第7話 女子高生、本格的に異世界観光をスタートさせる!!

 ルワイフルは広大な世界。

 いくつかの生活圏が存在している。


 大陸の西側はポギールと呼ばれる大国が存在しており、住民の9割が人間。

 国王による君主独裁制が敷かれており、たまにボンクラが王位に就くと割と簡単に民衆運動や軍部によるクーデターなどが発生し、なんやかんやで落ち着く。

 優れた王が治世者となっている時代は普通に穏やかなので、どのタイミングで切り取って見ても結構平和な国。


 それがポギール王国。


 東側にあるのがモコン界。

 獣人や亜人、魔族などの異形種が住んでいる。


 触手伸ばす子とか、やたら強いスライムとかもちゃんといます。

 

 なお、ルワイフルではスタンダードな人間よりもどこかしらがちょっと人間ではないけど、そこはかとなく人間っぽい亜人種が最も多いので実は人間の方が異種だったりするのだが、転移して来る者の大半は人間なので、そうなるともう数が多かろうが見慣れない子たちが異形になる。


 理屈じゃないのである。


 人間、人間と連呼するのは人間のエゴであるが、これはただ説明が下手なだけで今回の人間は悪くない旨を付言しておく。


 異世界に2つ以上の巨大なコロニーがあれば、もう争いをしてもらわないと困る。

 ちゃんとポギール王国とモコン界も定期的な争いをしており、それを無敵要塞オペペペラでぶっ飛ばしで「フハハハハハ!!」と喧嘩両成敗キメたのが、転移して来たルッツリンド・リリンソン。


 なお、争いの理由は「4年に1度あるミス・ルワイフルの結果が気に入らなかった」とか「肉と魚、どっちが美味しいか論争で首脳会談の際つい手が出た」などのしょうもない理由が大半を占めており、放っておいても2年くらいで勝手に関係は改善される。


 戦争の起きる理由に大義などなく、全部がくだらないものだという平和的なメッセージを発信していくスタイルの異世界がこちらのルワイフル。


 そして、争いが発生した時に勝敗の判定を決め、調停の役割を担うのが大陸のど真ん中にあるツクターン自治領。

 人間も亜人もモンスターもなんでもウェルカムなコロニーで、ほとんどの種族が交流する性質により商業都市として発展した、利便性も住み心地も優れている土地。


 「もうみんな、そこに住めば良いのに」と思わずにいられないが、土地と人口の兼ね合いとかインフラ整備がどうとか、なんだか面倒な理由があるためそういう訳にもいかない。


 まだ、来海紗希の異世界ライフは始まったばかり。

 始まったばかりで勢力圏の解説などを始めると、よほど優れた料理人でもない限りアレがナニしてバイブスが下がり、色々と問題が生じる。


 残念ながら腕利きの料理人はこの空間に存在しないため、これらの勢力圏については必要に応じて小出しにしていく旨を了承されたし。

 いきなり謎の土地の名前をズラリと並べて、謎の固有名詞だらけの説明をキメた先に待っているのは、破滅と終焉だと相場は決まっている。


 理屈じゃないのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「フハハハハハ!!」


 そんな訳で、元気に「フハハハハハ」と始まったのが無敵要塞オペペペラ。

 今の話題は「精霊がいる場所を観光しよう」であり、紗希の「それはアガる!!」とルッツリンドの「どうにか適当な理由つけて、モコン界に行きたい!!」という思惑がぶつかり合っていた。


「モコン界の秘境には、獄炎の精霊ボルケノフが住んでおる! では、ゆこう!!」

「いや、待って!! ……名前的にさ、それって男の人だよね?」


「然り!」

「わたしの統計上ね、炎を統べる精霊とか神様って、ものっすごくハーレム要素の強い異世界じゃなければ、大概がおじさんなんだよねー。しかも、わざわざ炎にコミットしてガチムチで暑苦しいタイプの。……違うよね?」


「然り!! ボルケノフは700年の時を生きる精霊!! 豪快で豪胆、戦いと暴力を愛する屈強な」

「あ。それはパスで」


「え? いや、豪快で豪胆なのだが?」

「豪快と豪胆とかさ、もうアピールポイントがちょっと被ってるじゃん? これ地雷なんだよね。絶対にグハハハッ!! かっかっか!! とか笑う、酒臭いおじさんが待ってるでしょ?」


「し、然り……」

「そこを然られるとなー。わたしのファースト精霊だよ!? なんでアルコール依存症のおじさんチョイスするの!? わたしね、居酒屋のアルバイトしてたことあるの! もぉー! 酒癖悪いおじさんって大嫌い!!」



「あ。はい」

「他の候補は!?」


 ルッツリンドの計略が早々に上四方固で動きを封じられる。



 こんな時に頼りになるのがみんな大好き、優しいロリっ子奴隷商人ミリアちゃんなのだが、彼女は午後10時を過ぎると眠くなり、11時を過ぎると完全に夢の世界へ。

 昼下がりに紗希が眠りについて、先ほど起床して来た。


 つまり、現時刻は真夜中。

 ロリっ子はおやすみ中なのである。


 寝る子は育つ。

 ロリ巨乳の睡眠を妨げるのは、異世界においても重罪と定められている。


 ルッツリンドは慌ててメインモニターにルワイフルの地図を表示させ、そこに精霊分布情報を重ねた。

 慌てていた事情を酌量しても、これは大変な悪手。


「あっ! 西の方に魅力的なのがいくつもあるじゃーん!! 春風の精霊とか、宝石の精霊とか!! もうわたし分かっちゃった! この辺りは絶対に可愛い女の子!! 春風さんはねー。ちょっと臆病だけど芯の強いお嬢様タイプでー。宝石さんは高飛車なんだけど根は優しい子!! よし! そっちのポギール王国に行こー!!」


 目的地のモコン界と真逆であり、オマケに紗希の推理がほとんど的中している事実。

 ルッツリンドの額から大粒の汗がとめどなく流れ出る。


「い、いや! 待て! 紗希よ!!」

「むー。なにさー?」


「その、アレ、アレだ!! 貴様が予想できている精霊と会って、予想通りだったら、その! サプライズ感が足りぬのではないか!?」

「え? そんなことないよ? むしろ嬉しいけど?」


 ルッツリンドは挫けない。

 リリンソン皇国の皇子はどんな苦境でも強引に前へと進むのだ。


「待て、待つが良い! 貴様の感性は認めよう!! 多様性の時代だし、うん! だが、私は敢えて提案したい!! 想像もつかぬ相手と対面して、それが思いのほか心に刺さった時の快感は何物にも代えがたいのではないかと!!」


 紗希は腕を組んで「んー?」と少し考えてから、笑顔を見せた。


「それはある!! ルッツくん、意外と分かってるじゃん!! やー! どんなだろってドキドキした後にステキな人が出て来た時のあのホッとした気持ちと、引いてやったぜー!! 挑戦してよかったー!! って興奮はガチだねっ!!」


 再びのフィッシュオン。

 この機を逃すと、多分釣り竿がへし折れてどうしようもなくなる。


「そうであろう! そうであろう!! ゆえのモコン界である!! 彼の地には、もうサプライズ系の精霊ばかり住んでおるゆえ!!」

「けどさ、さっきルッツくんが勧めたのってアル中のおじさんだったよ?」



「いや! 違う! あれは私の勘違いだった! 獄炎の精霊はそう言えば、じいさんの三回忌で実家に帰っておるゆえ!! 別の者にしよう! どうせ、親戚で集まって酒飲んで愚痴ってるだけのおっさんだ! 用はない!! フハハハハハ!!」


 獄炎の精霊ボルケノフさん、出番を逃す。



「そっかそっかー! あっ! これ気になるー!! 鏡の精霊!! あんまり聞かない気がする!! 鏡って聞くと未だに白雪姫の一強なイメージあるし!! これって女の子!?」

「ええー。鏡の精霊はちょっとー。いや、女の子ですけどもー。気性が激しいと言うか、好戦的と言うか、あのー」


「なにそれ!! 女戦士タイプ!? わー! ベタだけど、戦いに生きる女子はマストだよ!! よし! じゃあ、そっちで!!」


 なお、鏡の精霊のテリトリーはモコン界の南東部であり、ルッツリンドが目指している地点も結構近い。

 苦渋の決断であった。


「よ、よかろう!! では、これよりオペペペラは鏡の精霊郷へ向かう!!」

「やったー!! 楽しみだなぁー!!」


 ルッツリンドの表情は優れない。何やら因縁でもあるのだろうか。

 これは、肉を切らせて骨は断てず、余計に肉を切られるパターンの気配。

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