第123話クニカズの進化

『(センパイ、アルフレッド将軍から魔力通信です。『世界最強の航空魔導士のレベルを披露してやれ』だそうです)』


「無理を言ってくれるな。こっちは医者の制止を押し切って前線に戻ってきたんだがな」


『(でも、あなたは絶対に止まらないですよね。もう誰も奪わせないんでしょ?)』


「ああ、そうだよ。モード:エイギス発動」


 俺は、進化した自分の力を解放する。体に恐ろしい負荷がかかるが、一気に敵の半数をロックオンする。


『センパイ、攻撃許可を』

 後輩は、俺の負担軽減のため、できる限り補助をしてくれるようだ。


「ああ、撃ち落とす」


 俺が放った攻撃は、30発ずつ2回に分けて、敵航空部隊すべてに攻撃を浴びせる。地上の味方に一歩も触れさせない。神の楯。


 ありえない飽和攻撃によって、敵は光に包まれていく。

 攻撃を避けたエース部隊には、3発ずつ追加で攻撃をしていく。


『センパイ、敵航空部隊の壊滅を確認。ですが、1機生き残りがこちらに突っ込んできます』


「やはり、来たな。アリーナが」


『はい!』  


「決闘だ。一気に敵をせん滅するぞ」


 俺は、アリーナに向かって突撃する。


 ※


『クニカズ総監だ!』

『すごい連続攻撃だな。魔力の軌跡がまるで、白煙の天使』

『これで勝てる。クニカズ将軍の復活は本当だったんだ』

『ひとりですべて片付けていくぞ』

『敵、航空部隊の壊滅を確認!』

『あれは本当に守護天使だ』


 ※


「ついに来たわね、悪魔めっ!!」

 アリーナは、今まで戦ってきたどの魔導士よりも力をみなぎらせて、俺と対峙していた。


「どうして、俺をそこまで憎む? 少なくとも俺は、お前を友人だと思っていたんだぞ」


「友人? 笑わせないで。私は最初からお前たちを利用するつもりで近づいた。お前は破壊者だ。神はそう言っていた。さっきの攻撃でもわかる。お前がこちらの世界に来なければ、生き続けることができた命がいくつあったと思う!? お前はそれを踏みにじった。万死に値する」


『ダメです。私たちの時代とは違って、こちらではまだ神秘主義的な価値観が根強いんですよ。だから、もうひとつのアカシックレコードは、神として世界に介入できる。それに、アリーナさんは……』


「お前が来なければ、世界は違う方向に行った。父も母も死なずに済んだ。死ね、お前たちだけは全員殺してやる」


 アリーナは、何もない空間から突然、剣を作り出す。こちらも魔剣で応戦した。強烈な魔力同士のぶつかり合いによって、アリーナの記憶が俺へと流れ込んでくる。


 走馬灯のような記憶の束が、断片的な映像となってフラッシュバックされる。


 ※


「お父様、お母様。どうして……」


「どうやら、国王陛下暗殺未遂事件に巻き込まれたそうだよ。まだ、一人娘のアリーナさんも幼いのに、かわいそうに」


「死んでしまいたい。どうして、幼い私をひとりにするの。神様がいるなら、どうしてこんなに苦しい私を救ってくれないの?」


『ならば、お主の願いをかなえてやろう。10年後、この世界には異世界から悪魔によって、英雄を詐称する破壊者が導かれる。その破壊者の来訪する運命が、お前の両親を殺したのだ。お前に力を授ける。その力で悪魔を排除しろ』


 ※


「私の記憶を勝手に読むなあぁぁぁあ」

 彼女が作り出した魔剣の先はまるでムチのようにしなり、俺に襲いかかる。

 エイギス・モードでなければ、おそらく簡単に撃ち落とされていた。


「お前の生きる理由は、恨みか」


「上から目線で、私を見るな、この悪魔がっ」


 たしかに、奏を失った俺は世界を憎んだ。憎しみによって、セピア色の世界だけがずっと続いていた。アリーナにとって、それが人生のほとんどだったとしたら……


 それはあまりにも……


 悲しすぎる。そして、その残酷な運命を用意したもうひとつのアカシックレコードに対して怒りがこみあげてくる。


「死ね、クニカズっ!!」


 ※


 魔力によって空間や時間すらねじ曲がってしまう状況で、俺たちの決闘は続いた。

 お互いに人間の反応スピードを超えた世界にある攻防。勝負はつかず、俺はエイギスモードの力を利用して、なんとか防いでいる。


「強いな」


『これがアリーナさんの本当の力です。おそらく、妖精の加護すらなしに、自力でアカシックレコードの禁忌タブー領域の手前まで到達しているんです』


「妖精の加護もない生身の人間が、その領域まで到達して体が持つのか!?」


『自分の体すら、彼女は捨てている。もう、戻るつもりはないんですよ』


「ちぃ、それじゃあこっちの世界のアカシックレコードは、こうなることも想定済みなのか」


『おそらく……我々のシステムからの干渉を排除できれば、神の巫女などどうなっても構わない。そういう腹積もりでしょう』


「くそったれ」


 俺はほぼノータイムで攻撃をかわしていく。それと同時に足止めのために、アリーナに向かって、魔力の攻撃を仕掛けていく。


 最初に限界が来たのは、やはりアリーナだった。こちらの攻撃に対処しようとした瞬間、吐血し回避行動が遅くなる。こちらの威嚇攻撃がそのまま致命傷になる。


「ぐっ」


「もう降伏しろ、アリーナ! その体では……」


「ぐぎゃあ、ぁhふぃあうがぽ:おfkが:。誰が降伏するものか。お前を殺せないならいっそのこと……」


 アリーナは、右手を掲げて黒い太陽を作り出す。禍々しいほどのオーラを漂わせている。


「ここで私ごとお前たちもろとも吹き飛ばす。これが神の意思よ」


 アリーナは不敵に笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る