第13話 最長老の樹 ~ご挨拶の前に玄関先で物損事故~
オペペペラの艦橋では、次の行先について話し合いが行われていた。
当面の目標はルワイフルのより安定した平和の確立。
恒久的な平和など存在しないというのは悲しいかな、どの世界でも歴史が証明を済ませてしまっている。
だが、数百年か、何なら数十年でも良い。
平和で穏やかな時間を維持する事ができれば、いずれ瓦解する時が来たとしても無意味であると誰が言えようか。
その間の人々の生活は代えがたいものであり、生まれて来る多くの笑顔は世界が滅びようとも色あせない。
そんな訳で、まずは行動指針を決める必要がある。
「お前! ふざけるなよ、リリンソン!! 紗希に従属したのは私が先だ!! ならば、朝食を作るのも私が先だろう!! 引っ込んでいろ! この変態が!!」
「フハハハハハ!! 愚かなり、鏡の精霊!! 紗希とこの世界で最も長く時を過ごした偉大なる男の名を知らぬのか!? フハハハハハ! それはな! ルッツリンド・リリンソン!! リリンソン皇国の第一皇子にして、ルワイフルの元覇者!! 今は来海紗希率いる、無敵要塞オペペペラ最強の副官よ!! 下がるのは貴様だ! ラミー!」
高次元の平和を求める無敵要塞オペペペラ。
既に争いが勃発していた。
「なんでお前が副官なんだ!! バカのくせに!! そもそも紗希は可憐な少女だぞ! おっさんが隣に立つな! ビジュアルが穢れる!!」
「残念だったな! 私は紗希と同い年だ! あと相手を貶すのにバカしか言えんとは! 紗希と先を散々繰り返して、何のアピールだ! 頭の悪さは優劣がついたな!!」
「は? 違いますぅー! 紗希が言ってましたぁー! 人間じゃない種族の綺麗なお姉さんとかマストだよねって! それ聞き逃してる時点でバカはお前ですぅー!!」
「私もリリンソン皇国の者なので、広義の意味では人間じゃありませんー! そもそもルワイフルに精霊は山ほどいますぅー! リリンソン皇国の第一皇子は私だけですぅー!!」
不毛な争いが続く中、来海紗希艦長はニッコニコのご満悦であった。
そこに朝食を持って来たのはミリア。
彼女もルッツリンドに並んで、紗希とルワイフルで過ごした時間はほぼ同じの最長タイ記録保持者。
「あのあの! 紗希様! いいのですか? なんだかお二人が紗希様を巡って、ガチめに争っておられますが!!」
「うんうん! ……わたしね、ゲームとかのヒロインに転生しました系って、異世界ものに含めて良いのかなーってずっと悩んでたの。けどね、ミリアちゃん! チヤホヤされるのって、これ! 思ったより気持ちいいんだよぉー! うへへー」
これまでの人生を希薄な人間関係と達観した価値観で生き抜いてきた紗希。
ここに来て、急にあっちこっちで存在を求められ始めた結果。
「やー。もぉ、どうしよっか? ねー! わたし、みんなの紗希なんだけどなぁー!! ふへへー!! 困るなぁー! もぉー!!」
オタサーの姫みたいになる。
作戦会議どころか、理性までどこかに飛んで行ったオペペペラ。
これでは話が進まない。
と、思うのは早計である。
とっても賢いロリっ子がトテトテと端末に向かい、ピコピコと操作して目的地を設定してから再びトコトコと紗希の元へ帰って来た。
その動きは大変可愛らしく、「うん。やっぱミリアちゃんしか勝たんね」と紗希が冷静さを取り戻す。
「ミリアちゃんが操縦してくれるの?」
「ほわわわわわ! オペペペラは基本的に自動航行です! けれど、行先の指定もできるのです!」
「そだそだ! 鏡の精霊郷に向かうって時もそんな話だったね!」
「とりあえず、モコン界の最長老様が住まわれる場所を指定しておきました! ルッツリンド様は知能が少し低下されましたし! ラミー様は精霊郷に引きこもっておられましたので! 最新の知識を仕入れるのが良いかなとあたしは思ったのです!! ほわわわわわー!!」
「ミリアちゃんは頭が良いし可愛いし、抱き心地は最高だし! んー!! 現実にはこんな子いないもん!! 非実在ロリ巨乳!! 最高だなぁー!!」
ミリアを膝に乗せてさらにご満悦な紗希。
その様子を見ていたルッツリンドとラミーはアイコンタクトを交わす。
続けて、歩み寄りを見せた。
「フハハハハハ! 鏡の精霊ラミーよ! 貴様は私の最大の敵ではないようだ!!」
「こっちのセリフだ! ミリア……なんと恐ろしい……!! バカに構っている場合ではないと理解した!」
どの世界でも、いつの時代でも、小さくて可愛い子が頑張る姿を見れば平和は簡単に構築されるのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
モコン界の最長老。
名前はノリーオ・バターケと言うらしい。
人里離れたモコン界の中でも、さらに僻地に住むルワイフルの歴史書と呼ばれる老人。
だが、オペペペラには普通にノリーオの住まう最長老の樹の座標も登録されており、どんなに人里離れてもこの無敵要塞からは逃げられない。
「紗希様! あと15分で到着します!!」
「はーい! ありがとー! ミリアちゃん!」
副官ポジションを獲得したミリアが告げる。
鏡の精霊郷からたった1時間で到着してしまう、この世界の最重要スポットの1つ。
どうしてこんなチート要塞をルッツリンドに与えたのか。
まずはそこのところを問いただしたい。
「フハハハハハ! 見よ、紗希!! あれが最長老の樹だ!! 見事な巨木であろう!! あれは私にも分からぬ謎の力が付与されているらしくな! オペペペラの主砲を試し撃ちしても傷ひとつつかなかったのだ!!」
「ええ……。なにしてるの、ルッツくん。君はちょっと礼儀作法のお勉強が必要だね。第一皇子だっけ? きっと帝王学とか優先して、甘やかされてたんだろうなぁ」
ルッツリンドは肩を落とした。
その落ちた肩を嬉しそうにバンバン叩くのがラミー。
「残念だったな、リリンソン! 私の知らない情報でマウント取ろうとしたみたいだけど! 策に溺れたな!! ふふふっ! やはりバカな男など取るに足らない! 私の敵ですらなかった!! なあ、紗希! クッキー食べるか!?」
「ええとー。ラミーさん?」
「ああ! なんだ!?」
「ごめんね? あの、悪気がないことは分かってるんだけどね? ……もうお腹いっぱいだよ。クッキー、50枚くらい食べたもん。しばらくいらないかなー」
「なんだと……」
「あ! 違うんだよ!? わたし、二面性キャラも好き!! ただ、あのー。ルッツくんがもう、わたしのファーストがっかりは奪ってるんだよね。初登場時の謎の男感から、変態への流れで。ラミーさんはずっと頼りになるお姉さんキャラでいて欲しかったなー。なんて! あははー」
ラミーが崩れ落ちた。
落下地点には既にルッツリンドの亡骸がある。
「ふ、ふ、フハハハハハ。引き分けのようだな。鏡の精霊ラミーよ」
「黙れ。私の方が……くそっ。ほら。食え。クッキーだ。勘違いするなよ。私だってもう正直食べ飽きていたんだ」
この2人の仲が1番早く深まりそうである。
「紗希様ー!! オペペペラ、着陸します!! このまま降りてもよろしいですか?」
「どうだろ? 分かんないけど……。意見を聞きたいときに頼りになる人たちがなんか、後ろの方でスライムみたいになってるんだよー。いいや! 降りちゃえ! きっと最長老って言うくらいだから、笑って許してくれるよ!!」
「はい! かしこまりました!!」
ミリアの手動操作でオペペペラは降下していく。
ゴシャッと音を立てて最長老の樹の太い枝をへし折ったのはその数秒後のことだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほわわわわわ……。すみません、すみません!!」
「平気だってば! 気にしない、気にしない! ミリアちゃんは悪くないよ!」
責任を感じて「あたし謝りに行きます!!」と涙目で紗希にくっ付いてきたミリア。
「フハハハハハ! ミリア! 株を落としたな!!」
「ルッツくん。うるさい」
「……危なかった。私もマウント取りに行きそうになってた。セーフ」
一行が大木の根元に歩いて行くと、そこには黒い髪を腰まで伸ばした男が立っていた。
どう見ても30代後半。
下手するとルッツリンドよりも若く見える。
「あ、最長老さんかな? ごめんくださーい!!」
「何をしてくれるんじゃい! このアホたれどもがぁ!!」
最長老はガチギレだった。
紗希は「ルワイフルの人ってカルシウム足りてないのかな? 怒りっぽいよね? 初登場時にキレてる人、多くない?」と、いつも通り失礼な第一印象を抱いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます