第29話 未練のユーリ
「えっ…?」
セレスは聞き返した。
「『
と、お願いしたんですよ。」
ユーリはニコリと
「そういう能力ということか…?
例えば、
ミリアは
「ああ…。
言いながらユーリは、すっと右手のナイフを持ち上げた。
ビクッ!
セレス達は体を固くする。
ドスン!
ユーリは自分の胸に、心臓の位置に深々とナイフを
「なっ!?」
セレス達は目を見開く。
ユーリがズボッとナイフを引き
ユーリはバタリと
ブワッ!
「これは…!?」
セレス達は息をのむ。
ムクリ。
ユーリが起き上がった。
その胸には、傷一つ残っていない。
服まで元通りになっている。
だが、
「ね?死ねないでしょう?
これが
時間を巻き
そして、ちょっとばかり暴走しているんですよ。」
ユーリがまたニコリと
「あなたは、スドリャク教徒ではないんですか…?
我々の敵ですか…?
それとも味方ですか…?」
セレスが
「今は、そのどれでもないですね。
スドリャク教は
フフフ…。」
ユーリが悲しげに笑った。
「
父親が
理由は…、察してください。」
ユーリが頭を
「
十五
あの日、運んでいる荷物の
ユーリが目を細めた。
「(三百と二十年!?
どう見ても
セレスは、内心でとても
「その時に分かったんです。
その能力が丸一日以上も、死すらも巻き
そして
ユーリがうつむいた。
「『グランゾエル』…?
それが
セレスが再び
「おや?
そんなことも伝わっていないんですね…。
本当にあの方は…。用心深いことだ…。」
ユーリはセレスのほうを
「三百年前のあの日、
勇者トレトスがグランゾエル様の首をはねた後、
ユーリは目を開くと、再びナイフを持ち上げた。
「こんな風に。」
ユーリが、今度は左手の小指をナイフで切り落とす。
「『死んだグランゾエル様の肉体を巻き
とね。」
「!」
セレス達は、再び息をのんだ。
ユーリの全身が金色に
あっという間に左手の指が元に
切り落とされたほうの指はそのままで。
「まるで新しい指が生えてきたみたいでしょう?
でも、無くなった頭を再生したとしても、ちゃんと
ユーリが自分のこめかみの辺りを、左手の人差し指でトントンと
「肉体を、丸一日巻き
不思議なことにね。」
ユーリがフゥー…と大きくため息をついた。
「まさか…。」
ミリアが口を開いた。
「そうです。
今、この王宮の玉座にいらっしゃるのは、グランゾエル様ご本人です。
この三百年間、私がグランゾエル様の時間を巻き
ユーリが言った。
「なっ!?」
セレス達は
「もっとも、もはや私の意志ではありません。
私が死ぬと肉体が一日巻き
その時に私の肉体に
そんな感じです。」
ユーリが続ける。
「今回のクーデターの主犯が…、三百年前の大戦時の
ミリアが
「クーデターなんて生ぬるいものじゃありませんよ。
おそらく、
死ねない
フフフ…。」
ユーリが、また悲しげに笑った。
「どんなに巻き
私の母親達エルフも、私と同じハーフエルフ達も、もう
それでも
言いながら、ユーリは自分の首に何度もナイフを
ドスン!ドスン!ドスン!…!
ユーリの全身が金色に
「もう
ユーリが悲しげに笑う。
「…ふざけるな。」
セレスが口を開いた。
「
そんなことが許されると思っているのか!?」
セレスが
「そうです。許されるはずがありませんね。
でも、許さないのは
ユーリがセレスを
「なっ…。」
セレスは言葉に
「許さないのは、今生きている人族やそれに従っている
グランゾエル様はそれを、許す
ユーリがうつむく。
「そんなこと…!
セレスはうまく言葉に出来なかった。
「分かります。私も同感ですよ。
ユーリがうなずいた。
「物事というのはね。
それを支持する多数派がいないと成り立たないんです。
王も、法も、国も、正義も。」
ユーリが左手の指を順番に折る。
「それを、自分一人が持つ
子供のわがままだ。」
ユーリが首を横に
「
エルフ族も、
グランゾエル様だって、
三百年前にトレトスに殺されていたか、
そうでなくとも
もちろん
一人じゃ何もできないんだ。
あなた達だって、きっとそうでしょう?」
ユーリがセレス達を順番に見つめる。
「一人の勝手で、世界を好きに作り変えるなんて、許されるはずがない。」
ユーリは、言いながらうなずく。
「でも、それ以上に、
生きることにも…。
グランゾエル様を巻き
本当に、
ユーリがうつむいた。
「(不死身…。)」
セレスは思った。
「(不死身や不老不死に
それなのにこんな…。
こんな悲しい
「でも…、」
ユーリが口を開いた。
「でもきっと、
半分
きっと殺せるはずです。」
ユーリがセレスを再び
「なっ…!?」
セレスは固まった。
「
再びユーリが言った。
「あ…、あなたは…!
何も悪いことはしていない…!
グランゾエルに利用されていただけで…!」
セレスが悲鳴にも似た声で
「そうかもしれません。
でも、そのせいで、たくさんの人々が
ユーリが首を横に
「それに、
ユーリは、言いながら目を閉じた。
右手に持っていたナイフもカラン!と落とす。
「
ユーリが目を閉じたまま
『どうぞ殺してください。』
そう言っているのだ。
「セレス…。」
ティナが
セレスも
ゆっくりとユーリに近づくと、
「どうか、安らかに…。
天国へ行ってください…。」
と言った。
そして先ほどユーリがそうしたように、
ドスン!
とユーリの胸に
「
灰のような色になってサラサラと
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