第70話航空魔導士史
後世の歴史書は語る。
ミゲル=グレイシア著『戦略論詳解』における「航空魔導士の章」から引用。
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航空魔導士という概念は、ヴォルフスブルク帝国の3英雄の一人であるクニカズ・ヤマダ将軍が発案した。
兵科において最も攻撃力が高い魔導士を空に浮かべることで、機動力を確保させたうえで地上部隊を掩護する。初期の航空魔導士は空飛ぶ大砲のような役割を持ち、地上攻撃に専念していた。
前述のクニカズ将軍は優れた魔導士でもあり、今では考えれないが魔道具の補助なく長期間かつ高速で空中移動が可能だった。
クニカズ将軍の功績により、他国よりも先んじて航空魔導士を導入したヴォルフスブルクは、「ヴォルフスブルク・ローザンブルク戦争」や「二公国の反乱」において、圧倒的な実力を発揮した。
この2つの戦争では、現在でも物語の題材となる「世界最強の魔導士ニコライ=ローザンブルクとクニカズ将軍の決闘」や「少数の航空魔導士による要塞線の攻略」が発生した。
弱小国家と考えられていたヴォルフスブルクが復活したことは、この航空魔導士によるところが大きい。
これに危機感をおぼえた他国は、ヴォルフスブルク帝国の承認の代わりに航空魔導士の技術開示を求めて条約を締結した。
「ヴォルフスブルク―グレア合意」と呼ばれるこの合意によって、航空魔導士の技術は大陸中に伝播し発展することになる。
ただし、そのような状況でもヴォルフスブルクは技術的かつ人員の質に圧倒的な優位性を確保していた。さらに、クニカズ将軍と彼の生涯の友人であり後方支援の天才とされたクリスタ将軍は内々に『航空魔導士戦の基本』という共著を作り上げていたことも判明している。これは航空魔導士黎明期において最も傑作とされる書物であり、現在でも基本書の役割を担っている。ただし、この本は軍事機密の塊であり、一般的に知られるようになったのはこの本が完成してから100年以上後のことである。
ヴォルフスブルクは他国の技術や思想よりも100年以上先んじていたと言われるのはこういう理由がある。
航空魔導士の技術を手に入れた諸国は、すぐに実用化に踏み切ったが、魔道具は高級であり魔導士の育成も時間がかかるため、大国以外は少数の運用にとどまっていた。だが、その戦力は絶大であり、すぐに戦争の花形になっていく。
航空魔導士による地上攻撃を防ぐには、同じく空から守るしかなく、この時期に地上攻撃専門の航空魔導士から、空対空も試みられるようになっていく。
技術の開示から数年は、小規模紛争くらいしか発生していなかったが、敵の航空魔導士を撃破することは戦場の勝利に直結することと諸国は体感的に理解していった。
敵の航空魔導士を撃破することは英雄的な行為であり、味方の尊敬を集めていった。そして、航空魔導士を5人撃破した者を"エース"と呼ぶようになっていった。
歴史上における人類初のエース航空魔導士は、やはり、クニカズ将軍だったことをここに付記しておく。
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