第127話暴走

「死ねぇ、クニカズ」


 俺は触手から繰り出される無数の魔力を迎撃していく。システムアシストが完全に機能している状態なら何とかしのげる。だが、強力な攻撃であり、いつまで持つかはわからない。速やかに、アリーナを撃破しなくてはいけない。


『奏、どうなっている。前回の戦いで、間違いなくアリーナは致命傷を負っているはずだ。なのに、どうして生きているんだ。それにあの触手は……』


『おそらくですが、死の瀬戸際で、持っていた賢者の石を自分の体の中に取り込んだんだと思います』


『そんなことが可能なのか? それに、宰相が持っているはずの賢者の石がどうして、あいつも持っているんだ?』


『もうひとつのアカシックレコードの思惑としか……考えられるのは、宰相が持っていた賢者の石は、レプリカのような不完全なもの。完全版は、アリーナさんが保有していたと考えれば、辻褄は合います』


『……賢者の石を自分に取り込むとどうなる?』


『あくまでも、憶測ですが……おそらく、自身の体が強力なエネルギー炉のようなものになると……賢者の石から吐き出される魔力によって、巨大な力がもたらされるはずです。ただし、その副作用で、自我は崩壊し復讐マシーンのような思考に支配されていると思われます』


『じゃあ、あの触手は……』


『おそらく、失った腕を補完するために作り出されたものですね』


『どうやったら勝てる? 仮にダメージを与えても、すぐに再生するんだろ?』


『取り込まれて、体のどこかに隠されてコアになっている賢者の石を物理的に破壊するしかありません。時間を稼いでください。彼女のどこにそれが隠されているか分析します』


『無理を言ってくれるな』


『できるでしょ? センパイなら』


 俺は一気に飛翔スピードを上げる。機動力を生かして、奴に近づくためだ。そして、地上を背にしていれば、地上部隊にへの被害を増やしてしまう。


「ちょこまかと……逃がすわけがないでしょう」


 賢者の石によってか、アリーナの移動スピードも格段に上がっている。世界の命運をかけたドッグファイトが始まった。


 ※


 俺はなんとか接近を試みる。触手がムチのような動きで、こちらを攻撃してくる。魔力を込めたダンボールの楯が自立した動きでそれを防ぐ。


「神の楯。悪魔のくせに、生意気にも神を名乗るな」


「俺は神なんかじゃない。悪魔でもない。ただの元ニートの英雄だ」


「ニート? 何を言っているの?」


「俺は皆に支えられてここに立っている。俺のために死んだ人もいる。守れなかった人もいる。でも、皆が俺を信じてくれるから、ここに立てている」


「そうやって、お前はすべてをだます」


「騙しているのはわかっている。だが、俺は理想に近づくために頑張った。この2度目の人生ではな」

 触手の攻撃をギリギリでかわす。

 俺は、高速で移動する敵の後方に回り込むことに成功した。


 だが、今の戦闘機でも後方に攻撃は可能になっている。戦闘機よりもさらに柔軟に運用できる航空魔導士にとっては、後方を取ることは、もはや勝利には結びつかない。


 アリーナは触手や魔力を使ってこちらを攻撃する。だが、俺はそれをシールドを使って対処する。


「アリーナ。楽しくはなかったか? 俺たちと過ごした学生生活は……一緒に目的に向かって努力した日々は? 俺たちはたしかに同じ時間を共有していた」


「……」


「お前が敵だと分かっても、感謝している。だから、俺の手で終わりにする」


「勝手なことを言うな。お前が召喚されたことで世界は変わってしまった。お前がいなければ、父は死なずに済んだかもしれない。すべてお前が……」


 言い終わる前に、俺の威嚇射撃が偶然にも触手を直撃する。


「ちぃ」


「これで終わりだ」

 速度が落ちて狙いやすくなったアリーナに向かって連続攻撃を仕掛ける。

 だが、触手によってそれらはすべてはじかれてしまう。


「もうやめて!!」

 リーニャの声が響いた。

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