第3話 疑心のマーシャ
セレスは岩の中で必死にあがいた。
びくともしない。
逆に手足に
「悪いわね。
『息子と
って言われてるの。
たとえ勇者と聖女になってなかったとしてもね。
でも、このマーシャ様の
角と
髪型までショートヘアになった、その美しい女性
「あんた、あの世で
あんたの声と制服の形は、今ので覚えたから、
妹のほうはもっと簡単に
と言いながら、ペタリとセレスを
「
岩がゴリゴリ…と音を立てて動き始めた。
セレスに向かって収縮しているのだ。
「ぐうううぅぅぅ…!」
セレスは
「苦しいわよね?でもその苦しいのもすぐに終わるわ。」
岩が
「(考えろ!手足が動くうちに何か出来ることがあるはずだ!)」
セレスは
「痛いわよね?でもその痛いのもすぐに終わるわ。」
セレスの全身に岩が食い
「悲しいわよね?でも安心して?妹のほうもすぐに
ゴリゴリゴリゴリ…。
「
フフフフ…。
アハハハ…。」
マーシャは静かに、だが満足気に笑いながら、
くるりとエントランスのほうへ向き直ると、
ゴリゴリと音を立て続ける岩を
ゴッ!
という
ズンッ!
とマーシャの体を重たいものが
「!?」
ぐらつきながら、マーシャは左わき腹の
自分の頭ぐらいの岩が、背中側から
岩は
傷口は、灰のような色になってサラサラと
「…バカな。」
ゴッ!
ズンッ!
フラフラと後ずさったマーシャは、
自分の右顔面を
確かめるようにペタペタと右手で
パクパクと口を動かした後、
力なくドサッ!と
「…思った通りだ。」
「外灯の光でいいんなら、
左手には父親の形見になったペンダントのチェーンを
ペンダントトップにある火の
岩に
それで岩を
「…
ボトボトと血を流す
「(守衛さんまだいるよな…?通報してもらわないと…。)」
と思いながら足早に学院の正門へと向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「正当防衛ですね。」
セレスが自首したからか、はたまた
検察の判断で翌日には解放されることが決まった。
マーシャと名乗った魔族は暗殺者。
特に人族をターゲットにした暗殺者だったらしく、
要因の一つかもしれない。
建物から出ると、鳥車の前にフランとミリア、それにヴェイカ―が立っている。
「セレス兄!」
こちらに気づいたフランがすぐに
「心配かけたね。」
セレスは泣きそうな妹の頭を左手でよしよしとなでてやる。
「私が近くにいながら、異変に気づけず申し訳ございません…。」
ヴェイカ―が深々と頭を下げる。
「いいや。気づいていたら巻き
結果的にあれで良かったのさ。
頭を上げてくれ。」
セレスは言った。
「…マーシャとかいう
ミリアがフランの
「
ヴェイカ―に運転を任せ、三人は鳥車に乗り
フランはまだセレスの右側で
ミリアが鳥車のカーテンを閉めると、
「話の前に、それ。」
と包帯でぐるぐる巻きのセレスの右手を指差した。
「フラン。試しに
ミリアが
「もう終わってますー。」
フランが得意気に言った。
「えっ!?」
セレスは目を丸くする。
「(いつの間に…。)」
セレスが包帯を外してみる。
骨まで見えていた痛々しい傷は、見事に消えて無くなっていた。
ミリアも関心したようにうなずき、
「私も気づかなかったよ。A判定だ。」
と言った。
これが
「ご
迫ってくるフランの顔を、セレスは治ったばかりの右手で受け流した。
この世界には五種類の
すなわち、自然
自然
時間をかけて、ゆっくりと体組織を修復する働きであるが、
例えば
欠損状態からの回復は期待できない。
活性
自然
あくまで自然
回復される側もエネルギーを大きく
つまり、
大ケガであったり、
回復しきれない場合がある。
創造
傷や欠損したパーツを創り出して補うという方法だ。
ただし、小さな傷や骨折ならまだしも、
かなりの
しかし、いい加減な創造で補われたパーツであっても、
自然
長い時間をかけて
改めて生命の神秘には
逆行
傷や欠損した場所を、そのダメージを受ける前まで時間を巻き
という方法だ。
創造
そもそも時間を操作する
時間を巻き戻せる
例えば、レイは
自分自身や
少しだけ早くしたり
しかも、その
つまり、
ダメージの
ダメージを受けてから時間が経ちすぎていたりすると、
巻き
逆行
亡くなった直後の一分一秒単位で
よほどの
最後の
原理は一切
逆行
そして、
数十年に一度、現れるかどうかという希少さである。
このため、
歴史上に出てくる歴代の
厳しい自然に囲まれた秘境のような場所に閉じこもって暮らしていたとされている。
「私も最初のうちはそうやって暮らしていたのだけれど、
ルザが
『人は鳥かごの鳥よりも自由なんだ。』
って連れ出してくれたの。」
とは母の言葉である。
ただし、
激しい火花が起こり、反発するのだ。
そして、
『ダメージがどれほど命に関わるか?』
に
つまり、軽いケガなら
命に関わるケガなら、
たとえナイフで
当然、遺体の
そんな
初代の
フランにも残念ながら、そこまでの力は無かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これは私の直感なのですが…。」
一週間前にあった
「二人が最後に
「えーと…。毎月のはじめに受けに行っているので、三週間ほど前でしょうか…。
でも、結果は二人とも『技能なし』でしたよ?」
セレスが答える。
「…なるほど。」
ラズリー国王が目を見開いて言った。
「…まさか。」
続いてブルーノ大臣が
「???」
セレスとフランはチンプンカンプンだ。
「王宮
しばらくすると、真っ白な
『私が
と言わんばかりの格好をしたおじいさんが
「王宮
お見知りおきを。」
と部屋に入ってきたおじいさんがフゴフゴ名乗る。
「そこのセレスティアーノ
ラズリーがセレスとフランを示しながら言う。
「あい、承知しました。」
アナトールはそう答えると、
テーブルをぐるりと回り
「では…失礼いたします。」
アナトールがまず、セレスの後頭部に手を当てる。
「…ややっ!?」
アナトールが
次に、フランの後頭部に手を当てる。
「…これはこれは。」
アナトールが
「セレスティアーノ様が
フランシスカ様が
アナトールがラズリーに向き直って言い放つ。
「えっ!?」
セレスとフランが
「やはり。」
ミリアがうんうんとうなずく。
「私も
ラズリーが告げる。
「勇者と聖女の力が子に遺伝するなど、
歴史上でも類を見ないことでございますからね。」
ブルーノがラズリーに同調する。
「…では、初代の
君達は、
『セレスティアーノ・トレトス・ブランパーダ』、
『フランシスカ・ニーヴェ・ブランパーダ』
を名乗るがいい。」
とラズリーが言い、
「ただし、ルザリーノとエストレアを殺した犯人が
と付け加えた。
「…じゃあ。」
とフランが口を開いた。
「お父さんとお母さんを生き返らせられるかも!?」
「!」
一同は、あわただしく地下室へと足を運んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結果から言うと、
最初に母であるエストレアの
「集中して…。
吸った息が体の中心から
順に流れていくようなイメージを持つんだ…。
そしてその流れが、だんだんと太く、
大きなうねりになっていくようにイメージして…。」
ミリアの手ほどきを受けて、
フランがエストレアの遺体に手のひらをかざして集中しだすと、
その
バチバチッ!
と激しい火花がフランの手のひらとエストレアの遺体の間に走った。
「!?」
全員が後ずさる。
「
まさか別々の人間の間でも起こることだったとは…。」
ミリアが頭を
次に父であるルザリーノの
「お父さん…。」
父の首の
すぐに気を取り直し、母親にしたのと同じように集中する。
が、しばらく経っても何も変化は起こらなかった。
首の
いくらフランが集中し続けても、父親が目を覚ますことはなかったのだ。
「これ以上はやめたまえ。限界だ。」
とベッドから引き
それでも
最終的に
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「まあ、
技能なしの一般人から見れば十分
ミリアが言った。
「で、本題なんだが…。」
とミリアが続ける。
「マーシャと名乗った例の
本名はマーシャ・デューヴァ。
右顔面と右目の視力は失っていたがね。
まったく
ミリアが顔の右側を右手で
「…で、ちょいと
『依頼はナルグーシスで
とあっさり白状した。
だが、
それに、ルザとレアが
その犯人までは知らされていなかったそうだ。」
ミリアが宙を
「(
セレスは思った。
「しかし、一つ分かったことがあるぞ。」
とミリアは身を乗り出す。
「『スドリャク教』という名前の宗教を聞いたことがあるかい?」
ミリアが
「スドリャク教って、昔の
とセレスが言う。
「そうだ。」
とミリアが鳥車のカーテン
「あのマーシャとかいう
スドリャク教の関係者なんだそうだ。
顔はお
スドリャク教の司祭以上の証である首の入れ
ミリアは自分の首の正面あたりをトントンと左手の人差し指で
「じゃあ父上と母上を殺した犯人も
セレスが
「そうなるね。
まあ
一応ちゃんとした宗教なんだよ。」
ミリアは左手をひらひらさせた。
「今となっては、宗教界はトレトス教の一強状態だから、
そのトレトス教に
大っぴらに活動はしていないようだがね。」
ミリアはフゥーとため息をついた。
「だが、スドリャク教にも神は存在して、
きちんと
ミリアが語気を強め、
「…と言っても、トレトス教で
スドリャク教では『
と言った。
「トライアル?」
セレスが聞き返す。
「そう。
神により
神が
これから
ミリアが左手で
「実際、スドリャク教における『
つまり、
それが
…場合によっては身を
ミリアが
「
ミリアが左手の人差し指をピンと立てた。
「しかし、砂で姿どころか声まで模写したり、
あれだけの岩をまとめて
ミリアが
「敵に関心している場合ですか。」
セレスが
「まあ
そうだ、フラン。
温情としてさ。
ミリアが言うと、すかさずフランが
「絶対いや。」
んべーっと舌を出し、
「セレス兄の神聖
人族だったとしても許せないわ。いい気味よ。」
と言った。
「そうかい。」
ミリアが
「ところで、セレスは
とっさのこととはいえ、火の
とミリアがセレスのほうを向いて
「そうですね…。制服が燃えたら大変なので、
『こんなことなら加護と出力を同時に
と思いました。
燃えずに済みましたけど。」
と答えた。
「ん。なかなか冷静だったようだな。
その判断力にはA判定をくれてやる。」
ミリアがうなずいた。
「だが、出力で自分の
自分の身を加護しながら出力したり、
あるいは自分の身に
基本中の基本だよ。」
ミリアが左手で
「しごきがいがあるようで助かる。」
やれやれという感じで首を横に
だが、その表情は楽しそうだ。
「(サディストの
「しかし、こんなところにまで
五日後にはすぐここを出発するぞ。
それまでは用心して過ごしてくれ。」
ミリアが真面目な顔になって、二人の顔を
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