第113話末路
―ポール視点―
目が覚めた。どうやらここは陣を張っていた場所の近くにある森のようだ。敵の空襲から身を隠すために全軍で森の中に移動したのだろう。全体を把握した後、自分の体を確認する。全身に激痛と寒気が走る。刺されたわき腹が痛んだ。焼けつくように熱い。
「将軍、目が覚めましたか?」
側近の参謀たちがこちらをのぞきこんでくる。
「ああ、全身が痛い。震えが止まらない。どうして、治療してくれないんだ……」
「それが……」
本来なら治癒魔力を使える衛生兵がすぐに治療をしてくれるはずなのに、なぜか私は放置されている。
「衛生兵は、どうしたっ」
「全員、逃げました。あなたの治療を拒否して……」
「……そうか」
当たり前と言えば当たり前だ。すでに私は反乱軍にでもされているだろう。すべての名誉を失い、英雄に嫉妬し陰謀を張り巡らせた哀れな男の末路。子を失い、こんな場所で不名誉な死を遂げる。名門の家を一代で潰した愚者。それが歴史家による自分への評価だろう。
「苦しい、寒い」
誰にも悲しまれていない反逆者の死。衛生兵にすら治療を拒否された私と、誰もから信頼されているクニカズ。その対比が情けなさを自覚させてしまう。
「嫌だ、死にたくない。私は、軍のトップになるはずの男だったのに……」
体から力が抜けていく。どうやら終わりの時が来たらしい。
「お前たち、私を殺したことにしてクニカズに降伏しろ。そうすれば、罪は軽くなる」
なぜ、こんな言葉出たかわからなかった。
部下たちは包帯で必死に止血しようとするが……
「無駄だ。これ以上の苦しみは不要だ。私は助からない」
その自分の言葉に絶望を味わいながら意識は混濁していく。
「クニカズ、ラドクリフ、女王、宰相……英雄。あの演習がなければ、な」
※
―アルフレッド視点―
ポール派残党はついに降伏した。戦力的にはほとんど無血開城のようなもので、中央軍主力はクニカズが連れてきた北方軍に吸収された。そして、遅滞戦闘を繰り返して撤退している南方軍と合流できれば、かなりの大軍となるだろう。
その兵力を用いて、いよいよ反攻作戦のはじまりだ。
ポール派は粛清された。俺はクニカズと共に大将に昇格。軍務大臣兼中央軍総司令として、対グレア戦争の地上部隊をすべて指揮権に入れた。
俺の補佐官として、クニカズの側近であるクリスタ・リーニャ両名が中央軍高級参謀となっている。両名は中将へと昇格後に、それぞれ補給と作戦を統括立場になった。
そして、クニカズは……
新設された航空軍総監に就任した。これはヴォルフスブルクが保有する航空戦力のすべてを統括し、指揮ができる立場である。元々、クニカズが作った航空魔導士という部隊の名実ともに頂点に立ったことを意味する。
さらに、皇帝陛下の婚約者という立場だ。あまり褒められたことではないが、政治・軍事共にクニカズの意見は強い意味を持つことになるだろう。
これで反攻作戦の準備は整った。
クニカズとは打ち合わせ済みだ。グレア帝国軍主力とは、我が国の中央部に位置するロダン高原で決戦を挑む。入り組んだ川があるおかげで防衛陣を敷くのに適している場所だからだ。問題は制空権になるだろう。そこはクニカズを信頼して任せる。俺の役割は、敵主力に大ダメージを与えて進軍をとん挫させることにある。
これに失敗してしまえば、首都は陥落だ。
「諸君、これより決戦の地に向かう」
一同は頷いた。祖国を守るという目的を持った軍隊の士気は異様に高まっている。
我々は決戦の地へと向かう。
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