第2話 二人の幼馴染
「これは一大事ですぞ!」
ブルーノ大臣がテーブルに乗り出す勢いで言った。
「人族が、
セレスとフランは、
フランはまだメソメソしている。
会議が始まるというので、二人は帰されるものだと思っていたのだが、
ミリアから、
「君達はこれからディクシフ
参加したまえ。」
と耳打ちされて座らされたのだ。
「大臣のおっしゃる通りです。」
ミリアがうなずき、
「
残りの人族だけで全ての
と言う。
特に
それは、
より強い
とされている。
セレスは、子供の
「父さんの
という質問に、
「…灰になるんだ。」
と静かに答えた父の言葉を思い出していた。
「
悪事を働く
そんな
ブルーノが苦々しげに言う。
世の母親が子供を
「悪いことする子は、
というやつの
「しかし、」
ミリアが言い、
「勇者と聖女が死亡したというのに、
ナルグーシス、ルヴィア、トルネオに目立った動きはありません。」
と付け加えた。
「確かにな。」
ラズリー国王がうなずく。
「ナルグーシスで起こった軍事クーデターは、
周辺国からの軍事
ルヴィアとトルネオもそこに参加している。
少なくとも、
「つまり今回の事件は、
『三国政府の預り知らないところで起こったのでは?』
と考えられます。」
ミリアが言うと、
「
ブルーノが
「いいえ。」
ミリアはさらりと言った。
「私は、ナルグーシスのクーデターが、
勇者をおびき寄せるためのエサだったのではないか、
と考えています。」
「なっ…。」
全員があっけに取られる。
「『ナルグーシスのクーデターがあっさりと成功してしまえば、
その勢いがルヴィアやトルネオにまで広がり、
いずれ人族の国まで
そう心配した我々は、用心のために
それに近衛兵長である
オルトエストの水の
ナルグーシスに向かわせようとしていたわけですが、」
ミリアが言うと、
「『その動きが読まれていたのではないか?』
というわけか…。」
ラズリーが続ける。
ミリアはコクリとうなずいた。
「だとすれば、この事件の主犯は、
ナルグーシスでクーデターを起こした軍部関係者に
ラズリーがアゴひげをなでながら呟くように言う。
「三国政府が素知らぬフリをしている可能性は!?」
ブルーノがミリアに食ってかかった。
「大戦後、三百年も続いている人族と
人族と
オルトエスト国をはじめ、人界の各国に住んでいる
逆に
その
当然お二人の耳にも届いていることでしょう。」
ミリアはラズリーとブルーノの顔を
「あるいは、こちらの次の動きを見定めているのではありませんか!?」
ブルーノが
「
「先ほども申し上げた通り、人族と
人族と戦争したいという
ミリアは、やれやれといった感じで首を横に
「
ブルーノが顔を真っ赤にして食い下がる。
「そうは言っていません。」
ミリアは、すかさず否定した。
「現に軍事クーデターを、力づくで権力を
今回の事件の犯人がそちらとは別の
大臣のご心配ももっともです。」
ミリアの言葉に
『そういうことならば。』
と満足したのか、ブルーノは我に返ったように席に座り直す。
それを見届けたミリアが続ける。
「ですから、私が責任を持って
ナルグーシスの軍部関係者を
「えっ!?」
ミリアの言葉に全員が目を丸くした。
「元より、勇者と聖女の
何かしらの責任は取るつもりでしたし。」
と、さらにミリアは続けた。
「馬鹿な!?
勇者と聖女でさえナルグーシスに着く前に
ブルーノが、今度は青くなった。
「それに、勇者と聖女、近衛兵長に加えて、
火の
この国の防衛は紙切れ同然になる!」
ブルーノは、今にも泣きそうだ。
「それだけ強い私が行くからこそ意味があるのです。」
ミリアはニコリとしながら言う。
「幸いなことに、勇者と聖女の死はまだ内密にされたままです。
クーデターを止める任務は極秘でしたからね。」
ミリアがラズリーのほうを見ながら言うと、
「ああ。
オルトエスト国の上層部と、遺体を発見したビウィス
このことは
ラズリーが答えた。
「そこで私がナルグーシスに向かうという情報を流せば、
犯人達が、きっと私を
ミリアは自信たっぷりに言う。
「しかし…。」
ブルーノが何か言いたげだったが、
ミリアは構わず、
「ご安心ください。
『勇者と聖女の
なーんて待ち構えている
軽くひとひねりにしてやりますから。
口を割らせるぐらい造作もありませんよ。」
と人差し指をピンッと
「それから…、」
とミリアはさらに続ける。
「これは私の直感なのですが…。」
と前置きし、セレスとフランのほうに顔を向けて、優しく
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一週間後。
日も暮れかけたソリアード国立エステバン高等学院。
その
セレスとフランを交えた十数人の一団が、
補習という名目のミリアの厳しいしごきを受けていた。
と言ってもミリアは正式な教員ではない。
あくまで臨時講師という立場だ。
「もう日が暮れるな…。
セレスティアーノ・ブランパーダ!妹と
ミリアが
さすがに学院内では、
「他の者も今日はこの辺にしておいてやる!」
しごかれていた全員が、ブハァーッ!と息を
ほとんどの者はそのまま
内々で小規模にではあるが、ブランパーダ家の
さらにその翌日には、ナルグーシス周辺の国々によって、
ナルグーシスのクーデターに対する軍事
つまり、クーデターを止めるために、
兵士をさらにナルグーシスに送り
主導したのはルヴィアとトルネオである。
図らずも、
「人族と戦争したいという
というミリアの主張が裏付けられた形だ。
ミリアは、
『この
と判断したらしく、
「私が国を出て行くことの
十日間ほどエステバン高等学院の生徒達へ、
私が持つ
とラズリーとブルーノに進言したのだった。
「若者達への優れた教育こそが、将来の国防の増強に不可欠ですからね。
なあに、私にかかれば十日間でも、
とも言っていた。
「こんなんでも内申に
口を
ゼェゼェ言っているセレスに声をかけてきた。
やや
学院での成績は常に上位である。
セレスは目のやり場に困りながら、
「付き合わせてすまないと思っているよ。ティナ。」
と
「ティナさん。
フランがさり気なくセレスとティナの間に割って入る。
「だらしないお腹が
「あー!言ったわねぇ!」
ティナがふざけ半分で
三人は幼なじみだった。
ジューヴェルデ家も、
ソリアード国ではフォロイル
「補習の後だというのに元気だな。」
別の方向から声がした。
レイナルド・ゴルディネロだった。
ゴルディネロ家も、
ソリアード国ではハイルペラ
おまけに
しかし、それを鼻にかける様子は全く無い好感の持てる人物であり、
セレス、フラン、ティナとも幼なじみである。
身長はミリアと同じくらいであるが、
サラリとしたブロンドのショートヘアに切れ長の青い目、高い鼻。
成績もティナと同様に
「レイも全然元気そうじゃないか。」
ようやく息を整えたセレスが言う。
ミリアのしごきにしっかり付いて行けていたのは、
セレス、ティナ、レイぐらいのものだった。
「
レイが手と首を横に
「そうだ!
元気いっぱいにミリアのところへ行ってしまった。
「(ミリアのファンなのかな?)」
フランとティナを見やると、せっかく良い
生徒会長のロメリオ・ウェスカーと
副生徒会長のジュリア・サリニャーナの周りをグルグルしている。
セレスは、まだ
「フラン!今日も先に鳥車に向かっているから!」
と
フランの入浴と
静かな鳥車の中で本の一冊でも読んでいたい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
学院の
下校時刻をとうに過ぎたせいもあって静まり返っていた。
制服に
ロッカールームには目もくれず、エントランスまで
教科書類はきちんと持って帰って、自宅で復習と予習をやるためだ。
「(今は少しでも多く知識と技術を身に着けなければ…。)」
と、
エントランスの
セレスは、ドキっとして立ち止まった。
少女が
ティナだった。
「…待ってたのよ。セレス。」
ティナは
「ティナ…?
セレスはドキドキしながら言った。
「…いやね。…私の
ティナは、ニコっとしながら言う。
「…なるほど。」
セレスはうなずいた。
ティナに
ティナは
風の
風圧で物理的な動きを制限したり、
逆に動きを向上させたりといったことも出来る。
「それにしても…、あっ。入浴をしなかったとか?」
セレスは、それでも
ティナの服をじろじろ見ながら言った。
簡単に
どう着るのかよく分からない
ハデな色のタイツまで
「(これからどこかのパーティにでも行く気だろうか…?)」
セレスが実習場を出てからここまでは、
入浴も簡単に済ませたし、最短
二十分かかったかどうかというところだった。
仮に実習場から空を飛ぶように移動したとしても、
「…やだ。私もしかして、…
ティナが言いながら、クンクンと自分の
「いや、
セレスは
「…そう?」
ティナはそう言うと、急に改まったような態度で、
「実は二人っきりで話したいことがあって…。」
と言いながら目を
セレスは再びドキっとした。
二人っきり。
確かに、エントランスにほど近い鳥車止めまでの短い道のりとはいえ、
この
ゆらゆらと
人っ子一人いない。
「…私、セレスのこと、好きよ。」
ティナが
「えっ?」
セレスも立ち止まる。
そして、
「…君は、レイが好きなのだと思っていた。」
と言った。
セレスは本気でレイのことを買っていた。
顔もいいし。
性格もいいし。
成績もいいし。
おまけにジューヴェルデ家とゴルディネロ家は親同士の仲もいい。
実際、学院内では
「美男美女のお似合いカップルだ。」
とウワサされている。
「…
言いながら近づいてきたティナは、
そのまま目を閉じて、顔を
セレスは
言った。
「お前は
ティナが目を見開く。
「学院内での無用な
簡単に破るようなほど、ティナは無作法な女性ではない。
まして、かいた
デリカシーの無い女性でもない。」
セレスは静かに
本当は最初から分かっていたのかもしれない。
セレスの直感がずっと危険信号を鳴らしていたのだ。
と、
ティナの姿をした
「
セレスに向かって
「うぐっ!?」
セレスは、とっさに
セレスの全身が岩々に
まるで雪だるまにされたようだ。
「これで外灯の光も届かないわ。」
ティナの姿をした
もはやティナの声ではない。
「あんたが次の
私の
サラサラとティナの姿が
中から現れた人物は、
「『お前は
私は、
あんた達、人族を
と答えた。
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