第10話 鏡の精霊ラミーさん、ガチギレ中!!
鏡の精霊ラミー。
ルワイフルに存在する全ての鏡を支配している。
それは時に彼女の目となり、鏡に映ったものはラミーの視覚情報として高画質のテレビを見ているかのように把握することができる。
また、時として耳となり、鏡を通して人々の会話から生活音に至るまでを骨伝導イヤホンのように気軽な感じでキャッチすることも可能。
なお、プライバシーの関係でラミーはその能力の一切を使用しない。
「だって、自分がされたら最悪だろ」とのこと。
戦闘能力も保持しており、鏡と言えばやはり反射。
当然実装されている。
鏡の精霊郷で2000年の長きにわたり魔力を蓄え続けた巨大な鏡を召喚し、質量を持つ物理攻撃、魔力などのエネルギー攻撃、いずれも跳ね返すことが可能。
さらに受けた攻撃を倍返しできるというオプションもある。
見た目は白衣のような装束を纏い、左目にモノクルをかけた学者のような恰好。
銀色のウェーブのかかった髪は大変美しく、紗希いわく「あれは知的なお姉さん枠だねっ!!」とのこと。
「てめぇ!! 出てこい!! このクソ野郎!! 籠城してんならなんで来たんだよ!? 嫌がらせか!? くっそ! 腹立つな!! 待ってろ! 郷のヤツ総出で鏡投げつけてやる!!」
ただし、知性よりも殺意が勝っており、攻撃方法も怒りが抑えきれないせいか原始的でインテリジェンスを感じる事が出来なかった。
「うへぇー。ちょー怒ってるよ。なんであんな美人さんをあそこまで怒らせられるの? ルッツくんはバカなの?」
「フハハハハハ!! 長きを生きる精霊ともあろう者が、たかだか20年にも満たぬ私の人生に敗北したゆえ、八つ当たりしておるのだ!!」
紗希は「あー。はいはい」と頷いて、ミリアを手招きした。
床掃除をしていた彼女はそれに気付くと、ぴょこんと跳ねてから駆け寄って来る。
その仕草は大変可愛らしく、さらに豊かな胸部がポヨンポヨンするので、紗希をほっこりさせた。
「なんでしょうか、紗希様!!」
「うんうん! ミリアちゃんは可愛いねぇ!! 頭も良いし、物知りだし、わたしのナビキャラとして愛したいと思うのだよー!!」
「ほわわわわわ! よく分かりませんが、大役を仰せつかりました!!」
「ああ、可愛い! でさ、ルッツくんは何したの?」
ミリアは紗希の質問の意味を考え、恐らく求められているであろう情報を早口で解説する。
「精霊の力を一般人が借りようとすると、その精霊の長に認めてもらう必要があるのです! 別にルッツリンド様は借りなくても割とお強い状態でしたが、いや、それはならん! そういうのはきっちり回収しておかないと、色々終わった後に拍が付かぬ!! と仰られて、結構積極的に色んな精霊郷を訪問されました!!」
「うっ……!! どうしよう! かなり共感できちゃう……!! 多分、わたしがルッツくんの立ち位置でもそれやってる!!」
「さすがは新旧の覇者様!! それで、鏡の精霊ラミー様は精霊郷に伝わる全てを反射する魔鏡を召喚されて、力を示してみよと仰られました!!」
「くぅぅぅ! 古き良きスタイル!! いいよね! そういう伝統的なヤツ!! どんなに時代が変わっても残ってて欲しい!!」
「それでルッツリンド様はですね!」
「ん? これ、オチが来るのかな?」
ミリアはにっこりと笑って、頷く。
「オペペペラの主砲で魔鏡を粉砕しました!!」
「うん。そりゃ怒るよ。力の示し方が効率厨のそれだもん。きっと伝統と文化と歴史があった魔鏡なんだろうなぁ。30年とかかけて作ったんだよ」
紗希様。2000年です。
「フハハハハハ! オペペペラが無敵要塞であるがゆえ、運の悪かった精霊よ!!」
「んー。んんー。けどなぁ。ギリギリ、すっごくギリギリだけど、これはルッツくんの言い分にも若干理はある気がするんだよねぇー。まあ、オペペペラも君の持ち物だったわけだもん。女神様に授かった伝説の剣で秘奥義繰り出す騎士とそんなに違わない気もしちゃう」
「フハハハハハ! 分かっているではないか、紗希よ!!」
「いや、ほんの少し理解ができるってだけで、わたしは絶対やらないよ? あと、納得もしてない」
腕を組んで考える紗希を見て、モジモジしているミリア。
ロリっ子の変化にはいち早く気付くのが紗希のジャスティス。
「わっ! ごめん、ミリアちゃん! まだ続きがあった感じだ!? わたし、人の話を途中で勝手に納得して理解した気になっちゃう癖があって! ごめんね! 続き、聞かせて!!」
「ほわわわわわ! あとは補足事項なのですが! あまりの高出力に鏡の精霊郷は機能停止して、皆様が3日ほど動けなくなりました!」
「あらら。オペペペラってやっぱすごいねー」
「そこでルッツリンド様は、私の力を見せてやろう!! と申されて、3日間全裸で鏡の前で様々なポーズをとり続けられました!」
紗希の瞳から光がフッと消えた。
今度はルッツリンドに向かって手招きをする。
「ルッツくん」
紗希は手を差し出した。
ルッツリンドは「ほう!!」と嬉しそうにそれを掴む。
「フハハハハハ!! なるほどな! 私と貴様!! 手を組めば最強と最強が合体してより最強の最強が誕生すると言う事か!! あ゛あ゛んっ!! 痛い痛い!!」
ルッツリンド、拘束される。
紗希はミリアに指示を飛ばす。
「ねねっ! なんかさ、外に映像を投影しちゃうみたいな機能ってある?」
「はい! ございます!! 用意します!!」
「おおー! やっぱり無敵要塞!! 痒い所に手が届くねぇ!! ……さて、ド変態くん。間違えた。変態のルッツくん」
「フハハ……。え。あ、はい。あ。すみません。なんか分からないですが、反省してます」
紗希は「ふふっ」と自然に出て来た乾いた笑いのあとで、短く告げる。
「外のお姉さんにもごめんなさい、しよっか。わたしも一緒に謝ってあげるから」
「なぜ!?」
ミリアが準備完了を告げると、紗希は「はあ……」とため息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
鏡を投げつけ続けているラミー。
彼女の前に憎きルワイフルの覇者が立体映像で現れた。
怒髪冠を衝くかに思われたが、ラミーの手が止まった。
既にルッツリンドがげっそりしており、その後ろでは見た事のない少女が申し訳なさそうに頭を下げている。
アルバイト少女の紗希は、「謝罪するなら早く。そして全力で」を旨にしている。
戸惑い気味のラミーに対して、紗希が語り掛ける。
『この変態が大変な失礼をしでかしたと聞きまして、部外者のわたしが差し出がましいとは思ったのですが、同じ女子である以上放置できませんでした!! どうか謝罪の機会を頂けないでしょうか!?』
ラミーは急に知性を取り戻したのか、モノクルをクイッとやってから聞いた。
「ええと。あんたは誰だ? そもそも、そのクソ野郎をどうやって捕まえてんだ!?」
『あ、申し遅れました! わたし、来海紗希と申します! ルッツくんと同じ、別の世界から転移して来た者です!! けど、変態皇国じゃありません!!』
「え゛っ」
ラミーの銀髪が激しく揺れた。
彼女は見た目を裏切らず、頭が切れる。
ならば、すぐに思い至る。
転移者を名乗る少女が、ルワイフルで好き放題していたルッツリンドをがっちりホールドして完全に主導権を握っている様子を見れば、だいたい察する。
『すみません! ご質問、もう1つありましたね! んー。手前みそになって恐縮なんですけど、わたしこの変態男子より強いので!!』
ラミーは憑き物が落ちたように爽やかな表情で、端的に述べた。
「……そうか! 帰ってくれる!?」
鏡の精霊郷が総出で取り囲んでも、ルッツリンドとは互角の戦力。
その男を片手で絞めている少女。
紗希の屈託のない笑顔がラミーの知性に訴えかけて来る「えっ。なに、怖い。なんで笑っているんだ?」と言う得体のしれない威圧感。
『すみません! このような形で謝罪なんて失礼ですので、とりあえず着陸してもよろしいですか!?』
「ああ! よろしくないな!! もう良いからさ! 帰ってくれないかな!? 本当に!! 気遣い不要だから!!」
艦橋ではミリアがボタンをいくつかポチポチやって、無慈悲にもオペペペラが高度を下げ始めるのであった。
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