第115話ゴールデンホーク

―ロダン高原上空(名もなきグレア帝国航空魔導士視点)―


「いけ。クニカズが来る前にこちらの空域を抑えるんだ」

 上からの命令が飛んでいる。


 すでに、両軍が入り乱れた空中戦が発生している。僕の担当は地上攻撃だ。ロダン高原北方の後方にいる敵陸軍を爆撃することだ。航空戦力の数ではこちらが勝っているはず。集団戦法で技術力に優れるヴォルフスブルクに対して対抗して戦況を優位に進めていた。


 対空部隊が作った活路によって、すでに10人程度の地上攻撃班がヴォルフスブルクの防衛線を突破し攻撃に向かっている。


 目の前で2つの爆発が発生した。


「よしやったぞ」


 部隊の誰かが声をあげた。明らかに地上部隊への攻撃が成功した瞬間だった。敵の布陣前に戦力を削り切れれば、それだけ有利になる。


「前の部隊に続くぞ。一気に進め」


「おおっ!!」


 爆発によって士気が上がる。ここで手柄を立てれば英雄だ。英雄。その単語に若い血が騒ぐ。僕も手柄を立てれば……


 隊長たちが先攻する。ぼくたちもそれに続く。敵の地上部隊にもうすぐ迫る。その瞬間だった。

 先行していた隊長たち2人の体は突如、爆発し黒煙を上げながら地上へと落下していく。


「えっ!?」


 僕たちは思わず空中で止まってしまった。次席指揮官の副隊長は後方にいる。隊長が撃墜された今では彼の指示を聞かなくてはいけない。


「副隊長!!」


 誰かが叫んだ瞬間、僕の近くを高速で魔力が通過していった。精確な狙撃が副隊長に直撃し、隊長と同じ運命をたどらせる。


「悪魔だ。ヴォルフスブルクの悪魔だ」

 ありえない距離から放たれた狙撃の魔力痕が悪魔クニカズと一致する。


「にげ……」

 さらに攻撃が追加される。1本の魔力線が俺たちの元にたどり着こうとした瞬間だった。魔力の攻撃が分裂してこちらを襲う。同僚たちは次々と光に包まれる。そして、黒い炎に包まれていった。


 死ぬ。そう思った瞬間にはもうどうにもならない。すべての動きがゆっくりで避けようとする自分の動きもまるで止まってしまったかのように固着する。


 だが、僕に迫っていた攻撃は直撃する寸前で真っ二つに切断された。


「大丈夫か、少年?」


「は、はい」


 僕の目の前に立った男の人の左腕には金色の鷹のマークがほどこされている。


「悪魔は我々に任せて引け」


黄金の鷹ゴールデンホーク部隊っ!」


 エース部隊同士の戦いが始まろうとしている。


 ※


 戦隊を組んだ敵のエースパイロット部隊が続々と俺の前に集結する。

 グレアの切り札部隊の一つだ。陣形を組むスピード、兵士同士の間隔、そして、部隊のメンバーそれぞれがお互いの役割を持ってこちらに警戒している。


 中央に陣取っている部隊の隊長が指揮。さらに後方に魔力を探知する役割を持った監視員。隊長の前方にはエース部隊の中のエースが3名配置されている。俺の攻撃を斬り捨てた男は、一番前にいる。


 その3名が近接戦を司るメンバーだろう。

 指揮を執る人間と通信係、3名の近接戦担当者。そして、残りの5人は遠距離攻撃や補助魔法によって近接戦要員を援護する要員だろう。


 遠距離攻撃や補助魔力を扱うメンバーを増やすことで、普通ならできない連続した援護射撃ができるようになるのだろう。


 普通の魔導士は火縄銃のようなものだ。連射は効かず、撃った後の隙も大きくなる。詠唱が必要であり、体力への負荷も大きい。だから、人数を増やすことでスキをなくす作戦だな。


 長篠の戦いみたいなことをするな。優秀な指揮官だ。トップエースの3名を最も生かすために考えられた陣形。俺が取るべき方針は2つだ。


 距離を取って精密射撃で無力化を狙う。この集団戦法は少しでもメンバーを失えば崩壊する。特に、後方の通信要員が戦闘力はないが一番の要だ。監視員を失えば、この部隊の目を潰したことに等しい。だが、先ほどの出会いがしらへの攻撃で無効化されたことを考えれば、それは難しいだろう。


 だから、近接戦闘で一人ずつ潰していくしかない。


 ※


―ゴールデンホーク隊長―


「大佐、やはりこちらに向かってきます」

 監視兵のミサは震えながらそう言った。震えるなと言う方が無理がある。相手は世界最強の航空魔導士だ。


 だが、すべてを想定して部隊を鍛えてきたつもりだ。勝算は十分にある。陸上の戦闘が始まる前にクニカズが落ちれば、敵の士気は崩壊する。空軍総監と言う立場の男が、前線に出てくるということがそもそも定跡ではない。


「前方に魔力を集中。クニカズの守りを突破する」

 クニカズの脅威は、その正確無比の魔力コントロール……


 そして、謎の楯ダンボールだ。


 だが、今まで単発の攻撃を弾いていたあの楯ははたしてどこまで耐えることができるものなのか?

 1対集団ではたとえ英雄でも限界がある。


 英雄譚は今日、終わりを告げる。

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