第28話 欲望のエメリヤ

ギギギ…!




ナルグーシスの王宮のとびらが開かれた。




正門も開かれたままだったし、

兵士のような者も一人もいない。




「(どうやら…、あの赤いドラゴンが門番の役目だったのだろう…。)」




セレス達は、それぞれたいまつを手に持ち、王宮にぞろぞろと入って行く。


正面には、再び大きなとびらが立ちはだかる。


その表面には、奇妙きみょう魔方陣まほうじんのような模様がかび上がっていた。


「むう…?これは…?」


イガラシがつぶやくように言う。




バタンッ!


セレス達の背後で大きな音がした。


セレス達は後ろをり返る。


今、入って来たほうのとびらが勝手に閉まっていた。


とびらの表面には、こちらも奇妙きみょう魔方陣まほうじんのような模様がかび上がっている。




「開かないな…。

 セレス、試しに攻撃こうげきしてみてくれないか?」


ミリアが言い、とびらからはなれる。


「分かりました。」


セレスがとびらの前に立ち、けんとびらにあてがうと、


炸裂ブラスト!」


さけび、ボンッ!と爆発ばくはつを起こした。




しかし、とびらには傷一つ付かない。




封印ふういん魔方陣まほうじんですかね…?

 だれかの魔力マナでカギをかけたんでしょうか?」


ミリアがアゴに手を当てる。


「おそらく、そうじゃろう…。

 このじんは、その魔力マナを動力にしてカギをかける感じかのう…。」


イガラシが模様に目をらし、


「つまり…、カギの主の魔力マナきるか、

 反対側からでないと開かない仕組みじゃ…。」


と言ってからフゥー…とため息をつき、

正面のとびらに向かって右側のほうを見ながら、たいまつを向けた。


セレス達も右を見る。


地下への階段が口を開けていた。


「こっちかのう…?」


イガラシがつぶやくように言った、その時だった。




「命令よ。私に従いなさい。」


突然とつぜんとびらの左側から声がした。


セレス達は、全員思わずそちらをり返ってしまった。




むらさき色の長いツヤツヤしたかみをなびかせ、

首にはいばらを模したような禍々まがまがしいがらの入れずみの入った、

美しい女性の魔族まぞくが立っている。


そのカッと開かれた両目は、これまたむらさき色にあわく光っていた。




セレスが、ティナが、ミリアが、イガラシが、

たいまつをカランと落とし、フラフラ…とその魔族まぞくのほうへと歩いて行く。




フランとアンネは立ちくした。




「ふーん…、解呪かいじゅの持ち主には効かないのね…。

 勉強になったわ。」


魔族まぞくつぶやくように言う。


「私の魔力マナのほとんどを使い果たすほど苦労したセルゲイちゃんがやられた時は、

 どうなることかと思ったわよ…!

 けど…!

 ホホホ!やっぱりね!

 アミュラスの勇者だろうと私の試練トライアルの前じゃ無力なのよ!

 オーッホッホッホッホッ…!」


魔族まぞくが口元に左手の甲を当てるようにして、勝ちほこったように笑った。




「セ、セレス兄…?

 み、みんな…?」


フランが、すがるような声で言う。


「私は欲望エルセルカのエメリヤ。

 命令よ!お前達!

 その二人を殺しなさい!」


エメリヤが言うと、四人はり返った。


「すまない、フラン。」


セレスが言った。


「死んでくれ。」


四人の血走った目には、完全に殺意がかんでいる。




ダッ!


セレスがフランに向かって走り出した。


バッ!


アンネがセレスとフランの間に立ちはだかる。


「アンネさん!?」


フランがさけんだ次の瞬間しゅんかん


紅蓮の投擲槍クリムゾンジャベリン!」


風刃ウィンドブレード!」


紺碧の矢アズールアロー!」


ミリア、ティナ、イガラシが同時につえを構えてさけんだ。


火のやり、風のやいば、水の矢がセレスを通りしてアンネの目の前でぶつかると、

バァン!と爆発ばくはつし、消え去った。


セレスとアンネは爆風ばくふうで、それぞれ後方へ転倒てんとうする。




「…このバカ共っ!

 同時に攻撃こうげきしてどうするのよっ!

 命令よっ!

 アミュラスの勇者だけで二人を殺しなさいっ!」


エメリヤがヒステリックにさけぶ。


それを聞いたセレスが起き上がる。


ダッ!


フランがそれに突進とっしんした。




ディス…!」


フランが言い終わる前に、その体をセレスが左手で受け流した。


フランはつまづいて転倒てんとうする。


ドサッ!


「ヒッ…!」


フランはたおれたまま、

両腕りょううでで頭をかかえるようにして目を閉じた。




しかし、何も起こらなかった。




「うぅ…。」


セレスは左手で頭をかかえている。


「セ、セレス兄!?」


フランが、身体をひねるように起こしてセレスをり返る。


「フラン…?

 あれ…?

 ぼくは…?」


セレスが頭をブンブンる。




ヨロリ…。


エメリヤが後ずさった。


「あ、有り得ない…。

 私の試練トライアルを自力で解除したですって…?」


そう言いながらガクガクとふるえている。




「め、命令よ!お前達!

 アミュラスの勇者を…!」


エメリヤが言い終わる前に、


目潰しフラッシュ!」


カッ!


セレスの左手から強烈きょうれつな光が放たれた。


「うあっ…!」


エメリヤ、ティナ、ミリヤ、イガラシが顔を背ける。


ダダダンッ!


セレスが一気にエメリヤまで距離きょりめた。


断罪ジャッジメント!」


セレスが目にも止まらぬ速さでけんり下ろす。


カッ!


かみなりが落ちたように一瞬いっしゅん辺りが明るくなり、次の瞬間しゅんかん


スパッ!


と切断音がひびく。




エメリヤの首が飛んだ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「おかしいな…。

 まだ開かないぞ…?」


ミリアがとびらを押したり引いたりする。


二つのとびら魔方陣まほうじんは、消えずにそのままだ。




エメリヤが現れたほう、正面のとびらの左側には部屋があった。


セレス達が慎重しんちょうに入って中を調べてみたが、

兵士達が待機したり休憩きゅうけいしたりするような場所らしく、

それほど大きくない部屋にいくつかのベッド、テーブルとイス、

エメリヤが自分のために用意したのであろう食事や飲み物が並んでいるだけだった。




「やはり、地下のほうにまだだれかおるんかのう…?」


イガラシが言いながら、再び下りの階段のほうへたいまつを向けた、その時だった。




コツーンコツーン…。


と足音がした。




だれかが階段を上って来る。




セレス達は身構えた。




「そのカギならぼくです。」


階段を上って来た人物が言った。


「(魔族まぞく…?

  いや、人族…?)」


そのはだの色は、人族のものでも魔族まぞくのものでもない。


やや青みがかった灰色のはだ

整った顔つき、

ボサボサの白いかみをした若い男性だった。


その頭に角は無く、

代わりに耳が長くなっている。


その右手には大きなナイフ。


その左腕ひだりうでには、いばらを模したような禍々まがまがしいがらの刻まれた、

赤銅色しゃくどういろをした腕輪うでわがある。


「おっと…。

 エメリヤが死んだので、この腕輪うでわはもう必要ありませんね。」


その人物は腕輪うでわをスルリと外すと、ポイと階段のほうへ放り投げた。


カン!カン!カランカラン…!


腕輪うでわが階段を転がり落ちていく。


彼女かのじょ

 『勇者と聖女を殺すまで帰って来るな。』

 ってめ出されたんですよ…。

 最後までかわいそうな人でした…。」


その人物は、骨になったエメリヤの遺体を見つめて言った後、

スッとセレスのほうを真っ直ぐに見据える。


ぼくは、未練オドラネブダのユーリ。

 アミュラスの勇者様、どうかぼくを殺して下さいませんか?」


とユーリと名乗った人物は言った。

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