無敵要塞オペペペラ ~別の異世界から転移してきた人がやりたい放題したあとに転移してきた女子高生は理想のスローライフを目指す!!~

五木友人

第1話 普通の女子高生・来海紗希、普通に異世界転移する

 太陽系第三惑星、地球。

 現在の科学技術で知的生命体が生息している唯一の星であり、我々にとって世界と言えばここを示す。


 だが、それは人間の主観による観測に過ぎず、人間が思うよりも世界はずっと広く、深く、多く存在している。

 宇宙にはずっと高度な文明が栄えているかもしれないし、地底深くには人間に地上を譲ってくれている懐も深い生命体が潜んでいるかもしれない。


 そして、別の次元には異世界が存在するのかもしれない。


 いや、異世界は存在するのである。

 異世界についての文献が数えきれないほどあるのは何故か。

 異世界という言葉が日常的に認知されているのは何故か。


 異世界が存在するからに他ならない。


 なお、この議論を始めると人生が3回あっても結論は出ないかと思われるので、ここでは割愛する。


 ある者はトラックに撥ねられる事で1度人生を終えたのち異世界へ転生し、現地を救った。

 またある者は謎の天変地異に巻き込まれて異世界へ転移し、特別な力に目覚め変革をもたらした。


 けれども、特に劇的ではなく、日常の延長線上で、何ならちょっとコンビニに行った帰りにストンと穴に落ちた先が異世界である事も、ないとは言い切れない。

 きっと異世界は無限に存在しているのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな訳で、来海くるみ紗希さきは夕飯を買うためにコンビニへ向かい、帰り道に突然足元に出現した穴に落ちたら異世界に転移していた。

 不思議の国のアリスのように幻想的な要素は特になく、普通に異世界の荒野の端っこに彼女は転がっていた。


「あー。うんっ。なるほど。異世界だね、ここ!」


 そして彼女は凄まじく物分かりが良かった。


 来海くるみ紗希さき。17歳。高校二年生。

 母親が若い頃にヤンチャして誕生したのが彼女であり、父親は最初からいない。

 頼みの綱の母親はライフワークのホスト遊びに精を出しており、紗希には法に触れないギリギリの養育を施すのみ。

 この1年はアパートに帰って来ていない。


 法に触れているじゃないか。


 そんな不遇な環境だが、こちらの紗希ちゃんはメンタルが強かった。

 高校は奨学金で通い、住んでいる自治体の補助とアルバイトを駆使して生活を成り立たせ、特に悲観する事なく日々を生きている。


 趣味は読書なので図書館さえあれば無限に楽しめるし、キラキラ光るほど明るいわけでも活発な性格なわけでもないが友人は多く、複雑な家庭環境も隠すことなく過ごす彼女を虐げる輩もいない。

 むしろ17歳にして自立した逞しさを持つ乙女を応援する人たちに囲まれて、紗希は結構充実した毎日をエンジョイしていた。


 が、急にやって来た異世界転移。


 さぞかし心細いだろう。

 小さな顔に小柄な体。

 可愛らしい容姿はとても過酷な異世界サバイバルに耐えられるようには見えない。



「わー。これ、完全に転移してる。もう、そこらに生えてる植物がアピールしてくるもん。どうしよ。普通、なんかワンクッション挟むよね? 女神とか、天使とか、神様的な人から、初期装備もらうパート。……いや、ちょっと! もうここに来て5分は経ってる! これ、ログインボーナスなしのヤツじゃん!! やだー!!」


 意外と耐えられそうに見えて来た。



 紗希は読書家。

 特に異世界ものは大好物であり、人気のラノベやアニメはもちろん、考察書からネットで公開されている創作まで完全に網羅している。


 白馬に乗った王子様のお迎えを信じるほど夢見がちな乙女ではないが、「異世界なんてねぇから!!」と頭ごなしに否定するほど頑固者でもない。

 紗希にとっては「体験している今が全て」であり、それがどんなに不思議で常識的にあり得ない事でも、遭遇してしまった以上は常識の方にお帰り頂く柔軟的な思考を持っていた。


「うぇぇー。どうしよ。わたしの初期装備、学校の制服とコンビニで買ったご飯だけだよ。あっ! スマホ!! ……んー。ちゃんと起動してるけど、電波は届いてない。すっごく中途半端なヤツだ。これだけ待っても何も起きないから、あなたにはこの世界を救ってもらいますパターンじゃないもんね。漂流パターンが有力かー。んんー」


 とりあえず近くにあった良い感じの岩に座る紗希。

 短いスカートの裾をきちんと整えるのは、女子高生としてのマナー。

 異世界だろうと関係ない。


「とりあえず、ご飯食べよ。……おにぎり3つ。飲み物はコーラ。あと、肉まんと欲求に負けて明日の朝ごはんを生贄にして引いた、一番くじのクリアファイル。……ミスってる! 明日のご飯もちゃんと買えば良かった。あ! でも、チャレンジして買ったワサビ漬けのおにぎり、美味しいじゃん!! ……うん。イーブンだね!」


 何はともあれ、サバイバルならば食料の確保は重要。

 おにぎりは3つ。

 1つずつ、大切に消費していくのが定石か。


「いや、無理!! だってワサビ漬けおにぎり食べたら、次はもう絶対ツナマヨじゃん!! ここまではセーフ!! はむっ」


 ツナマヨはセーフ。

 おにぎり1つでは心許ないが、致し方ない。


「あー! 無理! 釜めしおにぎり! これ、温めて美味しいヤツだもん! 冷えたら台無しだよっ!! 食べなきゃ!! 釜めしに失礼!!」


 おにぎりはなくなったが、まだ肉まんがある。


「やー。今日、バイトの後の賄い食べられなかったからなー。肉まんまで、スッと食べちゃった!」


 空腹で動けない事ほど愚かな事はない。

 まずは食事を済ませてコンディションを整えるべき。

 なるほど。実に理にかなっている。


「……飲み物はまずいでしょ。いや、だって食べ物は最悪、その辺の草にワンチャン賭けるのもありだけど。飲み物なくなるのはヤバい。……でもさ。コーラだよ? ぬるくなって、炭酸抜けたコーラって。それ、飲み物かな?」


 飲み物である。


「ふぃー! お腹いっぱーい!! ……どうしよ!!」


 こうして紗希は異世界転移した自覚を瞬時に獲得した上で、手持ちのアイテムを全部消費して見せた。

 かつて漢王朝の時代に多くの功績を挙げた将軍、韓信が敢えて川を背にした不利な陣形を敷き、退路を断つことで活を見出す背水の陣と言う計略を選んだ故事成語はあまりにも有名であり、恐らく読書家の彼女も、ちょっと今それをやる意味は分からないが、でもまあ、何か考えがあってそれをチョイスしたと思われる。



「ヤバい! 詰んだかも!!」


 詰んでいた。



 フォローの仕様がなくなり、「その後、彼女の姿を見た者はいない」で締めるべきかを考え始めた頃、だいたい40分ほど経った時分だった。

 ドドドドドドと地面を揺らしながら、巨大な建造物が紗希の目の前に出現した。


「あ。これアレだ。魔王軍の移動要塞とかだ。はっ!! 魔王軍の幹部になって成り上がるパターンだ!!」


 バシュンと慎みのある音がして、紗希の足元にレーザー砲の類だろうか。

 何かしらの光線で焼け焦げた地面がそこにはあった。


「違うなー。詰んだっぽい!!」


 詰んだのだろうか。


 これは普通の女子高生の来海紗希が異世界転移して、恐らく何かする物語である。




~~~~~~~~~

 本日は2話更新!!

 次話は18時に更新でございます!

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