第2話 異世界ルワイフル ~と、その覇者ルッツリンド・リリンソン~
巨大な要塞らしき何かが少しずつ静かになり、動力部が完全に停止した。
大袈裟にガシャンガシャンと音を立てて、変形を繰り返し出入口らしきものが出現したかと思えば、マントを羽織った男が歩いて来る。
紗希はすぐに察した。
「あっ。これは魔王様か、変態さんかの二択だ!!」と。
男はマントをバサッとやってから、名乗った。
「フハハハハハ!! 私はリリンソン皇国が第一皇子!! ルッツリンド・リリンソン!! 貴様、その奇妙な恰好! さては転移者だな!!」
「あ。はい」
まだ判断を下すには早い。
紗希の中ではかなり変態さん寄りに天秤が傾きつつあるものの、彼女は全てをネガティブに考える厭世家ではないのだ。
冷静に現状を見極める必要がある。
「フハハハハハ!! 幸運だったな! この私が貴様の第一発見者で!! フハハハハハ!! よし、良かろう!! この私、リリンソン皇国が第一皇子!! ルッツリンド・リリンソンが、貴様を傍仕えにしてやろう!! フハハハハハ!!」
「あ。大丈夫です」
紗希の中で判断が下った瞬間であった。
彼女は全てをポジティブに考えられる楽天家でもない。
この状況を鑑みてポジティブな思考を抱けるのは既に1つの才能であり、そこら辺の者がみんな標準装備していたらもうそれを才能とは呼ばない。。
「うへぇー。変態さんに絡まれたー」
数秒おきに「フハハハハハ」と高笑いする男は、もう変態なのである。
「おや? さては貴様! 転移したばかりか!!」
「えー。はい。あの、先ほどあなたがご自分で、第一発見者と自称されましたよね?」
「ほう! 賢しげに抜かしおる!!」
「うん。ダメだな! これ!!」
「良かろう! この私!」
「あ。もう名乗らなくて大丈夫です。本題があるなら、そっちお願いします」
「ふっ! 抜かしおる!!」
「全然売れないRPGの雰囲気あるなぁー。チュートリアルでヤメたくなるヤツだ。クソゲーのデバッグ、あのバイトは辛かった……!」
ルッツリンドはマントを翻して語る。
この世界の事情について。
「フハハハハハ!!!」
長くなりそうなので、こちらで纏める事にする。
ここは異世界ルワイフル。
人間に近い種族から、異世界ではマストなエルフやドワーフ。
獣人に精霊、妖精。モフモフしたヤツ。あと色々。
多種多様な生物が住む広大な世界。
荒野があり、高原があり、海と山もあるし、砂漠と雪山も完備。
魔界と天界も存在するという欲張りパックな環境。
そのルワイフルの覇者がルッツリンド・リリンソンらしい。
なお、ここまでの話を聞くのに要した時間は約30分。
「あー。だいたい分かりました! それで、あなたは元からこのルワイフルを統治していた神とか魔王様ですか? それとも、異世界転生か転移して来て、この世界を平定したいわゆる英雄的な感じですか? なんとなく、やたらと繰り返す第一皇子とか言うのが引っ掛かるので、あなたもどこかの異世界から来たパターンでよろしいですか?」
「フハハハハハ!! 抜かしおる!!」
「あ。よろしいんだ!」
紗希の理解力と適応力が早々に異世界ルワイフルと適応を始める。
彼女の脳内に存在する異世界に関する知識がそれぞれ管を伸ばし、情報交換を繰り返しながら結論へと向かって行く。
既に結論に到達しているのだが、紗希はそれを認めたくないので、何度も繰り返し再計算をしている。
「フハハハハハ!!」
高笑いを聞きながら。
だが、それも限界である。
5回やって5回同じ答えが出たら、20回やっても多分20回同じ答えが出るのだ。
19回目でヤメた紗希はものすごく苦い顔をしてルッツリンドに聞いた。
「えーと。ルッツリンドさん?」
「フハ」
「あ。もうホントに、ごめんなさい。そのリアクションはお腹いっぱいなので、わたしの予想だけ聞いてもらえます? それで、イエスかノーで答えてもらったら充分なので」
「抜かしおる!」
「良いですよって事だよね?」と解釈した紗希。
今のところファービーよりも反応が乏しいルッツリンドに対して、虚しい推理パートを始める事にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうか間違っていますうに。全部なんて贅沢は言いません! 2割くらい間違っていますように!!」と控えめな願いをこめて、紗希は口を開いた。
「ルッツリンドさんは……なんだっけ? あ、そうそう! リリンソンと言う、こことはまた別の異世界の第一皇子様で、ルワイフルに転移して来たんですよね? それで、この世界の争いを鎮圧して、覇者? ちょっとこの称号は自作っぽいけど、まあいいや。覇者になられたんですよね? イエスかノーで! 無理なら、肯定の場合は抜かしおるで良いです!!」
「ふっ! 抜かしおる!!」
「……はい」
ルッツリンドが抜かしおられたので、ここまでは全て合っています。
「それで、今はつまり平定後ってことですよね? ボーナスタイム的な。あなたはルワイフルの全域、どこに行っても割と顔が利いて、例えば食料だったり日用品だったりを無償で提供してもらえたりみたいな状況が確立されてます?」
「ふっ! 賢しいな! どこまでも抜かしおる!!」
「素晴らしいですね。よくそれだけの事がお分かりになられましたね。全部正しい認識ですよ」とルッツリンドは言っている。
「うわぁ……。つまり、この変態さんが最高権力者で最高戦力って事だよ。うへぇ。じゃあ、わたし。ガチでこの変態さんの傍仕えコースじゃん。……まあ、一応ね。最後まで聞いておこうかな」
「ふっ!」
「あなたが乗って来られた、その巨大なロボ? いや、異世界だからロボじゃないか。兵器! それはルワイフルに転移して来た際に、何かしらを統べる上位存在に与えられたもの……じゃ、ないですよね!?」
「フハハハハハ!! これは無敵要塞オペペペラ!! モコン界に住まう最長老ヒポスンより授かりし、私が覇道を行くための矛であり盾であり鍋であり毛布よ!! 巨神フィラボーとの戦いの際にはオペペペラ砲が火を噴き、辺りを業火で包んだ!!」
「……情報が一気に出て来た。ええと。とりあえず、今はいらない情報を捨てて。……あれ。ほとんどなくなったよ? 要するに! 異世界転移のログインボーナス!! この人が貰ってる!! ってことは! わたし、完全に事故って転移してるじゃん!! うああああー!! やだぁー! わたしも何か欲しかったよぉー!!」
纏めると、来海紗希は何かしらのアクシデントでうっかりルワイフルに転移しており、特にスキルや神器を得る事もなく、現世へ帰る方法も分からず、何ならナビキャラ、サポートキャラすらいない状態でこれから異世界ライフを送ってね、という事だった。
さすがに少しばかり落胆する紗希。
ルッツリンドはマントを翻し、彼女に歩み寄る。
「臆するな! 娘!! この私の手を取るが良い! リリンソンの掟に従い、路頭に迷う者には道を示そうではないか!!」
高々と宣言したルッツリンドは紗希の頭に手を置いた。
この行為はイケメンのみに許されるアクションであり、初対面の変態にされると防衛本能が先に立つ。
「なぁぁにしてるんですかぁ!!」
「ぐぇぇぇあっ!!」
紗希の一本背負いが綺麗に決まり、ルッツリンドは背中を地面で強打した。
「あ、あれ?」
「ふ、ふふっ! 無念……!!」
ルワイフルの覇者が普通の女子高生に一本負けした瞬間であった。
全てはここから。
モニョっとした感じで幕を開ける。
~~~~~~~~~
明日も2話更新! お時間は10時と18時!!
よろしければお付き合いください!!
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