第28話ホームレス無双する

「それでは、いくぞ。アルフレッド!」

「おう!!」


 要塞の屋上から、俺たちは空を飛ぶ。

 浮遊魔力は消耗が激しいため、使えても10分間らしい。

 厳しい時間制限のため軍事利用は難しい。使っても近くの偵察くらいだ。


 だが、俺には秘策があった。


 それは、ダンボールだ。このターニャ特製の最強のマジックアイテムは、要塞の守備力を補強できるようにとても強力だ。


 ならば、その魔力を込めたダンボールを鳥の翼のように人間の背中につけたらどうなるか……

 強力な妖精の加護によって、浮遊時間は一気に増える。そして、浮遊魔力の軍事的利用が可能になった。それもヴォルフスブルクが独占的にな。


 他の国は空中浮遊はほとんどできないのに、こちらは2時間以上連続の浮遊が可能になった。

 この軍事的な優位性は、かなり大きい。


 さすがに、一気に浮遊させることができるのは20人くらいが限界だが、それでも強力な魔力攻撃が可能になる魔導士が空中を高速移動して、いつでも敵の頭上を襲うことができる。


 向こうの対抗手段は、ほとんどないので、こちらが一方的に攻撃できる。


 これができるだけで、軍事的には革命を起こしたと言えるだろう。


 実際、航空機が本格的に軍事利用できるようになった第二次世界大戦以降では、制空権は戦場において最も重要な要素の一つだ。


 空を取られてしまえば、上空から一方的に攻撃される危険しかないからな。


 第二次世界大戦の欧州戦線で、ドイツが電撃戦と言われるほどの圧倒的な機動力を支えたのが、航空機の攻撃力だったし。


 日本軍の真珠湾攻撃で、戦艦から空母へ時代の覇者に変わったのも、航空機の攻撃力のおかげだ。


 魔導士が空を飛べば、強力な火砲が空を飛んでいることと同じ。

 俺たちの強力な武器となった。これができれば、ヴォルフスブルクが生き残ることができるかもしれない!!


「すごいな、クニカズ! こんなに早く人間が飛べるなんて信じられないよ」

 アルフレッドは子供のように笑っていた。今回俺たちが出陣したので、要塞の防備はリーニャ少佐に任せている。


 アルフレッドは個人の実力もすごいから、もしもの時に前に出てくれる。


 完璧な布陣だと言える。


『しかし、クニカズ少佐の魔力キャパは一体どうなっているんだ??』

『20人も長時間空中浮遊できる魔力を持つなんて人間じゃない……』


 18人の魔導士たちは口々に俺を恐れているが、まあ好都合だ。士気は上がっているからな。


「皆、もうすぐ敵の補給基地だ。一気に行くぞ!!」


 ※

―ローザンブルク帝国のとある補給基地―


 俺は仲間たちと共に夜の見張りをしていた。

 見張りと言っても、ここは最前線から離れている。だから、敵が攻めてくる心配はなく、不良兵士が物資の盗難をしないか注意していればいい。簡単なもんだ。


「しかし、ついに戦争が始まったのか」

「俺たちもいつか前線に送られるのかな?」


 仲間たちはそんないつもの会話をしながら、物資が運び込まれた倉庫を確認していく。


「でもさ、相手は大陸最弱のヴォルフスブルクだろ? それもニコライ将軍が前線に出ているから、負けるわけがないよ」


「それもそうだ!」


「この物資が前線に届けば、いくらハ―ブルク要塞なんか一瞬で崩壊するだろ!」


「うんうん。だって、この砲弾の数だけでも全回の総攻撃の2倍近いだろう? それに、魔導士も帝国中から動員しているんだろ。もうどんな要塞だって吹っ飛ばせる」


「なら、俺たちが前線に出た方がいいかもな。楽勝ないくさなら、簡単に武功も立てられるし……もしかしたら、俺たちの誰かが将軍になれるかもな」


 そんな威勢のいい話題でみんなが笑った。

 簡単に勝てるいくさなら、兵士としては嬉しい限りだ。


 戦争に勝てば、前線にいただけでも英雄扱い。もしかしたら、ボーナスがもらえるかもしれない。

 領土も増えれば、みんながお祭り騒ぎになるし……

 ヴォルフスブルクに多額の賠償金を支払わせれば、景気が良くなる。


 それもこの戦争は負けるわけがないと来ているんだ。弱小国家のくせに、俺たちにかみついてきたバカな行為の代償を支払わせればいけないよな。


 しょせんは弱小国家。大陸最強クラスの我が国に勝てるわけがない。


「なぁ、なんか変な音がしなかったか。爆発音みたいな……」


「なんだ、ぼやか? ここには大砲に使う魔力火薬や砲弾がたくさんあるんだぞ。ぼやなんかだしたら、軍法会議で極刑に……なんだ、あの空から降り注ぐ光は……」


「ホントだ!」


「すごい数だぞ」


「こっちに落ちてくる。みんな建物の中に逃げろ」


 俺たちは慌てて、基地の内部に入る。あの光が何かわからなかったが、危険な感じがする。

 空から降り注ぐ光は、倉庫や地面に落ちていく。そして、地面に突き刺さると爆音とともに炎上していく。


 顔見知りの兵士が、その爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。


「なんだよ、これ……」


 俺たちは降り注ぐ光を見ていることしかできない。

 時間差で倉庫からは巨大な火の手が上がった。


 中にあった火薬が誘爆を起こし、倉庫ごと吹き飛ばす。


「敵の攻撃、だ……空から敵が来たんだ」


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