第18話 力こそ興奮! 暴力こそ気持ち良さだ!! ~閻帝の娘・Mっ子ルビーちゃん、乗船決定!!~

 太く赤い腕が生えてきたかと思えば、そこから胴体が再生され、最終的にひょっこりと顔が出てくる。

 もうどう見ても平気そうなので、紗希は「うへぇー。再生能力持ちの生き物って近くで見るとエグいなー」といつも通り失礼な感想を抱いていた。


「かかかかっ!! 実に剛毅!! 久方ぶりの力による蹂躙!! 愉悦であったわ!!」

「あ。変態さんタイプだ。絶対オペペペラには乗せたくないなー」


「大半の精霊が見かけたら進路を変えると言われている獄炎の精霊ボルケノフを相手に……!! さすが紗希! なんて度胸なんだ!!」


 ボルケノフと紗希の共演に慄くラミー。

 頭の良いロリっ子ミリアが見解を述べる。


「えとえと! ラミー様! それって、嫌悪感が先だっての行動じゃないでしょうか!! あたしは1時間遠回りしてもこちらの方たちとは遭遇したくありません!!」

「フハハハハハ! 言いたい放題か、貴様ら!!」


 ミリアの直截なセリフにツッコミを入れるルッツリンド。

 この男、やっぱり特にダメージを受けていなかった。

 ちょっとおでこが赤くなった、特殊な訓練を受けている覇者。


 焼き土下座くらいは問題ない。


 なんかやらかしたら、また焼き土下座させよう。


「かかかか! 言葉による暴力の嵐!! これはこれは!! 実に感服!! 大層な快楽だ!!」

「ねぇ、みんな。わたしもね、ルワイフルの事を毎回のように悪く言うの、嫌なんだよ? けどさ、この世界の外から来て、客観的な意見が言えるのってわたしだけだから、言うね?」


 ルッツリンド・リリンソンの意見は偏見に満ちているため、除外された模様。

 紗希はすぅぅぅと息を吸って、叫んだ。



「暴力を愛するってさ!! 普通、力による支配みたいなの想像するじゃん!? でも、この炎の人! 暴力を振るわれる事に興奮覚えてるじゃん!! ただのドMの変態さんだよね!?」

「かかかかかっ! 娘!! もっと頼む!!」


 変態さんであった。



 そうなると、先ほどまでの暴動も意味が変わって来る。

 はたから見れば縄張り争いや、力の優劣を誇示するために殴り合っていた獄炎の精霊たちだが、真相は「気持ちよくなりたいから、お前殴れよ! あー! 気持ちいい! よし、次は俺が殴るわ!!」と、順番にボコったりボコられたりしながら興奮していた、ただの変態男祭だったという事実が浮き彫りになった。


「フハハハハハ! 相も変わらずの様子だな! ボルケノフよ!!」

「かかかかっ! 誰かと思えばリリンソンではないか! なるほどな!! 貴様が来てくれていたのか!! 気持ちいいと思ったわ!!」


「フハハハハハ! 紗希よ! 私はこやつらと気が合うのだ!!」

「うん。そうみたいだね。ルッツくん」


「フハハハハハ! ああ! 交渉は任せよ!!」

「んーん。あのね、ここに住んで良いよ? 君、もう船降りたら?」



「なぜだ!? 何が気に入らなかった!?」

「10代の女子は好きでもない男の子が変態トークにお花咲かせてたらね? だいたい全部が気に入らないんだよ。元気でね!!」


 少し前まで紗希を強制送還させようとしていたルッツリンドが要らない子認定される様には、諸行無常を感じずにはいられない。



「お父様!! ご無事で良かった……!!」

「かかかかっ! ルビー、心配させたか? そうか! お前は同胞の消失を見るのは初めてか!! 案ずるな! だいたいみんな、砕けても死なん! 興奮値をより多く得た者から再生が始まるゆえ、しばし待てば皆が復活するぞ!!」


「うわぁー。要するに、ボルケノフさんが1番興奮したんじゃん。700年とか生きてるんでしたよね? うへぇー。仕上がってるなー」

「ボルケノフ! 貴様に聞きたい事がある!!」


 ラミーが一歩前に出た。

 ボルケノフが応じる。


「なんでも聞くが良い! 久しぶりの来客だ!! ……だが、待て。お前は誰だ?」

「なぁっ!? わ、私は鏡の精霊ラミーだぞ!? 200人以上の同族を束ねる、精霊郷の長だ!! 知らないはずがないだろう!?」



「……ああ。知っている。知っている。あの、な? ……大きくなったな!」

「くっ。殺せ!!」


 ラミーさん、非常に悔しかったご様子。



 それでもラミーは前を向く。

 簡単に鏡が割れてはみんなが困る。


 強くあらねば、鏡の精霊の名折れ。


「どうして貴様の娘だけ無傷なんだ! おかしいだろうが!!」


 話題が赤い髪の少女ルビーに移ったので、ミリアと一緒にクッキー食べながらお茶を飲んでいた紗希も会話に復帰。

 気温はまだ50℃超えてます。


「そうだ! ルビーちゃん!! もう一度最初から! はじめまして!! わたしね、来海紗希!! 仲良くなりたいな!!」

「紗希……様? あの、先ほど主砲でルビーたちの郷を壊滅させたのはあなた?」


「たははー。ごめんね。お、怒ってるよね!? すっごく反省してる!! ごめん!!」

「いえ! 初めて感じる、身を焼き尽くすような熱線! 有無を言わさず、ただ嬲られるだけの狂気の暴力!! ……ルビー、感動しました!! そして興奮しました!!」


 紗希は顎に手を当てて、極めて重要な脳内会議を開いた。


「困ったなー。ルビーちゃんも変態さんだった。えー? ツンデレさんじゃないんだー。んー。でもなー。可愛いんだよねぇ。けど、今のところオペペペラって、奴隷さんたち以外はみんなちょっとアレなんだよぉー。迷うっ!!」


 ルビーを勧誘すべきか。

 それともそっとしておくべきか。


 これは重要な選択肢であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「かかかかかっ! 我が娘のルビーか!! これは絶頂までの許容量が大きくてな! 獄炎の精霊は興奮すればするほど強くなる!! 初めての暴力、どうやら大いに愉しんだらしい!!」

「あ。はい。もうその辺は分かってるんです。ちょっと静かにしててください」


 紗希がゾーンに入った事をオペペペラクルーは察知した。


「どうなると思う?」

「あたしはきっと、なし崩し的に仲間が増えると思います!!」

「もうこれ以上メンバーはいらんぞ。最初期からいる、このルッツリンド・リリンソンの出番が絶対に減らされる」


 今回はルワイフルに来て1番の長考を見せる紗希。

 一方、獄炎の精霊親子は紗希の評価を出すことにしたらしい。


「お父様! あちらの不思議な恰好された方!! とんでもなく攻めるのが上手そうです!!」

「かかかかっ! 既に片鱗を見せておるな! 竜だろうと片手で消し炭にできるこのボルケノフを無視してくるとは!! とても興奮するな!!」


「お父様!! ルビー、世界を知る時が来たのかもしれません!!」

「かかかかかっ! お前も15。確かに頃合かもしれん!!」


 ルビーが紗希の元へと駆け寄った。

 続けて跪く。


「紗希様とおっしゃられました、オペペペラの艦長様!!」

「あー。ごめんね。ちょっと考え事が纏まらないから。あとで」


「くぅぅ! このぞんざいすぎる扱われ方!! ルビー、もっと強くなれます!!」

「へっ!? あ゛っ! ごめん! ルビーちゃんだったの!? 暑苦しい変態お父さんかと思ったよ!! ごめん、何だったっけ!?」


「ルビーを連れて行ってください!!」

「うああああ!! ちょー連れて行きたいー!! なにこの可愛い笑顔!! そっかぁ! 仏頂面がデフォなんだ!! 急にその笑顔はズルいー!! でもヤダー!! 絶対に変な事言い出すタイプだもん、この子!!」


 ルビーはプリーツスカートの裾を持って、クイッと持ち上げた。

 なお、丈はミニカスートの中でも短いくらいなので、実に刺激的な絵面になったとのこと。


「うぇぇ!? な、なな、何してるの、ルビーちゃん!?」

「えっ? これですか? 以前、旅の方に習った人間が行う懇願のマナーだと。あ、あれ? ルビー、間違いましたか!? あっ! もっと裾を持ち上げるのですか!?」



「ルビーちゃん。合格です!! さあ、オペペペラへどうぞ!! 仲良くしましょう!! もうね、そこに世間知らずの天然キャラまで持って来られたらね、わたしだって考えがあるよ! ちょっと変態でも好きになる!! だって可愛いもん!!」

「うへへっ。嬉しいです。よろしくお願いします、紗希様!!」



 ちょっとゲスにはにかむルビーを見て、紗希は焼け焦げる大地に崩れ落ちた。

 続けて、思った。


 「もしかしたら。わたしもかなりバカなのかもしれない!!」と。


 バカばっかりのルワイフル。

 楽しいスローライフへの道をまた一歩。


 正しいかどうかは判断に迷うが、着実に前進している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る