第116話飽和攻撃
俺が距離を詰めようとすると、遠距離攻撃が飛んでくる。俺はダンボールの防壁を使って防いだ。ここまでは想定通りだ。だが、俺はどうしても足を止めなくてはいけない。
そこを3人の近接戦闘要員が
剣で攻撃をいなし、ギリギリのところでかわす。しかし、これは後方部隊の詠唱時間を稼ぐための行動だ。準備が整えば、すぐに離脱して俺は長距離攻撃に襲われる。
「ちぃ」
舌打ちしたながら防戦に回る。
「(センパイ、大丈夫ですか?)」
「まずいな、飽和攻撃の一種か」
飽和攻撃。簡単に言えば、防御側の処理能力を超える数の攻撃をこちらに向ける方法だ。
一斉に攻撃を受けても俺は処理が可能だ。それは何度も実戦で体験している。だが、今回のように休む時間なく魔力→近距離攻撃→魔力→近距離攻撃……と攻め続けられると、俺を守る楯の強度が削られていく可能性がある。
俺は個人技でここまで活躍してきた。だが、相手はチームワークで個人の限界を狙ってきている。一度に複数の攻撃には対処できても、連続して永遠のように続く攻撃に耐えることは難しくなる。正確な処理は疲労と緊張で徐々に難しくなる。
そして、限界が訪れた。
ほんの一瞬の油断だった。本来なら避ける選択肢を選ぶべき所で、俺は防壁を選んでしまった。
魔力攻撃で耐久が低下していたダンボールは、敵の剣に貫かれる。俺はとっさに防壁を突破した剣を身をよじってかわす。
だが、それはあくまで攻撃の第一段階だった。防壁を失った俺に対して、複数の魔力攻撃が襲いかかってきた。それは無慈悲に俺をとらえている。
「(センパイっ!!)」
人生の最期に聞いた声は、なぜか懐かしい後輩の声だった。
痛みと爆発によって意識は暗闇に飲まれ落ちていく。
※
―ゴールデンホーク指揮官―
「これが英雄の最期だ」
魔力の集中攻撃は、史上最高の天才をとらえていた。
ヴォルフスブルクの急速な発展を支えた男の最期かと思うと感慨深い。これで戦争は終わる。ヴォルフスブルクは解体され、グレアが超大国として君臨する世界の出来上がりだ。
『
クニカズの体が黒煙に包まれた瞬間、女の声が周辺に響いた。
『
『
女の声は淡々と意味の分からない言葉を並べていく。
『意識領域、アリアドネの糸からクロノスタシスへと到達』
『誘導装置、
『モード:アイギス始動』
※
―アカシックレコードー
「これはまずいな」
クニカズの様子を確認しながら、自分の思惑とは別の方向に歴史が向かっていることを実感し憂鬱な気分となる。やはり、ダメだったか。歴史とは無数に枝分かれする。その枝分かれした世界は結局、停滞からの破滅に収束する。その破滅への収束から逃れるために彼を投入したわけだが……
それは別世界のアカシックレコードの介入を生んだ。
アリーナと呼ばれる女は、間違いなく別の世界のアカシックレコードの影響を受けている。そして、クニカズを追い詰めているこの戦法は、アカシックレコードの介入の余波を受けて編み出されたものだろう。
飽和攻撃。
クニカズの魔力障壁も完璧ではない。彼を守る楯はついに貫通した。魔力障壁を失ったクニカズは、無防備に複数の攻撃にさらされて黒煙に包まれた。
「ここまでか……」
あくまで観測者に徹するか。
私は超越者であっても絶対者ではない。あの世界で死んだ者を生き返すこともできない。さらに、クニカズを送り込むような介入は、そう何度もできない。
彼の死は、こちらにとっても大きな損失なのだ。
しかし、事態は私の思惑を超える結果を生み出すことになった。
『
私が遣わした妖精の声が聞こえた。
まさか、気づいていたのか?
あのシステムに?
だが、それを使えば、お前たちはお前たちではいられなくなる。アカシックレコードへのアクセス権の安全装置を解除すれば、下手をすれば世界すら終わらせかねない。
『
『
クニカズの生存本能を極限まで上げて、知覚領域を拡大させる。そして、人間の限界を超えようとしている。
『意識領域、アリアドネの糸からクロノスタシスへと到達』
極限まで知覚領域を拡大させることで、時間の概念すらねじ曲がる。彼女は、本来なら到達不可能な時間概念を超える領域までクニカズを押し上げようとしている。ミノタウロスが座する
『誘導装置、
ここで妖精は本来の力と記憶を完全に取り戻す。それが二人の運命を変えることになっても。
『モード:アイギス始動』
あらゆる災厄を払いのける
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます