第4話 無敵要塞オペペペラとクルミと背負い投げ

 ルッツリンドが差し出したオペペペラの仕様書に目を通している来海紗希。

 それが当然であるかのようにルワイフルの文字が読めるし、ルワイフルの現地民であるミリアとも会話できているし、ルッツリンドに至ってはさらに別の異世界から来ているがやっぱりコミュニケーションは成立している。


 「あ。うん。異世界ってそう言うとこだから。理屈じゃないの」とは、地元の図書館の蔵書を10年かけてほとんど読んだ有識者、紗希さんのお言葉。


 理屈じゃないのである。


「うへぇー!! ガチの無敵要塞じゃんか!! すごい、オペペペラ!!」


 ルワイフルの封じられていた太古の要塞。

 全長250メートル。

 全高90メートル。


 普段は楕円形をしており、アルトリコーダーの先っぽみたいに見える。

 当然だが、変形という男の子の心をくすぐる仕様は何種類も搭載されている。


 3機ある魔力炉がメイン動力で、ルワイフルの大気を漂う魔素を勝手に取り込み自動でエネルギーに変換。

 魔力炉が物理的に破損すれば話は別だが、限りなく永久機関に近いものらしい。

 オマケに全自動で稼働する。


 理屈じゃないのである。


 魔力炉によって生み出されたエネルギーを噴射して、ホバークラフトのように地上から5メートルほどの高さを保って優雅に進むため、揺れなど感じない安定感を誇る。

 乗り物に弱い人でも安心して過ごせる快適仕様。

 また、ボタン1つで飛行モードに変更可能。

 高度10000メートルに到達するまでの所要時間は15秒ほど。


「ねぇねぇ。ルッツくんさ、オペペペラの名付け親って君でしょ?」

「フハハハハハ!! いかにも!! 私の故郷リリンソン皇国では、命名の際、何を置いてもリズミカルを重視する! 良き名前であろう!!」


「んー。まあ、確かにちょっと声にして呼んでみたくなる魅力があるのは認めましょー。けど! そうなると元の名前が気になるよね! だって太古の要塞でしょ!? なんか、ほらぁ! この世界の伝説的な由緒あるヤツなんでしょ!?」

「えとえと、紗希様はお名前にご興味があるのですか?」


「んーん! 興味があるのは異世界についての全部!! わたしねー! ちびっ子の頃からものっすごく異世界に憧れてたの!! もう何でも知りたい!! 知的好奇心は売るほど持ってるから!!」

「ふむふむ、紗希様は研究者の方だったのですね! オペペペラと呼ばれる前の真名は、このミリアが知っています!!」


 ロリっ子が立派な胸を張った。

 その仕草とドヤ顔が大変可愛らしかったので、紗希はとりあえずミリアを抱きしめる事にした。


「ほわわわわわ!!」

「わたし、欲求はたくさんあるから!! おー! 柔らかいなぁー! それで? 真名は!?」


「はい! 古代要塞オッペイです!!」

「ん?」



「オッペイですっ!!!」

「あ。そうなんだ。へー。ミリアちゃん。その話はもう良いかな!」


 女子高生としては、声に出して呼びたい名前ではなかった模様。



 「オペペペラはこれからもオペペペラで。良い名前じゃん!!」と紗希は頷いた。

 誇らしげにマントを翻すルッツリンド。


 そんな同級生男子を無視して、ミリアの案内で居住区へと向かう。

 が、道中に農業プラントシステムがあり、これはSFも嗜む紗希の足を止めるには充分な魅力を放っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 要塞内の農業ブラントシステムは、土壌栽培と水耕栽培が常時オートメーションで稼働しており、多くの作物を育てている。

 何となく柑橘類っぽい黄色い果実や、何なのか分からない灰色の根菜などが紗希の目を楽しませていたのだが、彼女が「あっ!」と嬉しそうな声を出す作物があった。


「あれってクルミでしょ? おおー! わたしの苗字も来海だからさ! 昔から親近感あるんだよねー!!」

「クルミと言うのは、紗希様の王家の名前でしょうか?」


「あ、ここってファミリーネームないタイプの異世界? じゃあ説明が面倒だなぁ。んー。ルッツくんのリリンソンみたいな感じかな」

「ほう! 我がリリンソン皇国では、リリンソンを名乗って良いのは皇室とそれに連なる貴族のみだが! 娘! 貴様も高貴な出自であったか!!」



「あー。んー。……うん! そうなの!!」


 異世界では元の世界の話を掘り下げる価値がないと判断した紗希さん。

 実に適当な返事をキメた。



 それよりも、年頃の乙女として彼女はルッツリンドに物申す。

 ずっと気になっていたらしい。


「あのさ、ルッツくん。わたしの事を娘! とか、貴様!! とか呼ぶのヤメてくれる? なんかね、イラっとする!」

「あ。すみません。陛下とお呼びすれば良いですか?」


 ルッツリンドの身には「逆らってはいけない相手」が明確に刻まれており、刻みたてほやほやであるため、ちょっとでも紗希の語気が強まると最大級の警戒姿勢を取る。

 さすがはルワイフルの元覇者。


 リスクマネジメント能力には目を見張るものがあった。

 投げられる前に発動させていればと悔やまれる。


「いや、そんなかしこまられると……。普通に来海でいいよ? 男の子に名前で呼ばれるのってなんか慣れないし」

「ほう! クルミと呼べと申すか!! なんと傾く娘だろう!! その意気や良し!!」


 紗希は「んー?」と訝しんで、すぐに事情を把握し進行をスムーズにする。


「これは、アレだね? ルワイフルではクルミって言葉が何かの固有名詞になってるパターン!!」

「さすがです、紗希様!! 何というご慧眼!!」


「やっぱり! えー! 気になる、気になるぅ!! なに!? 英雄の名前とかかな!? 封印された悪魔かも!? もうルッツくんの反応的に、口に出すのが憚られる感じでしょ? どうしよー! ルワイフルに君臨するクルミにわたし、加わっちゃうのかー!! はい! ルッツくん!! そろそろ教えて!!」

「胸だ!!」


「ん?」

「胸部だ!!」


「うん」

「女性の胸部を指す! 特に豊かなものに敬意をこめて、ルワイフルではクルミと呼ぶのだ!!」


「……そう」

「クルミのクルミはあまりクルミではないな!! フハハハハハ!!!」


「ルッツくん」

「申してみよ! クルミではないクルミ!!」



「投げ飛ばすよ?」

「申し訳ございません。お気に障ったのでしょうか。どの部分がでしょうか。クルミ様のクルミをクルミではないと申したところでしょうか。では、クルミ様のクルミはクルミと言う事に致します。いやー! 見事なクルミであらせられえぺぇあっ!!」


 ルッツリンドが美しい背負い投げでぶっ飛ばされました。



 クルミが渋滞しているので端的に説明すると、クルミとはすなわち「巨乳」の事であり、来海紗希はクルミではないと言う事実が新着情報として判明した。


「ルッツくん。わたしのことは紗希でいいから。別に呼び捨てでいいよ」

「はっ! 紗希様!! かしこまりましてございます!!」


 臨機応変なルッツリンド・リリンソンくん。17歳。

 緊急時の対応力も上昇した。


 3人は農業プラントシステムを後にして、いよいよ居住区へと足を踏み入れる。



~~~~~~~~~

 明日まで2話更新!

 お時間10時と18時です!!

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