第122話女帝出陣

「将軍、皇帝陛下の旗が……」


「うん。ケガをおして、出陣してくれたんだ。クニカズが作ってくれたチャンスをモノにするためにな。皆の者、陛下とクニカズのためにも、敵を倒す。全軍、突撃っ!!」


「「「おおう!!!」」」


 士気は最大限まで高まっていた。

 すでに決着はついていると思えるほど、力強い味方の掛け声とともに、塹壕から出てきた兵士たちは敵に向かって突入していく。


 ※


「皇帝陛下、ご無理をなさらず……」

 近衛騎士団長は、私を気遣ってくれる。たしかに、体調は良くない。立ち眩みや吐き気は、療養中で体力が衰えていたからか。


 だが、ここで彼らの意思を無駄にはできない。クニカズは、私たちを守るために必死に戦ってくれた。アルフレッドも他の将軍たちも、皆、……


 英霊たちにも、ここで君主が引いたら顔向けできない。

 たとえ、ここで私が死んだとしても、私の意思は生き続けていく。たとえ、私がここで死んでも、クニカズが生きていれば、国家の再建は可能だ。そして、大陸全土に平和をもたらしてくれるだろう。


「皆の者、よく聞きなさい。この戦場が国家の命運をかけた分水嶺です。ここで勝利することができれば、祖国の地から敵を排除できるのです。私はここで命を果てようとも構いません。私の意思は着実に別のものに受け継がれる。我々は、クニカズとアルフレッド、そして、多くの英霊たちが作ってくれた活路に賭ける。全力をもって、グレア・マッシリア連合軍主力を叩くっ。突撃!」


 私の叫びに近衛騎士団と帝都防衛隊の精鋭1万人が呼応する。戦況は最終盤に突入する。


 ※


 ここは?


 俺は目を覚ますと、医務室のような場所だった。


「よかった、目覚めましたね? モード:エイギスで力を使い果たして倒れちゃったんですよ。だから、ここに運び込まれたんです」

 妖精は俺のベッドの横にいた。


「ターニャ!! よかった、無事だったのか」


「センパイのせいですよ。あそこで終わるつもりだったのに……あなたが、強引にルールを変えてしまった。あのまま、センパイが神に匹敵する力を手に入れることができたのに。戦争だって、今後のことだってなんでも自由にできたんですよ?」


 俺は目を閉じて思い返す。そして、それでも自信をもって断言できた。


「お前が……ターニャが……奏がまたいなくなった世界で生きようとは思わない。神になるなんかよりも、お前を守ることができたことを、俺は自信をもってよかったと思うんだ」


「ばか、あなたは本当にバカですよ。世界の選択権を握るよりも、私を選ぶなんて……」


「お前を助けることができなくて、世界なんて救えるわけがない。奏ともう一度会えることができた。それだけでも、転生した意味があったと思うよ」


「……婚約者がいるのに、どうしてっ」


「次に会えた時は、お前を絶対に守ると決めていたんだよ」


 俺はベッドから立ち上がった。


「どこに行くんですか、そんなボロボロの体で……」


「まだ、戦いは続いているんだろう。アルフレッド達のことだ。きっと戦況をうまく進めているはずだけど……俺も戦う」


「やめてください、センパイ」


「大丈夫だよ、お前たちを残して死ぬわけにはいかない」


 俺は力強く、地面を踏みしめる。おそらく、現在、天王山の戦いが行われている。これが今後の歴史における分水嶺だ。命を懸ける価値がある。


「さぁ、いくぞ、奏……」

 俺はルビコンを渡る決断をする。さいは投げられた。


 ※


―名もなきヴォルフスブルク兵視点―


「いけ、一気に切り崩せ。敵主力をここで撃破すれば、失地奪還はたやすい」

 アルフレッド将軍の檄が飛んだ。そうだ、今まで負け続けてきたんだ。圧倒的なスピードで負け続け、希望も故郷もどんどん消えていく絶望的な状況。ポール一派が実はクーデターを仕掛けていたなんて……あの情報を聞いた時はもう何も信じることはできないと思った。


 だけど、クニカズ総監やアルフレッド将軍、そして、皇帝陛下は自らの信念を行動で示してくれたんだ。


 自ら最前線に立ち、負傷しながらも敵航空エース部隊を撃破し、制空権を確保したクニカズ総監。

 クニカズ総監の意思を継いで、巧みな戦略で、敵の動揺を誘い、戦局を逆転させたアルフレッド将軍。

 重傷を負いながら、兵を励ますために、自ら出陣し前線に赴いてくれた皇帝陛下。


 上の人たちにここまでされて、士気が上がらない兵士はいない。


「いけ、祖国を取り戻せ」


「ここで頑張らないで、どうする」

 周囲からは声が飛んでいる。


 だが……


「大変だ、敵航空部隊の編隊を確認。数、60」


「なっ……」


 俺たちは絶望に包まれる。敵も主力部隊壊滅の危機を脱するためにリスク覚悟で、航空部隊を投入してきたのだ。


「ちぃ、あげられる魔導士は何人いる」

 アルフレッド将軍は幕僚たちに確認を始める。


「各地でエアボーン作戦に従事しているため、すぐに来ることができるのは20ほどかと」

 将軍は苦々しい表情を浮かべた。クニカズ総監がいない状況では、人数が足りないと判断したのだろう。


「地上部隊を中心にして、敵航空部隊を迎撃する。対空戦闘用意っ!」


 こちらの対空砲と魔導士たちが集中しはじめる。ここで止められなければ、敵の主力部隊を逃がす結果になるのは明らかだ。


「将軍、我が領内から、高速でこちらに向かってくる存在を確認」


「数はいくつだ。味方の増援か?」


「識別魔力から判断すると、こちら側。数1。クニカズ総監のものです」


『おおっ』

 わずか1名の増援にもかかわらず、味方陣営に歓喜の声が響いた。


「しかし、いくらクニカズ総監でも、1名では多勢に……撤退をさせたほうが……」


「いや、クニカズが来ていると分かれば、地上部隊の士気はさらに上がる。おそらく、敵の60の航空魔導士には、エースが含まれていると思うが……クニカズなら大丈夫だ。交戦を許可する。世界最強の航空魔導士のレベルを披露してやれと伝えてくれ」

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