第126話宰相の敗北

 転移した瞬間に上空には大量の航空魔導士。そして、攻撃は始まる。


「完全に読まれていたか」

 その危険性は承知していた。だからこそ、空間転移の場所を何度も入れ替えて、読まれにくくしていた。だが、今回の動きは……


 今から思えば、完全にクニカズに誘導されていたことになる。


 目の前に爆発が起き、私は吹き飛ばされた。


 ※


 目が覚めた瞬間、そこは地獄だった。唯一の希望である最精鋭部隊も、大ダメージを負った。


「そこまでです。宰相閣下。あなたの負けです」


「クニカズか。見事だったよ」

 私の目の前には、ヴォルフスブルクの悪魔が立っている。


「あなたは優秀だ。だからこそ、動きも読みやすかった。撤退が進み、どこに移動するかの選択肢が狭まれば狭まるほど、あなたは不利になる。本来であれば、あなたはここの兵力を見捨てるべきでしたね。あなたは優しすぎた」


「国のために戦った英雄を見捨てて、なにが宰相だ」


「……ご立派です」


「さぁ、私を殺せ。そうすれば、祖国はキミたちのものになる。大陸における最強の超大国が誕生するだろう。それもすべて、計画通りか?」


「私は、あなたを殺せません」


「何を言っている? まさか、捕虜として利用するつもりか。甘く見られたものだな」


「違います。我々が考える戦後には、あなたが必要なのですよ。戦争を終わらせることは、始めることよりも難しい」


「……」


「もし、ここであなたが戦死すれば、あなたは英雄となり、グレアは総力戦で戦争を行うことになるでしょう。あなたが止めてきた主戦派たちが制御を失う。そうすれば、両国はこれまで以上に血で血を洗う戦いになる。そうすれば、勝者はいなくなる」


 クニカズという男の恐ろしさをこの時、私は初めて知ったのかもしれない。それは国家を売る以上に、大きな選択肢をこちらに突き付ける。


「ここで引けということか。我がグレア帝国が、新興帝国に完膚なきまでに叩きのめされて、敗れたという事実を背負わせる。国家の尊厳すら奪うような悪魔的な選択肢だ」


「あなたがたは、冷静に考えれば、もう継戦能力はない。海軍戦力の40パーセント、航空戦力のほとんどを失っている。さあ、講和会議のテーブルについてください。あなたには、戦争を終わらせる義務がある」


「……為政者として、選択の余地すら与えてはくれないのか」

 観念し、クニカズの手を取ろうとした瞬間……


 上空を飛来していたクニカズ指揮下の魔導士が3人撃ち落とされた。


『大変です、クニカズ総監!! 南方より高速でこちらに向かってくる飛行物体が!!』


「認識できるか!?」


『魔力パターンは……まさか……アリーナです!!』


 ※


 私はクニカズに向けて一気に距離を詰める。


『ここで終わりにしましょう、クニカズっ』


 ※


 俺は、部下たちを下げさせて、アリーナの迎撃に向かう。超高速で接近する彼女の魔力を垣間見て、並々ならぬことが起きたと直感する。


 前回とはまるで違う。禍々しいオーラをまとっている。


「生きていたのか、アリーナ」


 アリーナは、左手を失っていた。だが、そこからは魔力によって作り出したと思われる緑の触手のようなものがうごめいていた。


「あれで私を殺せると思っているの。ふふ、神は私を見捨てない。私は、神の使徒。邪神の使いであるあなたなんかに殺されない。あなたがいなければ、こうはならなかった。すべてを終わりにしましょう」


「もう、戦争は終わる。お前が考える破滅は訪れない。だから、やめろ、アリーナ」


「そうやって、あなたは世界を内部から崩そうとするんでしょう。見せかけの平和なんて意味がない。この戦争が起きたようにね。なら、すべてを壊してやる」


 今まで感じたことがない強力な魔力だ。


「なにをするつもりだ」


「わかっているでしょう? クニカズ? ここであなたとグレア帝国の宰相を殺せば、暴走するこの時代は止められなくなる。戦争を終わらせることができるのは、あなたたち2人がそろってこそ。どちらかでも消えてしまえば、そのまま血で血を洗う大戦争に突入する」


「もう事実上の戦争は終わったんだ。今からは誰も殺させない」


「なら、守ってみせなさい。無駄な抵抗だと思うけどね」


 アリーナは攻撃態勢に入った。狙いは俺の後方で動きが制限されている宰相だ。俺の最終ミッションは、敵味方すべてを守り切り、アリーナを撃破すること。難易度は高いが、わかりやすい。


 俺も臨戦態勢で魔力を解放する。

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