第12話 無敵要塞オペペペラの新艦長・来海紗希!! ~自分で作る、理想の異世界スローライフ小説!!~

 鏡の精霊郷に招かれた来海紗希。

 ラミーとの対談は3時間にわたり続けられ、その結果この2人は。


「なるほどな! 私たち精霊も異なる時空世界が存在することは把握している。しかし、紗希の世界ではそこまで多元世界の研究が盛んなのか!」

「研究って言うか、創作ですけどね! でも、創作も千になれば真実を捉えるものもあるかもですし! 万を超えれば確率アップですし!! 実際にわたし、異世界に来ちゃいましたし!! あ、このクッキー美味しい!!」


「そうか! 私が作ったものをことごとく褒めてくれるな、紗希!!」

「強くてカッコいいお姉さんが家庭的とか! もうそれだけでご褒美なんで! メシマズでも全然イケるんですが、メシウマだともう隙がないですね!!」


「はははっ! 半分は何を言っているのか分からないが、楽しんでくれているようで良かった! 私もそこのリリンソンが来てからは暇だったからな。紗希との話はとても面白い!」

「私もです! お年が29歳とか、リアル寄りのパターンも親近感!! ルワイフルのお姉さんができたみたいです! あははっ!」


 非常に良好な関係を築いていた。


 ルッツリンドと一緒に紗希の「なんか知らんが強そうだし、理性的なのかそれを装ったサイコパスなのか分からんのも怖い」と同調していたのだが、バカなルワイフルの覇者が「フハハハハハ! 隙を見せたな、ラミー!!」とか言って火球を投げつけた瞬間に紗希が愚か者を一本背負いで黙らせた。


 結果として、この行動がラミーの中の迷いを消し去さる。


 「ああ。やっぱり普通の常識的で理性的ないい子だ、この娘」と判定が下り、そもそも強い変態と凄まじく強い乙女では迷う必要などなかったのではと少しばかり増長していた自分の懐疑心を恥じた。


 なお、懐疑心の生みの親であり、来海紗希とラミーにとって友好の懸け橋でもあるルッツリンドは現在、隣のテーブルで出涸らしの紅茶と数日前に作ってそのままになっていたクッキーを与えられている。


 「まあルッツくんはバカですけど、悪い人ではないので。許してあげてください。またバカなことしたらわたし、すぐ投げますから!!」と笑顔を見せる紗希の懐の深さに、ラミーは感激したという。


「それで紗希は自分の世界に帰る術を探しているのか?」

「あ、いえ! しばらく観光したいなって! マックス10年までは想定内です!!」



「ええ……。お前、転移して来たの2日と少し前だろう? なんだその肝の座り方」

「フハハハハハ! 分かる」


 紗希の価値観によって、こちらの犬猿の仲も少しずつ改善される優しいシステム。



 それから紗希は例によって「現世に未練がない旨」を明るく伝えた。

 人間社会についてそこまで造詣が深い訳でもないラミーは「なるほどな」とすぐ納得した。


 1度開示した情報の説明は回数を重ねるごとに簡略化されていく。

 「そういうものなんです!」と、クッキー食べてる有識者が語るので、そういうものなのである。


「ふぃー!! 美味しかったぁ! この世界の食べ物、どれも違和感なくて助かります!! あ、わたし割とゲテモノもイケるんです! 虫とかも! 見ます?」


 スマホに何故か保存されていたイナゴの佃煮の画像を見せた瞬間、「ひっ! や! もう充分だ!!」と身を縮めてプルプル震えた鏡の精霊なお姉さん。

 紗希はその姿を見て確信する。


 「あ。推せる」と。


 ならば行動は早い。


「ラミーさん! 一緒に観光しません? 今ってお暇なんですよね? ルッツくんの作った謎縛りのせいで!」

「あ、ああ。ヘモーニャがルワイフルに干渉している限り、リリンソンのヤツかそれ以外の者かで明確に優劣が産まれているからな。加えてオペペペラ。その2つの存在が抑止力になっているため、争いは起きていない」


 やり方に疑問は山盛りであるものの、一応の平定は保たれているルワイフル。

 調停役をしていた精霊たちは大半が特にやる事もなく、日々を過ごしているという。


「んー。けど、強制的な平和ってどうなのかなーって。あと、システムがまだ分かんないですけど、例えばルッツくんがわたしにうっかり殺されたとするじゃないですか?」

「え゛え゛んっ!?」



 平和の終焉に「自分のうっかり過失致死傷」を喩えに出してくる女子高生。

 急に生まれた命の危機の可能性に、ルッツリンドの心臓が早鐘を打つ。



「そうなったらですよ? ヘモーニャってどうなるんでしょう? 次点がいないって事は、全てのルワイフルの人がフラットな力とか権力とかを持って、むしろ争いが活性化するんじゃ? だったら、ルッツくんがうっかり死なないうちにきちんとした平和の整備を確立させるべきかなーって!」

「紗希……! お前はほんの少ししか過ごしていないこの世界を、そこまで真剣に憂いてくれるのか!? ……確信したぞ! 紗希! お前こそがルワイフルの救世主、王になる資質を持つ者だ!! 鏡の精霊ラミーはここに誓おう! 紗希! お前の覇業の役に立つことを!!」


「ええっ!? そんな大げさな! わたし、ただ異世界スローライフに憧れてるだけで! なんかルッツくんの独裁制も脆弱だし、貴重な経験の邪魔だなーって思っただけですよ?」

「良いじゃないか、スローライフ! 気の済むまで堪能して行け! ルワイフルは医療と美容の分野がこの20年で急速に発達してな! これも別時空の世界よりもたらされた技術によるものらしいが! 人間でも200年くらいは生きられるし、見た目も50年くらいは若いままだぞ!!」


「なんですか、それ! すごい!!」



 急激に楽園の要素が爆上がりしていく異世界。

 どこの穴に落ちたら行けるのか。是非教えて頂きたい。



「つまり、紗希! お前がルワイフルを統べる事も可能! むしろ私はそれを推したい!!」

「えー? そんなそんなー! ダメですよー! わたしはあくまでもファンなのでー! ええー!? ダメですってばぁー!! 読むの専門なんですってぇー!!」


 どう見てもあとひと押しで落ちる紗希。

 ラミーが押した。



「では、覇業を果たした後で紗希が自分の活躍を本として残すのはどうだ? まさにお前の理想のなんだ、ああ、異世界転移ものとやらが作り出せるのでは?」

「それだぁ!! ラミーさん、すごい!! そっかー! 書いちゃダメってことはないですもんね! わぁ! 盲点だったなぁ! じゃあ、頑張りますっ!!」



 来海紗希のルワイフルにおける目的が定まった瞬間であった。


 なお、ルッツリンドは「あれ。これ最終的にどこかで私、殺されるのでは?」と、無駄に回転の速い頭脳の存在を呪いながら、過呼吸で静かに意識を失った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 6時間後。

 オペペペラの艦橋では、マントを羽織った女子高生が司令官席に座っていた。


 鏡の精霊ラミーも乗船済み。


「という訳で! ルッツくんもなんか納得してくれたし! みんなでルワイフルを住みやすい環境に整えましょう!! がんばろー!!」


 ルッツリンドは自発的にオペペペラの指揮権を紗希へと譲渡としていた。

 「とりあえず紗希。こいつこの場で殺すか?」とラミーが確認したのが1時間前。


 事実、ルッツリンドを殺す条件は整っていた。


 圧政気味の平和を作ったせいで反感を持つ者は多い。

 来海紗希という「異世界大好き女子高生」が優れた統治者になりそうな気配。

 さらに本人にまったく野心がなく、心配になるくらい平和主義な点。



 もう変態覇者はいらないと判断される材料が売るほど揃ったのだ。



 だが、紗希は言う。


「ダメですよー! ルッツくんも頑張って平和を目指したわけですし! バカですけど! それに、こっちに来たばかりのわたしを助けてくれましたし! バカですけど!! バカなだけで割と功労者な面も評価してあげないと!! ね? ルッツくん! 君、バカなだけだもんね?」


 その瞬間、ルッツリンド・リリンソンは悩まされていた激しい動悸と呼吸の乱れの原因を知るに至る。

 彼は心の中で短く呟いた。


 「あ。私、この娘を愛しておるわ。フハハハハハ」と。


 彼は老け顔だが17歳。

 17歳の男子が17歳の女子を好きになったら、もうそれは降伏宣言なのである。


 来海紗希は綺麗なお姉さんと、バカだが悪人ではない副官をゲットした。

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