第125話反攻作戦

ヴォルフスブルク帝国軍発表


「我が精強なるヴォルフスブルク帝国軍は、ロダン高原において、グレア帝国・マッシリア王国連合軍主力を撃破せり。敵司令官ネール陸軍大臣は、戦場において果敢に戦い討死。敵主力部隊の半数をせん滅、捕虜にしたことを発表する」


 この発表によって、こちらの士気はうなぎのぼりだ。

 グレア帝国の主力部隊は崩壊し、再編は絶望的。残存戦力は一目散に旧・ザルツ公国領へと撤退している。おそらく、無駄な抵抗をすることなく、ヴォルフスブルク領のほとんどを放棄するつもりだろう。情報局からの報告では、グレア帝国内にいる戦力のほとんどを旧ザルツ領内に輸送を始めている。だが、宰相の直属部隊が脅威ではあるが、数は少ない。あとは、突貫工事で作り出した予備戦力というのが本当のところらしい。さらに、航空部隊も全滅に近い。


 こちらが旧領を取り戻し、ザルツ領に近づいたところで交渉のテーブルに赴かなくてはいけなくなるはずだ。


 西方戦線も形勢が傾きつつある。下手に現状の戦線を維持しようものなら、ロダン高原を制圧した兵力が西方戦線に増援に向かえば、向こうはそちらの兵力まで失うことになる。


 すでに、グレア帝国が軍を再編することには数十年レベルの時間が必要になっている。


・北方艦隊の壊滅

・ロダン高原において、ベテラン兵士や優秀な指揮官を喪失

・育成に時間がかかる航空戦力の壊滅


 敵は陸海空すべてにおいて、大損害を被っている。もはや、国力的には限界だ。

 これにおいて、大陸の覇権は、ヴォルフスブルクが掌握したと言えるだろう。


「クニカズ将軍、皇帝陛下がお呼びです。今後の情勢について、ご意見を聞きたいと……」


「わかった。今行く」


 これからは戦後を考えていかなくてはいけない。新しい戦いが始まろうとしている。


 ※


―ゴーリキー少将視点―


「進め、敵は敗走している。ここで手柄を立てるチャンスだぞ!」

 クニカズとアルフレッドの指揮によって、壊滅的な被害だった南方戦線は、奇跡の大逆転を遂げた。敵主力部隊の壊滅。グレア・マッシリア連合の両指揮官の戦死。制空権の確保。すべてを成し遂げてしまった。世界史史上に残る完勝劇。ロダン高原の決戦は、のちにそう評価されるだろう。砦で酒を飲んだ若者が活躍していることに嬉しさしか感じない。


「参謀長、前衛に新しい兵力が……おそらく殿しんがりを務め、撤退をサポートするものと思われます」


「どこから来たんだ?」


「わかりません。敵の後方からです。おそらく後方にいた遊軍ではないかと思います」


「軍団長に連絡しろ。あまりに不気味だ。ここでリスクを取る意味はない。すでに多勢は決している」

 あとはゆっくりと戦えばよい。クニカズならそう言うだろう。


 だが、軍団長はそうは思わなかったようだ。中将という微妙な立場と優秀な若者たちの功績に焦ったのかもしれない。自分の直属部隊が特に前に出ていた。


 巨大な魔力攻撃が、軍団長がいるはずの本陣を貫く。

 攻撃元には見知った旗が翻った。


「参謀長、グレア帝国宰相旗です」

 本来、南方方面の支援に動くと予想されていた部隊が、なぜか西方戦線にいた。

 

「なんだと。軍団長とすぐに連絡を!!」


「ダメです。先ほどの攻撃に巻き込まれたようです。おそらくは……参謀長。あなたが次席指揮官です。指揮を引き継いでください」


「……そうか」

 あの破壊力の攻撃が可能であれば、数的な有利は意味がない。ここは被害が大きくならないようにしなくてはいけない。


「これより西方方面軍の指揮を引き継ぐ。無駄な突撃は控えろ。砲撃に巻き込まれないように、横に長く布陣する」


 ※


―宰相視点―


「大丈夫ですか、閣下。やはり、あの空間転移魔力は……」


「ああ、予想以上に体力を消耗するね。だが、これで撤退作戦は、ほとんどクリアだよね」


「ご無理をなさらずに」


「無理くらい、しなくてはいけないよ。制空権は完全に喪失。主力部隊も失った現状では、これくらいしか手段がない。あとは、残存部隊の撤退支援だ。1日1回が限界なのが口惜しいね」


 賢者の石。アリーナからもたらされた秘密兵器は、使用者に膨大な魔力を与えてくれる。だが、空間転移魔力は、最上級魔力であり、膨大な魔力が消耗される。


 あと、数回が限界だろう。制空権がない状況で、移動するのは自殺行為だが。この能力なら話は別だ。いざとなれば、敵の首都近くまで転移して、強襲すれば大きな被害を与えられるだろう。だが、それをおこなえば反撃にあうのは必然で、片道切符になる。


 だから、今のようなゲリラ的なやり方が基本となる。

 これならば、敵の航空部隊の到着前に、場所を離れることができる。


 敵の出血を強要し、どこかで講和をする。それが残された選択肢だ。


「宰相閣下。敵が東方より旧ザルツ領内への侵攻を準備しています」


「わかった」

 

 ※


 転移魔力によって、こちらは敵軍のわずか後方に出現した。これで、敵の本陣を強襲できる。将官クラスが戦死すれば、現場に間違いなく動揺が走る。さらに、指揮権の空白が発生すれば、味方の撤退や反撃に友好な時間を作り出せる。ヴォルフスブルク西方の撤退戦にはそれが一番うまくいった。


「敵への攻撃を許可する」

 こちらが敵の司令部らしき場所を射程に抑えた瞬間……


「閣下、敵襲です。敵航空魔導士、多数。指揮官は、クニカズです!!」


「なんだと……」

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