第71話エアドミナンス

 ザルツ公国は奇襲を敢行しヴォルフスブルク帝国の領土を侵略した。

 国境警備隊を撃破し、領内に進攻したザルツ公国を撃破するために俺の部隊は出陣する。


 ヴォルフスブルク帝国軍第1遠征旅団の初陣だ。結成されてから1年間猛訓練をしてきた部下たちの士気は高かった。


 ザルツ公国は国力的な劣勢を戦力の集中でカバーしていくようだ。ほとんどの戦力を南部戦線に集結させて、快進撃を続けていく。


 第1遠征旅団の役割は、後退し続けている南方方面軍を助けてザルツ公国主力を撃破することだ。そして、ついに航空魔導士隊同士の戦いも始まるな。


 すぐに南方軍のグリツァー少将と合流した。


「クニカズ准将。応援に来ていただきありがとうございます。私が南方方面軍司令のグリツァーです」


「少将。よろしくお願いします。現状は?」


「かなりまずいですね。正面の兵力差はこちらが2万に対して向こうが3万。向こうには50ほどの航空魔導士隊がいるようです」


「なるほど……」


「現在は山岳地域を利用した防衛戦術に切り替えていますが、航空魔導士隊の猛攻で損害が増え続けています」


「ならば、さきに敵の航空戦力を叩きましょう」


「ですが、第1遠征旅団の航空魔導士を入れても、こちらは30です。数的不利ですが大丈夫ですか?」


「少将。航空戦力は技術力の差がはっきりと戦力の優越になる。戦力差が10倍以上であれば話は別ですが、2倍にも満たない差ならこちらでひっくり返してやりますよ。第1航空魔導士隊は、比喩ではなく、正真正銘の世界最強部隊ですから」


「なっ……」


「航空魔導士隊は俺に続け。陸上部隊の指揮は、クリスタ達に任せる。暴発しないように抑えておいてくれ。制空権を確保次第、反撃に入るぞ」


「了解」

 クリスタは笑う。


「まさか、准将自ら最前線に立つのですか?」


「当たり前ですよ、少将。これが初陣ですからね」


 そして、俺たちは敵の航空魔導士隊に向けて飛び立った。


 すでに、敵の地上攻撃は始まっていた。だが、地上攻撃が行われている状況はスキが多い。狙うなら今しかない。本来なら後方に回り込んで攻撃するのがセオリーだが、敵に奇襲が通用する今なら正面からの攻撃でも有効だろう。


 俺の合図で、爆撃魔法が一斉に放たれる。この場合は味方を巻き込むこともないので、広範囲に逃げ場がなくなる爆発魔力の方が効果は大きい。


 敵の航空魔導士隊は爆発に巻まれて次々と落ちていく。


 問題はここからだ。この攻撃をかわした相手が本命。向こうのエースだ!!


 俺は次の攻撃に備える。


 ※


「皆は一時撤退しろ。このエースは俺が引き受ける」

 味方はほとんど損害を受けていない。ならばこの優勢を維持するために戦力を維持するのが指揮官としての判断だった。


 下手に敵のエースに関わると戦力を消耗するからな。ここは最高の戦力同士で勝負を決めた方がいい。


 俺は先の両公国の反乱で、敵の航空魔導士隊を5人撃ち落としている。前世で言うところのエースの称号は貰えるはずだ。


 航空支配エアドミナンス。それが俺の航空魔導士隊における理想だ。


 航空優勢ではなく航空支配。この概念は、世界最強の戦闘機であるF-22が開発された時に提唱された概念だ。圧倒的な性能を誇る戦闘機で制空権を確保する。


 実際、一世代前の最強の戦闘機であるF-15に対して、F-22は訓練でキルレシオ144:1という信じられない結果を残した。F-15はF-22が作られる以前の世界最強の戦闘機であり、実戦では一度も撃破されたことがない怪物である。


 簡単に言えばF-22、12機が1機も損害を出さずに、144機のF-15を撃破したと考えればいい。


 航空戦の世界では技術力が圧倒的なアドバンテージになる。こちらは、他国に対して数十年レベルで技術力と運用ノウハウで圧倒的な優位性がある。負けるわけがない。それが俺の考えた理論だ。


 それをこの戦闘で証明する必要がある。俺が率いる航空魔導士がいるということが、抑止力にすら働く。それが理想だ。


 俺は生き残った敵兵を魔力で無効化していく。この中で俺とある程度、戦えるのは1人いるかどうかだろう。


 敵を撃墜させて、ついに俺はひとりのエースと出会う。


「くそ、やってくれたな。ヴォルフスブルクのブラウンウルフ!!」


 どうやら俺は茶色い狼という異名があるらしい。光栄だな。


 敵の正真正銘のエースは、青い髪を持った美男子だった。味方を撃破された恨みで、激怒していた。そいつと俺はドッグファイトに移行する。


 正面からの攻撃は簡単にかわされてしまう。やはり、相手は航空魔導士としての適性が強くある。この攻撃をかわして、お互いに有利な敵の後方を目指して心理戦を繰り広げた。


 スピードの緩急。攻撃のフェイント。軌道の微調整。天性の才能がある者同士がお互いの裏をかき合う攻撃。高速で繰り広げられる攻防は、何手にも及ぶ。有史以来初めてのエース同士の対決は、他の者たちには恐怖すら感じさせた。


 そして、決着の時は訪れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る