第11話 精霊のお姉さんは美人で、できれば穿いてない方が良い。だって精霊だもの。(来海紗希さん個人の感想です)

 静かに鏡の精霊郷へと降り立った無敵要塞オペペペラ。

 ラミーは郷の長として、地上で迎撃態勢を整える。


 しばらくすると、見覚えのある憎き男ルッツランド・リリンソンが現れた。


「ま、待て! 紗希!! 待て!! なぜ私を拘束したまま!? これでは攻撃されてしまう!! 言っておくが、鏡の精霊ラミーは強い!! 私の力をもってしても互角なのだぞ!!」

「あのね、ルッツくん。謝罪するのに強いとか弱いとかないの!! ほら、歩いて!!」


 少女に怒られながら。


 ルッツリンド・リリンソンは強い。

 ルワイフルに転移してから、身体を鍛え魔力を高め、元から優位にあった能力の研鑽にも余念がなかった。


 だが、完全無欠と言う訳ではなく、目の前にいるラミーをはじめ、ルッツリンドと対等に渡り合える猛者はそれなりに存在した。

 ゆえにヘモーニャとか言うクソ要素をオペペペラで生成して、やりたい放題できる環境を作り上げたのである。


 そんな仇敵を片手で捕まえてニコニコしている、低姿勢の少女。

 防御力なんてまるでなさそうなミニスカートがむしろ怖い。


「あはは。こんにちはー。はじめましてー。先ほども名乗りましたが、来海紗希と申しますー。手土産も用意せずに来てしまいまして。事情を知ってたらちゃんと準備したんですけど。ええと、ラミーさんでよろしいんですよね?」



 もはや一挙手一投足。

 言葉の1つが全て罠にしか見えない、鏡の精霊ラミーさん。



「な、何の用だ? いや、謝罪と言うのは聞いた。真の目的を聞きたい」

「へっ? あ、いえいえ! 最初は精霊さんを見てみたい、あわよくば鏡のお姉さんの匂い嗅ぎたいというほんの可愛い好奇心だったんですけど、ルッツくんがもうあり得ないセクハラしてたので! とにかくお詫びしなくちゃと! こういうテンプレ的なハラスメントは時代も変わって、コンプライアンス的にアウトですし。ほら! ビキニアーマーとか、昔は女戦士の正装的な感じだったのに、今じゃあまり見かけませんもんね!!」


 ラミーには紗希の言っている事が半分以上理解できなかった。

 だが、少女からは誠実さを感じ取る事ができた。


「よ、よし。紗希と言ったな? 話を聞こうじゃないか。私は鏡の精霊郷の当代の長。ラミーだ」

「わぁぁぁ! すごい!! 神秘的!! えー! どうしよ!! ファースト精霊さんだよー!! すみません! あの、失礼を承知で、ダメもとで!! 無理なら無理って言ってもらって全然平気ですので!! なにか、能力見せてもらえませんか!?」


「え、ええ!?」

「あ、もう何でもいいんです! 記念に! 記念にしたくて!!」


 友好的な関係を築くためには、相手の要求を受け入れる事も必要であり、割と手っ取り早い方法でもある。

 特に交渉のテーブルについた相手が申し出て来たのならば、もちろん内容にもよるが、リスクが低ければ応じるメリットは大きく、拒否した場合のデメリットもまた大きい。


 全然リスクは低くなかった。


「いいけど。……なにが見たいんだ?」

「えっ!! リクエストまでオッケーなんですか!? ラミーさん、優しい!! じゃ、じゃあ派手なヤツを!! なんかドカーンってヤツがいいですっ!! せっかくなので!!」


「……分かった」


 やたらと興奮する紗希がラミーをより混乱させるが、「断るのはリスキー過ぎる!!」と彼女の知性が警鐘を鳴らす。

 それに従うことにした鏡の精霊。


 手を空に向けて掲げると巨大な姿見が現れる。


「いくよ! 『ミラー・メテオレイン』!!」


 姿見から次々と光線が放たれ、それは雨のように地表へと降り注ぐ。


「おおおー!! 意外と現代っぽい!! なるほどー! 真実の姿を映す鏡的なヤツかと思ったけど、バトル系な感じだ!! スマホで写真撮っとこう!!」


 鏡から降る光の雨の虜になった紗希。

 思わずルッツリンドから手を離す。


「何をしている、紗希!! 身を屈めろ!! つぁ!! 『リリンソン・グレイトフレイム』!!」


 ラミーに向かって火球を投げつけたルッツリンド。

 それなりの威力なようで、鏡の精霊は慌てて防御に転じる。


「くっ!! やはり油断させてからの攻撃だったか!! そんなことだろうと思っ……た……。けど、違うのか? ああ。違うな。なにそれ、痛そう」



 そこには、紗希にぶん投げられるルッツリンドがいた。



「えっぺしっ」

「何をしてるのかなぁ? 君は!! せっかくごめんなさいしに来たのに!!」


「げっふ、ごふっ! いや、待て! 紗希!! ラミーの使った精霊魔法は街を1つ焼き尽くすほどの威力で!! 私は貴様の身を守ろうと!!」

「えっ、そうなの!? それはありがとうだけど、一言欲しいよ!! ラミーさん、そんなすごいヤツをわたしのために使ってくれたんだから!! もぉ!」


 元から手強かったルッツリンドは、オペペペラを使い世界の理屈を変質させているので、現状ルワイフルでこの男に勝てる者はいないはずなのだ。

 にもかかわらず、なんかぶん投げられて背中を強打した覇者。


「さ、紗希は今、何をしたんだ?」

「あっ! すみません! お見苦しいところを!! これですか? 背負い投げです!! あ! 名前呼んでもらえてる!! しかもクルミに触れてこない!! たはーっ!! これが精霊さん!!」


 なんだか冷静になったラミー。

 というか血の気が引いた鏡の精霊は、よく少女の姿を観察すると、精霊王より与えられた覇者の印たるマントを紗希が羽織っている事に気付く。


 よほど気が動転していたのだろう。

 そんなよく分かる「最強の証」を見落としていたとは。


 ラミーは穏やかな口調で、優しい笑みで、紗希に申し出た。


「あの。お茶でも飲むか? お菓子もあるけど」

「えー!? 良いんですかぁ!?」


「すぐに準備させる。ついておいで」

「わぁぁ! 大変!! どうしよ、ヤバい!! ほら、行くよルッツくん!! なんで寝てるの!? わたし幼馴染じゃないから起こさないよ? あ゛! ラミーさん行っちゃう! 特別だからね! よっ!」


 敵対している者同士の交流を再開させるには、まったく関係のない第三者が介入するとすんなりいったりする。

 その第三者がやたらと強ければ、もう成功は約束された未来も同然。


 ルッツリンドを引きずりながら、いざ精霊郷の観光へ。


◆◇◆◇◆◇◆◇



 精霊たちの町へと案内された紗希だが、足が止まる。


「どうした? な、なにか気に障ったか!?」

「あ、いやー。そのー。大変幻想的でステキなんですけどー。あのですね、ここから床が鏡でできてるじゃないですか? わたし、スカートなので。その、ぱ、パン」


 そこまで聞いてラミーは「ああ」と納得した。


「そうか。下着を見られると羞恥心を抱くんだったか。これは配慮が足りなかった。すまない」


 ラミーがパチンと指を鳴らすと、敷き詰めてあった鏡が薄暗くなり靄がかかったように一斉にくすんだ。

 紗希はすぐに声を上げた。


 当然、お礼。

 であるはずはない。



「あの!! えっ、ラミーさん!! 確認なんですが!! ……穿いてない系ですか!?」


 これを聞かないのが1番のマナー違反まである、紗希の異世界ジャスティス。



「は? ええと、なにを?」

「パンツですが!! パンティーですが!!! ガールズ&パンティーですがぁ!!!!」


 さっきはあんなに恥ずかしそうに言い淀んでいたのに。

 ものすごく良い発音で、女子高生がなんの躊躇いもなくパンツと叫んだ。


「ええ……。は、穿いてるけど……」

「そっちかぁ!! 穿いてるけど気にしないパターンだ!! ぐぅぅぅ!! わたし的には穿いててない方が……!! いやいやいや! けど、よく見たらラミーさん、割とミニスカじゃん! あー! そっちかー!! あー!! 読者の間で、穿いてるか穿いてないか議論が白熱するヤツぅ!! そっかぁー!! そっちかー!!」


 ダンダンと興奮のあまり足踏みをしたところ、紗希の足元にある床の鏡が何枚か割れた。


 ラミーはルッツリンドに近づき、仕方がないので耳元に囁いた。


「おい! なんだあの子!! 情緒不安定過ぎるだろ!? あと、普通に全てを跳ね返す鏡が割れたんだが!! お前! 何を連れて来た!? リリンソン!!」

「違う! 私が連れて来られたのだ!! 言っておくが、紗希はなんかもう、理解しようとすればするほど意味が分からんのだ!! 私に尋ねるな! 精霊の中でも知恵者だろうが、お前は!!」


 ルワイフルの覇者(元)ルッツリンド・リリンソン。

 鏡の精霊ラミー。


 両者が歩み寄りを見せた瞬間であった。

 やはり争いの仲介は圧倒的で意味不明な力に限る。

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