第16話 遠のくスローライフと新しい女の子発見!!

 とりあえず責任の所在を明らかにしたところで結果が変わるわけでもなく、事態が好転するわけでもない。

 むしろ、今は責任者を磔にして石を投げている場合じゃない。


「と、とにかく! 暴動を止めなきゃだよ!! わたしのルワイフルスローライフ計画が!! やだよ、わたし! 血と硝煙の香り漂うハードボイルドな異世界!! なんか役に立たない魔法とかを使って、精霊とか妖精とか、可愛い子に囲まれて! モフモフしたモンスターとかと楽しく過ごしたいのにぃー!!」


 とりあえず希望を全て吐き出した紗希は、冷静さを取り戻した。

 彼女は異世界に落ちてきて5分で状況を受け入れ、おにぎり食ってた女子高生。


 自分のメンタルが起こす暴動は鎮圧させる術を心得ている。


「はぁ。嘆いたところでだよねー。どうしよ? 1番規模の大きいとこに行く? それとも、距離が最短のとこからかな?」

「……すごいですね、来海さん。僕だったらとりあえず布団かぶって3日くらい寝るのに。それで、夢だったら良いなって起きてきてからの絶望。状況を受け入れるには3週間は欲しいです」


「だって仕方ないですよー。わたし、結婚式場のスタッフのバイトしてたことあるんですけど。お客様のお洋服にワインこぼしちゃった時に動転してあわわわってなるより、すぐに謝って染み抜きした方が被害って少ないんです。理解するまでは大変だし、パニックになる気持ちも分かりますけど、悔いが残ると何年たっても引きずっちゃいますし」


 バイトマスター来海紗希の持論に感銘を受けた畑中紀夫。

 彼は頭を下げて、申し出た。



「来海さん! 僕と一緒に、商売を始めませんか? うち樹の裏に井戸があるので、その水を汲んで元気が出る水として高額で民に売りつけましょう!!」

「えーと。畑中さんも結局ダメな人枠だったんですねー。あ。ラミーさんが鏡振りかぶってるから、わたしからは特にないです!!」


 このあと、もう一発ほど畑中氏は鏡の精霊に気合を注入されました。



 紗希たちは最長老の樹を後にして、オペペペラに向かった。

 畑中2代目最長老はこの地に残り、常時オペペペラと通信が可能な状態を維持しつつ後方から情報支援を担当する事に。


 ひっそりと優秀な分析官をゲットして、ますます無敵要塞感が増したオペペペラ。


「フハハハハハ! よくぞ戻った! 皆の者!! 既にオペペペラは航行可能である!!」

「おっ! ルッツくん、偉い!! じゃあ、早速出発!!」


「目的地はいかがする? 人魚の住まうメルメル湖にするか?」

「なにそれ! ちょー行きたい!! って、ダメだよ!! とりあえず、近くの暴動を鎮圧するの!! ここ! バゴンダってとこ!!」


 ルッツリンドが露骨に表情を曇らせ、ラミーはずっとうつむいている。

 いつものようにミリアが元気よく説明した。


「バゴンダは獄炎の精霊郷があります!!」

「あっ。それってあれかな? 豪快で豪胆な、戦いと酒を愛する、ガチムチ獄炎の精霊さんがいるとこ?」


「はい! さすが紗希様!! 記憶力も素晴らしいです!!」

「……ミリアちゃんじゃなかったら、煽られてるのかなって思うかもだよ。うん。じゃあ、その暑苦しい精霊郷に向かって出航で」


 ミリアが自動航行のプログラムを入力し終えると、オペペペラは120度ほど回頭してエンジンを稼働させ始めた。

 こうなると、心の準備よりも先に現場に着くのがオペペペラ。


 「やっぱさー。面倒なキャラの特徴が前触れもなく出てきたら、覚悟と、そのうち出て来るんでしょって心構えは必要なんだよー」と、有識者の来海紗希は持論の信憑性を自分で深めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 獄炎の精霊郷は地獄の様相を呈していた。

 辺りからは火柱が立ち昇り、火山が2つほど噴火中。

 体から炎を発しているマグマの塊のようなちょっとキモい(紗希談)生物がそこかしこで殴り合いをしている。


「あれ? 縄張り争いしてるのかと思ったけど、みんな同族だね? 身内で喧嘩してる?」

「フハハハハハ!! 獄炎の精霊は皆が血気盛ん!! 日課は己の実力を誇示するための暴力!! 1年のうち8割は争いに従事して過ごす者よ!!」


「ええ……。なにそれ、もうダメじゃん。理由なき暴力がライフワークとか、話し合いの余地ないじゃん。争いに従事とか、最低最悪だよ」

「フハハハハハ!! 然り!!」



「ルッツくんさ。そこにわたしを案内しようとしてたよね? 忘れてないよ? 一昨日のことだもん。ねね、どーゆうことか説明してくれる?」

「フハハハハハ! フハハハハハ!! ……すみませんでした」


 「ごめんなさいをするなら早いうちに」とは、ルッツリンドが紗希から学んだことの1つである。



 オペペペラは精霊郷の少し外で待機中。

 近づくと間違いなく新しい争いの火種になるからである。


「どうしよ。でも、これが日常ならわたしたちがしゃしゃり出て、おヤメなさい!! って言うのも違う気がするよねー」

「まあ、獄炎の精霊ボルケノフはギリギリ知性があるからね。よその精霊郷だったり、集落や街を襲うってこともないと思うし。放置して、他の現場に行くのも手だと私は思うよ」


 ラミーの言う事には筋が通っていた。

 動物には優れた雄である事を雌に証明するため、争う習性を持つ種類も多い。

 そこに人間が割って入って「ヤメなはれ!!」と叫ぶのはある種エゴとも言える。


 獄炎の精霊郷も数千年前から存在しているとミリアが補足説明をすると、紗希はそう考えるのがより正しいように感じ始めた。


「じゃあ、一応様子だけ見て、問題ない感じだったら次に行こっか。ミリアちゃん、詳しい映像とか出せる?」

「はい! 超スコープがあります!! 10キロ離れた女子のスカートのしわまでバッチリ見えます!!」


「すごい!! わたしね、プリーツスカート好きなの!! どこかでプリーツスカートが装備になってる女子の軍隊とかないかな!?」

「……紗希?」


「はっ!! ごめんなさい!! あらやだ、ヨダレ出ちゃってた!!」


 ラミーのたった2文字の言葉で我を取り戻す艦長。

 女子高生にしておくには惜しいメンタルである。


「映像出ます!! 紗希様の気になる場所があればご指示ください!!」

「はーい。ありがとー。うへぇー。みんなガチ殴りじゃんかー。怖いなぁー」


 暴力的な獄炎の精霊郷の様子を見て、顔を引きつらせる紗希。

 その後ろで、ひそひそ話をしているルッツリンドとラミー。


「おい。リリンソン。お前の作った妙なルールが撤廃されたが、紗希の強さはどうなる?」

「フハハハハハ。紗希はヘモーニャによって無双状態だった私をギャン泣きさせるまで投げ飛ばした乙女だぞ!! 普通にルワイフルで最強であろう!!」


 速報。来海紗希の暫定王者は揺るがず。


 そんな最強の女子高生が「あああー!!」と声を上げた。

 全員がビクッと背筋を伸ばす。


「どうされましたか?」


 ミリアはまったく動じず、艦長の意を尋ねた。

 紗希艦長は興奮気味であり、「可愛い女の子でも見つけたのでしょうか?」とミリアは推理する。


「あの子!! 赤い髪の女の子!! ちょー可愛い!! しかもプリーツスカートだぁ!! って、そうじゃないよ!! 危ないじゃん!! なんであんなガチムチに囲まれて可愛い女の子がいるの!?」

「えとえと、お待ちください! こちらオペペペラです! ノリーオ様! 映像を送りますので、このちょー可愛いプリーツスカートの女の子がどなたなのか、解析をお願いします!!」


 すぐに応答がある。


『こちら最長老の樹。ノリーオです。その子は名前ルビー。年齢は15歳。種族は獄炎の精霊になっています』

「えー。ってことは、あそこのガチムチさんたちが作った子なの!? いや、そういう設定もあるけどさー。なんかわたし、あんまり好みじゃないんだよね。だってガチムチさんが理性のない本能に身を任せたセック」


「のののの、ノリーオ様!! もっと情報ください!!」


 ミリアがナイスセーブを見せる。

 ノリーオリポートの捕捉が行われた。


『データによると、獄炎の精霊は宝玉に魔力を宿して子を作るようですね。現在そちらの精霊郷の女子はルビーさんだけのようです』


 紗希はマントを翻して、手を挙げた。


「ルビーちゃんを救出します!! 赤い髪の子はツンデレでいて欲しい!! 余計なことしないでよ! って怒られるのも、気まずそうに、あんたに頼んでなんかないし! って照れられるのもご褒美です!! ガチムチの精霊の暴動、鎮圧します!! オペペペラ、発進!!」


 力を誇示する種族を手っ取り早く説得するには、より強い力を誇示すれば良い。

 こちらの戦艦、無敵要塞オペペペラと申します。


 暴力的な破壊の力ならお任せなのである。

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