第3話 疑心のマーシャ

セレスは岩の中で必死にあがいた。


こぶしで強く岩を打ち付け、足先で思いっきり岩を蹴飛けとばした。


びくともしない。


逆に手足に強烈きょうれつな痛みが返ってくるばかりだ。




「悪いわね。

 『息子とむすめを確実に始末してこい。』

 って言われてるの。

 たとえ勇者と聖女になってなかったとしてもね。

 でも、このマーシャ様の砂の変形サンドフォームが見破られるとは思ってなかったわ。

 角と尻尾しっぽもちゃあんとかくしてたのに…。」


髪型までショートヘアになった、その美しい女性魔族まぞく、マーシャが立ち上がり、


「あんた、あの世でほこっていいわよ。

 あんたの声と制服の形は、今ので覚えたから、

 妹のほうはもっと簡単にだませると思うけど…。」


と言いながら、ペタリとセレスをおおっている岩に手のひらをえる。


こわいわよね?でもそのこわいのもすぐに終わるわ。」


岩がゴリゴリ…と音を立てて動き始めた。


セレスに向かって収縮しているのだ。


「ぐうううぅぅぅ…!」


セレスは懸命けんめいん張っている。


「苦しいわよね?でもその苦しいのもすぐに終わるわ。」


岩が徐々じょじょに、セレスの手足の自由をうばっていく。


「(考えろ!手足が動くうちに何か出来ることがあるはずだ!)」


セレスは懸命けんめいに頭をめぐらせる。


「痛いわよね?でもその痛いのもすぐに終わるわ。」


セレスの全身に岩が食いみ、

皮膚ひふや筋肉を押しつぶして、骨までグリグリと圧迫あっぱくしはじめる。


「悲しいわよね?でも安心して?妹のほうもすぐにかせてあげるわ。」


ゴリゴリゴリゴリ…。


岩の棺桶ストーンコフィンとでも名付けましょうか。

 フフフフ…。

 アハハハ…。」


マーシャは静かに、だが満足気に笑いながら、

くるりとエントランスのほうへ向き直ると、

ゴリゴリと音を立て続ける岩を尻目しりめにスタスタと歩き出した。




ゴッ!


というにぶい音の直後、


ズンッ!


とマーシャの体を重たいものがさぶった。


「!?」


ぐらつきながら、マーシャは左わき腹のするどい痛みを見やる。




自分の頭ぐらいの岩が、背中側からさっていた。




岩はあわい光に包まれており、

傷口は、灰のような色になってサラサラとくずれている。




「…バカな。」




ゴッ!


うめくように言いながらり返ったマーシャに別の岩が飛んできた。


ズンッ!




フラフラと後ずさったマーシャは、

自分の右顔面をつぶした岩の表面を、

確かめるようにペタペタと右手でさわり、

パクパクと口を動かした後、

力なくドサッ!とたおんだ。




「…思った通りだ。」


制御せいぎょを失い、ガラガラとくずれた岩の中から、セレスが姿を現した。


「外灯の光でいいんなら、魔石マナストーンの火の光でもいいってね。」


左手には父親の形見になったペンダントのチェーンをにぎっており、

ペンダントトップにある火の魔石マナストーンがメラメラと火を放っている。


岩にれた右拳みぎこぶしから、一気に光の魔力マナを出力して爆発ばくはつを起こし、

それで岩をき飛ばしたのだ。




「…ぼくのは炸裂ブラストとでも名付けるか。」


ボトボトと血を流す右拳みぎこぶしの傷口をおさえながら、セレスはつぶやくと、


「(守衛さんまだいるよな…?通報してもらわないと…。)」


と思いながら足早に学院の正門へと向かった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「正当防衛ですね。」


セレスが自首したからか、はたまた魔族まぞくが相手だったからか、

身柄みがら拘束こうそくされていたセレスは、

検察の判断で翌日には解放されることが決まった。


マーシャと名乗った魔族は暗殺者。


特に人族をターゲットにした暗殺者だったらしく、

彼女かのじょの犯行とみられる殺人事件の余罪が数多くあったことも

要因の一つかもしれない。




建物から出ると、鳥車の前にフランとミリア、それにヴェイカ―が立っている。


「セレス兄!」


こちらに気づいたフランがすぐにけ寄ってきついてきた。


「心配かけたね。」


セレスは泣きそうな妹の頭を左手でよしよしとなでてやる。


「私が近くにいながら、異変に気づけず申し訳ございません…。」


ヴェイカ―が深々と頭を下げる。


「いいや。気づいていたら巻きまれていた可能性もある。

 結果的にあれで良かったのさ。

 頭を上げてくれ。」


セレスは言った。


「…マーシャとかいう魔族まぞくは、口を割ったよ。」


ミリアがフランの肩越かたごしに耳打ちしてくる。


くわしくは鳥車で話そう。」




ヴェイカ―に運転を任せ、三人は鳥車に乗りんだ。


フランはまだセレスの右側できついたままだ。


ミリアが鳥車のカーテンを閉めると、


「話の前に、それ。」


と包帯でぐるぐる巻きのセレスの右手を指差した。


「フラン。試しに治癒ちゆしてみなさい。」


ミリアがうながす。


「もう終わってますー。」


フランが得意気に言った。


「えっ!?」


セレスは目を丸くする。


「(いつの間に…。)」


セレスが包帯を外してみる。


骨まで見えていた痛々しい傷は、見事に消えて無くなっていた。


ミリアも関心したようにうなずき、


「私も気づかなかったよ。A判定だ。」


と言った。


これが奇跡サザーニアの聖女の治癒ちゆなのだ。


「ご褒美ほうびのチュ~。」


迫ってくるフランの顔を、セレスは治ったばかりの右手で受け流した。




この世界には五種類の治癒ちゆの力があるとされている。


すなわち、自然治癒ちゆ、活性治癒ちゆ、創造治癒ちゆ、逆行治癒ちゆ、そして奇跡治癒きせきちゆの五種類だ。




自然治癒ちゆは、生物が基本的に備えている自己回復機能である。


時間をかけて、ゆっくりと体組織を修復する働きであるが、

爬虫類はちゅうるい尻尾しっぽなどの例外を除いて、

例えばり落とされた手足指が再び生えてきたりするような、

欠損状態からの回復は期待できない。




活性治癒ちゆは、特異技能ギフトやポーションの力などで、

自然治癒ちゆの働きを活性化させて回復にかかる時間を早めるという方法だ。


あくまで自然治癒ちゆの高速化なので、こちらも欠損の回復は期待できないし、

回復される側もエネルギーを大きく消耗しょうもうするというリスクがある。


つまり、

大ケガであったり、極端きょくたんに体力を消耗しょうもうしていたり、お年寄りであったりすると、

回復しきれない場合がある。




創造治癒ちゆは、特異技能ギフトの力で、

傷や欠損したパーツを創り出して補うという方法だ。


ただし、小さな傷や骨折ならまだしも、

うでや足や臓器レベルの欠損を創造で正確に補うのは、

かなりの魔力マナ消耗しょうもうと、治癒ちゆ士の技術・経験が必要となる。


しかし、いい加減な創造で補われたパーツであっても、

自然治癒ちゆと合わせることで、

長い時間をかけて徐々じょじょに正常な機能や形状まで回復するという例は多く、

改めて生命の神秘にはおどろかされる。




逆行治癒ちゆは、特異技能ギフトの力で、

傷や欠損した場所を、そのダメージを受ける前まで時間を巻きもどして治してしまう、

という方法だ。


創造治癒ちゆの弱点である、正確な復元が難しいという点はクリアできる方法であるが、

そもそも時間を操作する特異技能者ギフテッドが希なうえに、

時間を巻き戻せる特異技能者ギフテッドはもっと希だ。


例えば、レイは時間プリム特異技能者ギフテッドなのであるが、

自分自身やれているものの時間経過を、

少しだけ早くしたりおそくしたりする程度のことしかできない。


しかも、その特異技能ギフトの使用には、膨大ぼうだい魔力マナが必要ときている。


つまり、

ダメージの範囲はんいが広かったり、

ダメージを受けてから時間が経ちすぎていたりすると、

治癒ちゆ士による巻きもどしが可能な範囲はんいをオーバーしてしまい、

巻きもどしきれない場合があるという弱点がある。


逆行治癒ちゆならば、遺体の蘇生そせいなども理論上は可能だが、

亡くなった直後の一分一秒単位で特異技能ギフトを使用できなければ、

よほどの治癒ちゆ士であっても望みはうすい。




最後の奇跡治癒きせきちゆだが、その回復原理の一切はなぞに包まれている。


原理は一切なぞなのであるが、時間の経過などお構いなしに、

逆行治癒ちゆレベルで傷や欠損、病気までも完治してしまうのだ。


そして、奇跡サザーニア特異技能ギフトを持つ者は、

数十年に一度、現れるかどうかという希少さである。


このため、奇跡きせきと呼ばれている。


歴史上に出てくる歴代の奇跡サザーニアの聖女達は、

難攻不落なんこうふらく要塞ようさいや城、

厳しい自然に囲まれた秘境のような場所に閉じこもって暮らしていたとされている。


「私も最初のうちはそうやって暮らしていたのだけれど、

 ルザが

 『人は鳥かごの鳥よりも自由なんだ。』

 って連れ出してくれたの。」


とは母の言葉である。


ただし、奇跡治癒きせきちゆは、

治癒ちゆ士が治癒ちゆ士本人を治癒ちゆするのは不可能という致命的ちめいてきな弱点をかかえている。


奇跡サザーニア特異技能ギフト治癒ちゆ士本人の体に使用しようとすると、

激しい火花が起こり、反発するのだ。


そして、奇跡治癒きせきちゆによる魔力マナ消費は、範囲はんいや時間ではなく、


『ダメージがどれほど命に関わるか?』


依存いぞんすることが分かっている。


つまり、軽いケガなら魔力マナ消費が少なく、

命に関わるケガなら、

たとえナイフでされただけの傷だとしても魔力マナ消費が多くなる。


当然、遺体の蘇生そせいともなれば、とてつもない魔力マナが必要とされていて、

そんな奇跡きせきが起こせたのは、

初代の奇跡サザーニアの聖女であるニーヴェ様だけだったと伝えられている。




フランにも残念ながら、そこまでの力は無かった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「これは私の直感なのですが…。」


一週間前にあった謁見えっけんの間での会議中、優しく微笑ほほえみながらミリアは言った。


「二人が最後に特異技能ギフト鑑定かんていを受けたのはいつだい?」


「えーと…。毎月のはじめに受けに行っているので、三週間ほど前でしょうか…。

 でも、結果は二人とも『技能なし』でしたよ?」


セレスが答える。


「…なるほど。」


ラズリー国王が目を見開いて言った。


「…まさか。」


続いてブルーノ大臣がつぶやくように言った。


「???」


セレスとフランはチンプンカンプンだ。


「王宮鑑定かんてい士をここへ!」


とびらの外にいる兵士に聞こえるようにラズリーがさけぶ。




しばらくすると、真っ白なかみと真っ白なひげに、トンガリ帽子ぼうしかぶった、


『私が魔法まほう使いです。』


と言わんばかりの格好をしたおじいさんがとびらを開けた。




「王宮鑑定かんてい士を務めておる、アナトール・パセードと申します。

 お見知りおきを。」


と部屋に入ってきたおじいさんがフゴフゴ名乗る。


「そこのセレスティアーノきょうとフランシスカじょう特異技能ギフト鑑定かんていたのむ。」


ラズリーがセレスとフランを示しながら言う。


「あい、承知しました。」


アナトールはそう答えると、

テーブルをぐるりと回りんでセレスとフランの席の間までやって来る。


「では…失礼いたします。」


アナトールがまず、セレスの後頭部に手を当てる。




「…ややっ!?」


アナトールがおどろいたように声を上げる。




次に、フランの後頭部に手を当てる。




「…これはこれは。」


アナトールがつぶやいた。




「セレスティアーノ様がアミュラス

 フランシスカ様が奇跡サザーニア間違まちがいございません!」

 

アナトールがラズリーに向き直って言い放つ。


「えっ!?」


セレスとフランがおどろく。


「やはり。」


ミリアがうんうんとうなずく。


「私もおどろいているよ。」


ラズリーが告げる。


「勇者と聖女の力が子に遺伝するなど、

 歴史上でも類を見ないことでございますからね。」


ブルーノがラズリーに同調する。




「…では、初代のアミュラスの勇者トレトス様と奇跡サザーニアの聖女ニーヴェ様に敬意を表して、

 君達は、

 『セレスティアーノ・トレトス・ブランパーダ』、

 『フランシスカ・ニーヴェ・ブランパーダ』

 を名乗るがいい。」


とラズリーが言い、


「ただし、ルザリーノとエストレアを殺した犯人がつかまって以降だがな。」


と付け加えた。




「…じゃあ。」


とフランが口を開いた。


「お父さんとお母さんを生き返らせられるかも!?」


「!」


一同は、あわただしく地下室へと足を運んだ。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







結果から言うと、蘇生そせいは失敗した。




最初に母であるエストレアの蘇生そせいが試みられた。


「集中して…。

 吸った息が体の中心からかたを通って手のひらまで

 順に流れていくようなイメージを持つんだ…。

 そしてその流れが、だんだんと太く、

 大きなうねりになっていくようにイメージして…。」


ミリアの手ほどきを受けて、

フランがエストレアの遺体に手のひらをかざして集中しだすと、

その瞬間しゅんかん


バチバチッ!


と激しい火花がフランの手のひらとエストレアの遺体の間に走った。


「!?」


全員が後ずさる。


奇跡治癒きせきちゆ特異技能者ギフテッドは、奇跡治癒きせきちゆを受け付けない…。

 まさか別々の人間の間でも起こることだったとは…。」


ミリアが頭をかかえ、かたを落とした。




次に父であるルザリーノの蘇生そせいが試みられた。




「お父さん…。」


父の首のり傷を見たフランは口元をおさえたが、

すぐに気を取り直し、母親にしたのと同じように集中する。




が、しばらく経っても何も変化は起こらなかった。


首のり傷がくっついたりする様子もない。


いくらフランが集中し続けても、父親が目を覚ますことはなかったのだ。


なみだを流しはじめたフランを見て、ミリアが、


「これ以上はやめたまえ。限界だ。」


とベッドから引きがそうとした。


それでも奇跡治癒きせきちゆを止めなかったフランは、

最終的に魔力マナの出力上限に達して、気絶した。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







「まあ、奇跡きせきという意味では、他の特異技能者ギフテッドが起こす超常ちょうじょうだって、

 技能なしの一般人から見れば十分奇跡きせきさ。」


ミリアが言った。


「で、本題なんだが…。」


とミリアが続ける。


「マーシャと名乗った例の魔族まぞくは、あれでもちゃんと生きていたよ。

 本名はマーシャ・デューヴァ。

 右顔面と右目の視力は失っていたがね。

 まったく頭蓋骨ずがいこつ頑丈がんじょうなやつだ。」


ミリアが顔の右側を右手でおおうような仕草をする。


「…で、ちょいとおどしてやったら、

 『依頼はナルグーシスで魔族まぞくから受けた。』

 とあっさり白状した。

 だが、依頼主いらいぬしの素性まではくわしく知らないそうだ。

 それに、ルザとレアがおそわれたことは知らされていたが、

 その犯人までは知らされていなかったそうだ。」


ミリアが宙をつかむように右手を動かした。


「(拷問ごうもんでもしたのだろうか…?)」


セレスは思った。


「しかし、一つ分かったことがあるぞ。」


とミリアは身を乗り出す。




「『スドリャク教』という名前の宗教を聞いたことがあるかい?」


ミリアがたずねた。


「スドリャク教って、昔の魔族まぞくが入っていたというあれですか?

 邪教じゃきょうの?」


とセレスが言う。


「そうだ。」


とミリアが鳥車のカーテンしに、窓枠まどわくへ右ヒジをつきながらうなずく。




「あのマーシャとかいう魔族まぞく自身も、君達の暗殺を依頼いらいしたという魔族まぞくも、

 スドリャク教の関係者なんだそうだ。

 彼女かのじょは信者で、依頼人いらいにんは司祭以上。

 顔はおたがかくしていて、女の魔族まぞくということしか分からなかったそうだが、

 スドリャク教の司祭以上の証である首の入れずみが、えりからチラリと見えたんだと。」


ミリアは自分の首の正面あたりをトントンと左手の人差し指でたたいた。


「じゃあ父上と母上を殺した犯人も邪教徒じゃきょうとの可能性が高いと?」


セレスがたずねる。


「そうなるね。

 まあ邪教じゃきょうと呼ばれるのは、昔の魔族まぞくの多くが信者だったからなのであって、

 一応ちゃんとした宗教なんだよ。」


ミリアは左手をひらひらさせた。


「今となっては、宗教界はトレトス教の一強状態だから、

 そのトレトス教にきらわれているスドリャク教徒は、

 迫害はくがい弾圧だんあつの格好の的にされて肩身かたみせまいというので、

 大っぴらに活動はしていないようだがね。」


ミリアはフゥーとため息をついた。




「だが、スドリャク教にも神は存在して、

 きちんと寵愛ちょうあい、つまり特異技能ギフトも存在するんだ。」


ミリアが語気を強め、


「…と言っても、トレトス教で特異技能ギフトにあたるものを、

 スドリャク教では『試練トライアル』と呼ぶそうだがね。」


と言った。


「トライアル?」


セレスが聞き返す。


「そう。試練トライアルだ。

 神によりあたえられた恩恵おんけいではなく、

 神があたえた試練そのものだったり、

 これからあたえる厳しい試練のために乗りえる力をくれたりするような感じさ。」


ミリアが左手でにぎこぶしを作って、自分のヒザをなぐるようなジェスチャーをする。




「実際、スドリャク教における『修練者ノーヴィス』。

 つまり、特異技能者ギフテッドのことなんだが、

 修練者ノーヴィスになったものは、能力に目覚めたとき、

 それが制御せいぎょできずに暴走してしまう例が多いそうだ。

 …場合によっては身をほろぼすことも。」


ミリアがにぎっていた左拳ひだりこぶしを上に向け、パッと開く。




彼女かのじょ疑心ヌロプスのマーシャと名乗っていただろう?

 疑心ヌロプスというのは、スドリャク教の神の一柱ひとはしらなのさ。」


ミリアが左手の人差し指をピンと立てた。




「しかし、砂で姿どころか声まで模写したり、

 あれだけの岩をまとめて制御せいぎょしたりするとは…。

 賢者けんじゃにも匹敵ひってきする修練を積んだんだろうね。」


ミリアが腕組うでぐみしてうんうんとうなずく。


「敵に関心している場合ですか。」


セレスがあきれて言う。


「まあ今頃いまごろ彼女かのじょは、余罪について厳しい取り調べを受けていることだろう。

 そうだ、フラン。

 彼女かのじょの無くなった右顔面を元にもどしてやったらどうだい?

 温情としてさ。

 交換こうかん条件に余罪をかせるのさ。」


ミリアが言うと、すかさずフランが


「絶対いや。」


んべーっと舌を出し、


「セレス兄の神聖不可侵ふかしんくちびるけがそうとしたんでしょ?

 人族だったとしても許せないわ。いい気味よ。」


と言った。


「そうかい。」


ミリアがかたをすくめる。




「ところで、セレスはおそわれたとき何を考えていた?

 とっさのこととはいえ、火の魔石マナストーンを使ったのは見事だったが…。」


とミリアがセレスのほうを向いてたずねると、セレスは


「そうですね…。制服が燃えたら大変なので、

 『こんなことなら加護と出力を同時にあつかえるようにきたえておくべきだった。』

 と思いました。

 燃えずに済みましたけど。」


と答えた。


「ん。なかなか冷静だったようだな。

 その判断力にはA判定をくれてやる。」


ミリアがうなずいた。


「だが、出力で自分のこぶしを痛めた点は評価できないな。

 自分の身を加護しながら出力したり、

 あるいは自分の身に影響えいきょうが無いように出力を制御せいぎょしたりするというのは、

 基本中の基本だよ。」


ミリアが左手でこぶしを作ってセレスのほうへき出し、


「しごきがいがあるようで助かる。」


やれやれという感じで首を横にりながら言った。


だが、その表情は楽しそうだ。


「(サディストのがあるのかもしれない…。)」




「しかし、こんなところにまで刺客しかくを送ってくるとは…。

 五日後にはすぐここを出発するぞ。

 それまでは用心して過ごしてくれ。」


ミリアが真面目な顔になって、二人の顔を交互こうごに見た。

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