第119話アイギス
俺の意識は異世界に戻される。
目が覚めた瞬間、自分の感覚が鋭敏化していることがわかった。黒煙のせいで目は使えないはずなのに、敵が常時放出している魔力によって敵がどこにいるかよくわかった。
敵のエース部隊、ゴールデンホーク隊が前方に10人。さらに後方には撤退している敵の航空部隊が数十人。
こちらの動きに警戒し、ゴールデンホーク隊は戦闘モードに移行している。
だが、敵の動きはとても緩慢だ。いや、後方の敵部隊のことを考えれば、俺の時間意識が狂っているんだと思う。すべてがゆっくりに感じる。自分の意識領域に大きな変化があった。これが、モード:アイギスか。
俺は自分の髪の変化に気づく。黒髪が完全に白髪化している。
さらに、俺の護衛になっていたダンボールは、銀の楯になって空中を浮遊していた。自律的な意思をもって。
「うろたえるな。攻略法は同じだ。遠距離攻撃はじめっ!!」
敵の攻撃が始まる。だが、俺は特に意識することなく、7発の攻撃を迎撃する。自分の意識を介在することなく、反射のようにノータイムで自分の身を守るために最適な行動を行っているようだ。
これじゃあ、まるで空に飛ぶ"イージス艦"だ。
アメリカが、ソ連の飽和攻撃に対抗するために作られた最強の盾。アメリカ軍の至宝である原子力空母を守るために、開発されたイージスシステムを搭載した軍艦だ。
その特徴は、多目標同時処理能力。人間の意思を介在させることなく、機械的に空中にいるミサイルや敵航空機200以上を同時に追尾することができ、同時に12以上の目標に攻撃可能だと言われている。さらに、改修されたイージス艦は、宇宙空間から高速で飛来する弾道ミサイルすら撃ち落とす。
実際、2008年にはアメリカ軍が放った疑似弾道ミサイルを、海上自衛隊のイージス艦が大気圏外で迎撃に成功している。
人間と思えない俺の攻撃処理に、前方の敵は絶望していた。
近接戦闘担当の3人が一気に俺に近づくが、考えるよりも先にこちらが反撃に動いていた。自分でも驚くほどの攻撃スピードで、敵3人を撃破する。
さらに、敵に体勢を立て直す余裕すら与えずに、俺は残った7人に対して、2発ずつ計14発の攻撃を放つ。熟練したエースでも、自分に対しての攻撃に対処するには1発が限界だというのはわかっている。2発同時処理は、死を意味する。
『まさに、悪魔か』
敵の断末魔が聞こえた。それと同時に空中には7発の爆発が発生する。
敵のエース達は爆散した。
※
―アルフレッド視点―
味方の航空支援によって、地上軍を襲っていた敵の航空戦力は排除された。
最初の攻撃で被害を被ったがなんとか戦線を維持できそうだ。さすがだな、クニカズ。
『将軍。航空魔導士隊から連絡です。敵の確定撃墜数30。うち半数が、クニカズ総監によってもたらされた戦果です』
「うむ」
圧倒的な結果だった。おそらく、敵のエース部隊が含まれたいたはずだが……
『しかし、クニカズ総監が、敵の最精鋭部隊であるゴールデンホーク隊と交戦。全敵戦力の排除に成功したものの、総監が被弾。重傷を負った模様です』
「クニカズが被弾だと!? 容態は?」
『魔力の直撃を食らったようで、生きているのが奇跡だと……ゴールデンホーク隊からの攻撃で、被弾後に全戦力を撃ち落としたようです。現在、後方に下がり治療を受けているとのこと。意識を失っているようですが、命に別条はないそうです』
「そうか……クニカズの治療に全力を挙げてくれ」
エース部隊を被弾後に撃破。おそろしい男だ。だが、決戦においてクニカズの援護を望めなくなったことは痛恨だ。そして、あのクニカズが被弾するほど敵の戦略が巧みになっていることもわかる。
クニカズがいない状況で、敵の航空戦力も増援されるだろう決戦に挑むべきかどうか。
悩みどころだ。ここで敗北すれば、すべてを失う。
だが、決戦を遅らせれば、戦力の消耗が激しくなり、決戦に挑めなくなる可能性もでてくる。
「いや、ここはクニカズが開いてくれた突破口を無駄にしてはいけないな。全軍、前進を続ける。クニカズが負傷していても、彼が育てた航空魔導士隊は健在だ。私は彼らを信じる。グレア帝国軍を祖国から排除するために、皆、力を貸してくれっ! クニカズの献身を無駄にするな」
『おーっ!!!』
クニカズの負傷が士気に致命的なダメージを与える心配もあったが無事に乗り切れたな。
ここから祖国の命運をかけた決戦が始まる。
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