第17話 轟くオペペペラ砲とみんなで焼き土下座

 目的が決まればあとはそこに向かう方法の選定。

 何やら獄炎の精霊郷は大炎上中なので、ここはスピード重視。


 すぐに実現可能な作戦を採択すべきと考えるのが来海紗希艦長。


 だが、彼女はルワイフル観光歴3日と少し。

 現地民たちの有益な意見に耳を傾けるのが最短ルートであると彼女は理解している。


「はい! という訳で、会議します!! ルビーちゃんを助けます!! 意見がある人は挙手!!」


「フハハハハハ!!」

「くっ! 私だって!!」


「はい! ルッツくん早かった!!」


 どうして大喜利システムで会議が行われているのかは分からないが、第一発案権をゲットしたのはルッツリンド。

 とりあえず一歩遅れたラミーを見下ろして「無様だな!!」と一言。


 手鏡の角で殴られるまでの一連の流れをこなしたのち、彼は言った。



「造作もないことよ!! このオペペペラで全てを焼き尽くすのだ!!」

「はい。ありがとー。では、ラミーさん!!」


 座布団を持って行ってもあげない紗希ちゃん。



「いや! 待て、紗希!! 今回の私の意見は理にかなっている!! 聞いてくれ!! このリリンソン皇国が第一皇子!」

「あー。もぉ。分かったよー。君は張り切るとそれ言わなきゃダメなの? わたしがバイトしてたネコカフェにもいたよ。おトイレに行くときにさ、にゃー!! って鳴く子。可愛かったなー。先に言っとくけど、ルッツくんは別に可愛くないよ? で? なに?」


「あ。はい。あのですね、獄炎の精霊って体がバラバラに砕けても、放っておくとそのうち元に戻るんです。フハハハハハ!!」

「え。なにそれ。怖い」


 ここで同じ精霊族のラミーも参戦。

 既に苦い顔をしている。


「うぅ……。まさかリリンソンと同意見だとは。屈辱だ」

「そうなの!? ラミーさん、ついに覇者属性になっちゃったの!?」


「なっていない!! むしろ、この小賢しいリリンソンが私の意見にかぶさって来たんだ!! ……獄炎の精霊は見た目通り、魔力を帯びたマグマや溶岩の類で構成された生物。魔力さえ消えなければ、自然と体は復元される。つまり、争いを一時中断させて話を聞かせるためには、今回につき一撃必殺の攻撃による停戦が望ましいと言えてしまう。屈辱……!!」


 紗希は「ふんふん」と頷いてから、とりあえず確認した。


「ラミーさん!」

「なんだ?」



「今度から、悔しい時はね。くっ、殺せ!! って言ってくれたりする!?」

「どうしてだ!? 私、殺されるのか!? 悔しい時に殺される理由が分からんぞ!?」


 「ちぇー。ダメかぁ。魅力アップだったのにー」と口を尖らせる紗希を見て、「よし! 任せてくれ!!」と何故か笑顔で応じたラミーであった。



 結局、本当に暴力を鎮圧するためにより圧倒的な暴力をもって対応するというなんだか1番やってはいけない方法で落ち着いてしまったオペペペラ。

 だが、赤い髪の少女が待っている。


 ツンデレの可能性があるのだ。

 貧乳でツンデレの可能性がある。


 絶対に船に乗せたい。


 もう紗希の意思は確固たるものになっており、ならば是非もなし。


「ミリアちゃん。オペペペラって攻撃方法が色々あるんだっけ?」

「はい! 熱線で焼き払うタイプから光線で貫くもの! 機銃の雨で蹂躙したり、魔力炉のエネルギーを使った重力砲など! 紗希様のご希望にお応えする殺戮兵器が取り揃えられております!! ふっふっふー!!」


「わー。わたしが殺戮を求めてるみたいになってるー。けど、ドヤ顔ミリアちゃん可愛いー!! これはイーブン!! イーブンです!!」


 何がどうなってイーブンなのかは分からないけども、仮にイーブンだとしても5割の殺戮が行われるのではとルッツリンドは思ったが、口には出さない皇子。


「んー。あんまりさ、持続的に苦しいのは嫌だなー。ほら、インフルエンザの検査の時さ、穴に棒を差し込むじゃん? あれって、時々すっごくじっくり入れて、グリグリ中をねぶってさ。もぉー無理ぃ! って、涙が出始めるまで虐めてくる看護師さんいるでしょ。わたし苦手なんだよねー。だったら、一瞬で奥までズボッといれて、ピュッて出してくれる方がいいもん!!」


 ルッツリンド、ミリア、ラミー。

 3人とも紗希が何を言っているのかは分からなかったが、感想は一致していた。



 なんかエロい。



 という訳で、最も強力な武装である主砲。

 オペペペラ砲の充填が開始された。


 あと「インフルエンザって多分エッチな言葉だ」とルワイフルに間違った事実が伝わった瞬間でもあった。

 予防接種はお済みですか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 オペペペラの前方部が変形し、長い砲門が伸びてくる。

 「あ。なんか象さんの鼻みたいで可愛いかも」と紗希が思ったのもつかの間、ミリアが報告する。


「オペペペラ砲! エネルギー充填率50パーセント!! 既に発射可能域に到達です!! どうしましょうか、紗希様!!」

「うぇー? 分かんないからなぁー。ルッツくん? 5割で撃って効果ある?」


「フハハハハハ! 試しに撃ってみるが良い! 全ては経験だぞ、紗希! きっと新しい興奮が貴様を待っている!!」

「……なんか嫌なフラグが立ってない? でも、そうだよねー。いきなりフルチャージで撃って大惨事ですって嫌だもん。じゃ、ミリアちゃん! お願い!!」


 ミリアが可愛く敬礼した。


「オペペペラ砲! 目標、獄炎の精霊郷の中央モニュメント!! カウントダウン省略します!! ……発射!!」


 バォォォォンと獣の咆哮のような轟音がしたかと思ったのもつかの間、次の瞬間には獄炎の精霊郷は跡形もなく消し飛んでいた。

 思うとつかの間で何かが起きる、それが異世界ルワイフル。


 テンポが良くてよろしい。


「ええ……」

「フハハハハハ!! どうだ! これが圧倒的なパワー!! 我がオペペペラが誇る主砲の威力よ!! 紗希! 虜になったであろう!!」



「うん。ルッツくんとは価値観が合わないかな」

「えっ」



 とりあえず、やっちまった事は確定した。

 やっちまったと立ち止まり、後悔で数歩下がるのは三流のやり方。


 アルバイトで数々の失敗を積み重ねたのち、女子高生バイト界の頂点を極めた紗希は未来を見据える。


「ミリアちゃん! 着陸しよう!!」

「お墓を建てるんですね! さすがです、紗希様!!」


「ねぇ? みんながやれって言ったんだからね? 最終決定したのはわたしだけどさ。万が一の時は、全員を投げ飛ばした後でわたしも責任取ってあそこの焼け焦げたマグマで土下座する。けど、その前に全員投げ飛ばすからね?」


 再びクルーの意思が結束する。

 「どうか無事でいて欲しい。キモいマグマの生命体たち」と。


 厳かに祈りながらオペペペラは地上へと降りて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うへぇー! 熱いし暑いー!!」

「現在地の気温! だいたい58℃です!」


「うん。なんでわたしは生きているのかな? みんなはもうあれでしょ? 異世界ムーブでしょ? このくらいルワイフルでは日常だー。みたいな」

「フハハハハハ! 紗希に奪われたマント! それは極寒の氷棺でも、灼熱の火山でも適応できる魔法のマントなのだ!! 精霊王がくれた!!」


「わー! そうなの!? 伝説のアイテムキター!! ……ちょっと。奪ってないよね?」

「はい。すみません。私が自分から差し上げました」


 ラミーがモニュメント近くで全員を呼んだ。

 「紗希が狙っていた少女を発見したぞ!!」と。


「人聞き悪い! けど、無事で良かったー!! さー! ツンツンされよー!! こんにちはー!!」


 獄炎の精霊郷で生まれた少女。

 炎髪のルビーは目に涙を溜めてから答えた。


「お、お父様が……! 消し炭になってしまいました……!!」

「はい! みんな! 土下座するよ!! 口だけの謝罪は無意味! 痛みを伴う謝罪こそ意味がある!! 並んでー!! わたしは最後にツンデレキャラと見せかけた、つり目で気の強そうなお嬢様っ子を見られて満足!! 白のプリーツスカート可愛い!! 悔いなし!! 健康的な太ももを見ながら逝こう!!」


 全員で仲良く焼き土下座。

 かと思われたが、地面からボコッと赤く燃え盛る腕が生えてきた。


「あっ! みんなストップ!! まだ判断できなかった!! ちょっと待とう!!」

「フハハあっつい!! ああああああ!! えっ!?」


 ルッツリンドにだけ指示が間に合わなかった。

 しかし、覇者は特殊な訓練を受けているので多分問題ないはずである。

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