「今はね、こんな感じ! わたしがこっちの端っこで、ミリアちゃんは家族や奴隷さんと同じ反対側ね! ルッツくんは左端の隅っこ! 男の子だからね! ……あれ? ラミーさんってどこだっけ?」

「えっ!? ……この、真ん中からやや右寄りの。この辺だけど」


 無個性であった。


「ルビーちゃんはどこにする? 好きなとこで良いよ!」

「紗希様のお隣が良いです!! ルビーは紗希様と一緒にいたくてオペペペラに来ましたので!!」


「おお……!! 美少女が食い気味にわたしを求めて来る……!!」

「ふ、ふへへ……。紗希様! できれば、就寝前と起床後に口汚く罵ってもらえますか!? ルビーがこの世に生まれたことを後悔するくらいのヤツをお願いできますでしょうか?」



「うん。お願いできないよ? これがなければなぁー」

「そ、そんな……! あれ? ルビーがこんなに懇願しているのに、冷たくあしらわれた! 紗希様!! これはこれでありでした!! き、気持ちいいですぅっ!!」


 自分で勝手に満たされていくドMなルビーちゃん。



 そこにミリアがトコトコと駆けてきた。

 もうその動きだけで心が豊かになって、何なら胸のサイズも1つ上がるのではないかと錯覚する紗希。


「どうしたのー? ミリアちゃん!」

「あのあの! 実はまだお伝えしていない施設がオペペペラには多くあります! ルッツリンド様が、女が増えたし知らせて来いと申されまして!!」


「えー? なんだろ!?」

「大浴場があります! これまでは皆さん、自室で体を清めておられましたので使っていなかったのですが! 紗希様の世界では男と男が裸の絡み合いで親睦を深めるとノリーオ様が言っておられました!! つまり、女同士でも有効かと思ったのです!!」


「うん。ちょっと言い方がアレだなぁ。畑中さん、後で文句言わなきゃ。……けどぉ!! お風呂回!! これは無視できない!! 是非みんなで入りましょう!! もう、すぐ入りましょう!! みんな、着替え持って5分後に再集合ね! ミリアちゃんは案内よろしく!!」


 異世界で色んな種族とお風呂回。

 「もう完璧に口絵になるヤツじゃん!!」と判断した紗希。


 行かない理由がない。


 1分で支度を済ませてワクワクしながら待っていると、ルビーがしょんぼりしてやって来た。


「どしたの? お部屋に不満があった?」

「あ、いえ。不満があればご褒美なのですが。ルビー、着替えなんて持っていませんでした。獄炎の精霊はそもそも裸なので、服を作る発想がないんですぅ……」


 紗希は族長のボルケノフを思い出して、なんだかちょっと顔をしかめた。


「そっかー。そのフリフリのシャツとプリーツスカートは可愛いけど、1つしかないと困るね。って、わたしも制服しかないから、部屋着はミリアちゃんのお父さんから借りてるんだ。んー。服が欲しいなー」

「つまり、紗希様はルビーなんかお風呂に入った後は貧相な裸で過ごせと!? ちょっと待ってくださいね。……あ! 大丈夫です、これ気持ちよくなるヤツでしたぁ!!」


 紗希がミリア一家の元へダッシュして着替えを貰ってきたのは言うまでもない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 オペペペラの大浴場は広い。

 人間サイズの種族ならば1度に30人が入っても余裕のある造りになっている。


 それを紗希、ミリア、ラミー、ルビーの4人で使うのだから、快適さは疑う余地すらない。


「ふぃー!! 気持ちいいー!! やー! まさかこんな大きなお風呂に入れるとはー!!」

「ルッツリンド様にオペペペラが進呈される際、ノリーオ様のご進言で急遽造られたとのことです!!」


「おおー! さすが日本人! 分かってますなぁー!! ん? 違う、先代さんだ。ややこしいなぁ。あと、ミリアちゃんは恥ずかしがらないんだね? 意外かもー」

「はい! 奴隷商人は奴隷と一緒に煮えたぎる熱湯でグツグツと体を温めるのが習わしですので! ふっふっふ。茹っていく奴隷たちを見てやるのです!!」


「そっかー。相変わらず、ホワイトな経営方針だねぇー。……ミリアちゃん。着やせするタイプだったんだ。服着ててもすごいのに、脱いだらもっとすごいとか。顔をうずめてもいいですかっ!!」

「ほわわわわわ!! あたしに拒否権はないです!! けど、何も言ってないのに迷わず実行してくるなんて、さすがです紗希様!!」


 お楽しみの紗希様。

 ちなみに、ラミーとルビーは脱衣所から未だに出てこない。

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