第27話 全開

「しまった!まさか食べられてしまうとは…!

 一旦いったんもどって…!」


ベリエッタがドラゴンの舌の上でさけび声を上げる。


「いえ!むしろチャンスです!

 体内から攻撃こうげきすればあるいは…!」


セレスは、ベリエッタの言葉にかぶせるように言いながら、けんりかぶる。


グオン!


ドラゴンの舌が、いや、頭全体が大きく下に動いた。


セレスとベリエッタは、ズデン!と転倒てんとうする。


それと同時に舌が二人をきばのほうへし出そうと動く。


「くっ…!」


二人はれた舌の上を転がるようにして、

口のおくのほうへと何とか移動する。




バサッ!バサッ!…!




口の中にもひびくほどの羽ばたく音。


今度は頭全体が大きく上に動いた。


いや、体全体だろう。


ドラゴンが飛び始めたのだ。


セレス達はその勢いでのどへと到達とうたつする。




ドスッ!


セレスが転がりながら、ドラゴンののどに両手でけんき立てた。


「グフォッ!?」


ドラゴンののどおくから大音量がひびく。


「ハッ!」


ザシュ!


ベリエッタもけんる。


「グフォッ…!グフォッ…!グフォッ…!グフォッ…!」


ドラゴンがせきこんでいる。


突風とっぷうのような空気がのどおくからき出される。


「くぅ…!」


ドスッ!


ベリエッタもけんのどき立て、

セレスとベリエッタは飛ばされないように両手でん張る。


炸裂ブラスト!」


セレスがさけんだ。


パスン…。


小さな音が鳴る。


それもそのはずだ。


ドラゴンが口を閉じているので、口内は真っ暗だ。


「(光量が足りない…!くっ…!)」


セレスは、火の魔石マナストーンのペンダントを左手でつかむ。


ボワッ。


魔石マナストーンの火で、辺りがわずかに明るくなった。


炸裂ブラスト!」


セレスが、もう一度さけぶ。


ボッ!


小規模だが爆発ばくはつが起こった。


「グフォッ!?」


ドラゴンののどおくから、再び大音量と突風とっぷうき出される。


セレスのけんさっている位置から、血がき出た。


効いているのだ。


と、今度はドラゴンの舌の根元が、のどにいるセレス達をつぶし始めた。


「(まずに丸のみにしようとしている…!)」


セレスとベリエッタは、けんを持つ両手に力をめてん張ってえる。


「グフォッ…!グフォッ…!グフォッ…!グフォッ…!」


ドラゴンが再びせきこむ。


突風とっぷうのような空気が、再びのどおくからき出された。


これにもセレスとベリエッタはん張ってえる。




と、今度はヒュゴオオオ…!と逆に大きく息が吸われた。


強いあらしのような空気がのどおくへと吸いまれる。


「(外のみんなにブレスする気か…!)」


炸裂ブラスト!」


セレスが再びさけぶ。


ボッ!


「グフォッ!?」


ドラゴンののどおくから再び大音量と突風とっぷうが起こる。


セレスはけんのどにグイグイとし付けながらん張る。


と、

ベリエッタのけんのどからスポン!とけた。


「なっ!?」




ガッ!


吹き飛ばされたベリエッタの体が、ドラゴンのきば激突げきとつした。


ガパッ!


ドラゴンのきばが開かれ、舌がベリエッタをそこへし出そうとする。


「くぅっ…!」


ドスッ!


ベリエッタはドラゴンの内側の歯茎はぐきけんき立て、それに何とか抵抗ていこうする。


「グギッ!?」


ドラゴンの頭がふるえた。


歯茎はぐきへのダメージが効いたらしい。




ヒュゴオオオ…!と再び大きく息が吸われる。


強いあらしのような空気が、のどおくへと吸いまれる。


「勇者殿どの

 ブレスをかせよう!

 その火で明るくなった瞬間しゅんかん爆発ばくはつを起こすんだ!」


ベリエッタがん張りながらさけんだ。


「!

 やってみます!」


セレスもん張りながら、大きくうなずく。




ガパッ!


ドラゴンが口を大きく開けた。


強いあらしのような空気が、

今度はのどおくからゴオオオ…!と大きくかれ始める。


と、

ベリエッタのけん歯茎はぐきからスポン!とけた。


「あっ!?」


ベリエッタの体が開いた口から飛び出す。


「ベリエッ…!」


セレスが言いかけた時、ボンッ!と口の外に巨大きょだいな火球が出現した。


ドラゴンの口内が強く照らされる。


「(今だ!)」


セレスは全ての魔力マナけんめた。


「 全 開 炸 裂フルブラスト ! ! ! 」




ド パ ァ ン ッ ! ! !







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「はっ!?」


セレスは飛び起きた。


ベチャ。


ドラゴンのよだれでベトベトの前髪まえがみが顔にりつく。


「セレス!?」


「セレス兄!?」


ティナとフランが泣きながら、ガシッ!ときついてきた。




「(…生きている。)」




セレスは辺りを見回した。




口と首の後ろのあたりから大量の血を流した赤いドラゴンが、

すぐ近くに横たわっている。




「(勝ったんだ…!)」




よくよく見れば、セレスの両腕りょううで両脚りょうあしは血まみれだ。


ドラゴンの返り血である。


周囲はきりが深くて薄暗うすぐらいが、まだ昼ぐらいだろう。


それほど時間は経っていないようだ。




そして、




焼けてすっかり色の変わったよろいのベリエッタが横たわっていた。


そのすぐ近くにはミリア、アンネ、イガラシがしゃがみんでいる。




セレスも立ち上がり、ベリエッタにけ寄った。




「ベリエッタさん!」




「…勇者…殿どの…か。」




ベリエッタが目を閉じたまま息も絶え絶えに言った。




ベリエッタのよろいから見える皮膚ひふは、ほとんど焼けげている。




「…申し…訳…ない。」


ベリエッタが言う。




「…ぼく達、必ずこの戦いに勝ちます!

 だから…!だから…!」


セレスはそれ以上言葉が出てこなかった。




「天国で、お父さんとお母さんに言ってあげて…。

 ベリエッタさんが、セレス兄と私のために、

 いっぱいいっぱい頑張がんばったんだ、って…。」


フランが泣きながら言った。




「!

 フフ…フ…。」


ベリエッタが笑った。




ベリエッタは、それっきり動かなくなった。

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