ダンボール無双~実家を追放されたホームレスの俺が、後輩属性のダンボールの妖精に導かれて転生しました。前世知識を使って鬼畜ゲーム世界で英雄やってるけど質問ある?~
第44話ホームレス、敵国のスパイを見つける
第44話ホームレス、敵国のスパイを見つける
俺は闇に向かってそう叫ぶ。これで誰もいなかったら恥ずかしいが、強い魔力の流れを感じている。
それも敵意がある人間のものだ。
「あら、ばれてしまいましたか。さすがは、世界最強の魔術師と呼ばれるだけありますわね。クニカズ中佐?」
女性の声だった。意外だな。てっきり男だと思っていた。闇に紛れて姿は見せていない。
「潜伏にばれたんだ。出ては来てくれないのかな?」
「一流のスパイはできる限り姿を見せないものです」
「女は秘密を着飾って美しくなる、か」
名探偵アニメで言っていたセリフを俺はそのまま言ってみた。それっぽいだろ?
「それは良い言葉ですね。私も真似してみましょうか。私の目的は察しがついていらっしゃいますか、中佐?」
「一緒に酒を酌み交わすつもりはないだろうね。できることなら、さきほど将軍に渡した12年物のウィスキーを飲んで素敵な夜を過ごしたいんだけどね」
「ふふっ、ずいぶんと口説くのがお上手ですわね」
「連れないな。どうやら、振られてしまったのかな?」
「どうでしょうか。でもね、中佐。私は欲張りですので。本命になれないつらい恋はするつもりありませんよ。明らかに本命がいるであろうあなたに恋をするなんてばかげたことですもの?」
攻撃を仕掛けてくる気配はない。俺はウィスキーの話題を出して、女がグレア側のスパイだろうとほのめかしたつもりだが、白状するつもりはないんだろうな。
この造船所は軍事機密の塊だ。能力や侵入しやすい場所を知られてしまったら、それだけで脅威だ。
特に、建造中や修理中の軍艦は無防備だからな。
ドックに潜入されて魔力攻撃でも浴びれば簡単に沈没してしまう。
実際、俺がもといた時代でも、海軍基地へのドローンや無人機攻撃の危険性はいくつも論文になっていて、ネットで無料で読めた。
ここまで潜入されていること自体が、かなりの脅威だぞ。
「ふふ、軽い口説き文句を言っているのに、私への警戒は一切怠らないんですわね。生まれながらの戦士ですね、あなた」
笑わせるな、俺は生まれながらのニートだぞ!?
「さすがは、我が国の宰相が見込んだだけはあります。ですが、あなたは私を捕まえることはできないのですよ。怪物的な能力者と言えども、空気には干渉できないもの」
俺は息を止めようとしたが、地面からはガスが噴き出てきた。
しまった、狙いは港湾施設ではなく、俺か!!
「ふふ、大型の魔獣ですらすぐに倒れる神経性のガスです。残念ですが、あなたはここまでですよ。クニカズ中佐っ!」
※
「ふふ、どんなにすごい魔術師でもさすがにガスまでは防げないでしょう? 眠ってしまえばこちらのものよ。眠っている人間を処理するのは造作もないわ」
なるほど、敵意がないわけだぜ。だがな、俺には最強のダンボールの妖精がついている。
彼女は不可能すら可能にする。
「それはどうかな、美人スパイさん?」
「えっ?」
俺は敵が勝利を確信した瞬間に後ろに回り込んでスパイを拘束した。ダンボールをナイフ状にして、金髪女スパイの首元に突き付けた。
結んでいた長い髪は格闘戦でほどけて、まるで糸のように美しく空を舞った。
「さあ、攻守逆転だ」
「うそ、あなたは催眠ガスにまかれているはず」
「残念ながら、あれは
ガスの中からは、さっきまで俺に偽装していた人型ダンボールが現れる。ナターシャの加護を利用して、短い間なら自走できるようになっていた。
「さすがは、世界最強の魔術師ね」
「敵国のスパイ相手に、わざわざひとりで突撃してくるバカなんていないだろ」
「油断したわ。まさかそんな手段を使うなんて思わなかった」
「どうやら、俺だけが使えるものらしいな」
女に余裕をもって笑っている。
「そうですわね。でも、そんな生やさしいものではないんでしょう? こんな強い魔力と索敵能力。見たこともないわ。神に近い何かの加護を受けているとしか考えられない」
「さあな」
うすうすと感じてはいたが、やはりあの後輩の妖精は相当すごいみたいだな。
「そして、なぜあなたがその力を持っているのか。とても不思議ですわね」
「神は気まぐれなのかもしれないな」
俺たちは笑い合う。謎の信頼感みたいなものができあがっていた。
ストックホルム症候群みたいなものか。
「あなたとはとても気が合うけど、その意見だけは同意できないわ。だって、そうでしょう。"神はサイコロを振らない"のよ。この世界において、偶然なんてありえないの。私たちの出会いだって
「まるで恋に落ちたようなセリフを言うね」
「否定はしないわ。宰相様以外で、こんなに知的な会話ができるなんて思わなかったもの。また、お会いできたら、今度は素敵なデートをしましょうね?」
「逃がすとでも?」
「ええ、優秀なスパイはどんな局面に陥っても逃げ道は確保しているものですよ。このクリスタルは瞬間移動が可能なのですよ。あまりにも高価なので、ここで使いたくはなかったんですけどね!」
クリスタルは砕けて、女スパイは光のように消えていく。
「クニカズ中佐、またお会いできる時を楽しみにしておりますわ? ご壮健で」
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