第27話ホームレス、計画する

「クニカズ、大丈夫か?」


 アルフレッドの声で目が覚める。白い天井が見えた。さっきまで屋上にいたはずなのに……

 ここは医務室か。どうやら、誰かが運んでくれたらしい。


「大丈夫だ、アルフレッド。敵の攻撃は!? 俺は何時間寝ていた?」

 緊張が解けて、倒れ込むように眠りについた記憶だけはあった。


「だいたい6時間くらいだ。敵の攻撃は一度止んでいる。要塞の前面に陣取っているがな、しかし、あれだけの魔力を使ったんだ。どこかに痛みや動かないところはないのか??」


 たしかに、この世界に来てからは初めて無理をした。でも、手足は問題なく動くし、頭の痛みもない。視力も聴力も問題なさそうだ。


「ああ、どこにも痛みはない。疲れも寝たら吹っ飛んだぜ」


「信じられない。あれほどの魔力による弾幕を作ったんだぞ。それもひとりで。1週間から1か月は動けなくなるのが普通なのに」


「でも、こんな感じでいけるぜ! さあ、司令官室で情報を確認しよう。俺たちの計画の第一段階は完了したんだ」


 俺がしっかりとした足取りを見せると、アルフレッドは少しあきれていた。


 ※


 廊下ではリーニャ少佐が待っていた。


「クニカズ少佐!! 大丈夫なんですか。どうして歩けるんですか!?」

 どうやら心配して様子を見に来てくれたんだろうな。


「ああ、なんか寝たら回復したよ。心配ありがとうな」


「いや、心配なんかしていませんでしたけど……だって、クニカズ少佐はイレギュラーですから。そうだってわかってましたよ。でも……」


 おや、いつもは冷静な彼女が珍しく取り乱しておられる。


「よかった。あなたが無理をして倒れたと聞いて、やっぱり心配したんですよ?」

 それも、俺を心配してくれてのことだからな。なんだか、申し訳なくなる。


「もう大丈夫だ。少佐が心配してくれたおかげだよ」

 そう言って、俺は彼女の頭をわしゃわしゃとなでた。


「えっ……」

 彼女はとても恥ずかしそうにうつむく。そのゆっくりとした動作は、まるで少女のようだった。少佐もこんな女の子みたいな仕草できるんだな。


 たしかに、ちょっと失礼かもしれない。だが、彼女は大事な仲間だ。

 俺を心配してくれていた仲間にはちゃんとお礼を言いたい。


「リーニャ少佐とは最初は同学年のライバルとして競ってきたけどさ、今となっては最高の相棒だよ。今回の作戦だって、きみがいないと成立しなかった。心配かけてごめんな。でも、今回はリーニャのためにも、勝つよ」


「最強の陸軍国家にですか?」


「ああ、アルフレッドだっている。こんなに優秀な人たちに支えられたら負けるわけないだろ。作戦を次のステージに進めよう」


 ※


 その次の日の夜。俺たちは動き始めた。

 日中は散発的な魔力攻撃はあったけど、突撃などはおこなわれなかった。要塞に突撃するのは、甚大な被害を生むだけだからな。もうしばらくは、戦線はこう着するはずだ。敵も第二波攻撃のための準備をおこなっていると考えられる。


 歴史的に考えれば、要塞に対して単純な突撃戦法をおこなったことは何度もある。

 有名なところで言えば、日露戦争中の「旅順要塞攻防戦」だ。

 要塞と機関銃を組み合わせたロシア軍が守る旅順要塞に対して、乃木希典将軍率いる日本軍は総攻撃を敢行した。


 結果は、敵の堅牢な守備と新兵器である機関銃の威力によって、日本軍はロシア軍の2倍以上の死傷者を出してしまった。


 要塞の防御力を奪わずに突撃するのはとてもリスクがあるんだ。


 だからこそ、敵陣は砲撃を集中させて要塞の防御力を奪う戦略だったんだろう。

 だが、俺の魔力障壁とガトリング砲作戦で、攻撃は要塞に致命傷を与えることはできなかった。敵は第二波攻撃の準備をしている。そのために、現状は各地から砲弾などの物資を集めているものだと思われる。


 要塞の攻略法として、要塞の地下にトンネルを掘って、地下を爆破する方法もあるが……

 あまりにも準備に時間がかかる。よって、その方法を採用する危険性は低いはずだ。


 あとは要塞を包囲して兵糧攻めにする方法もあるが……

 もうすぐ季節は冬だ。寒冷地帯の敵国の状況を考えるとそのようなやり方はリスクが高すぎるだろう。


 これらのことから、俺は敵軍は物量作戦によって砲撃の嵐で要塞を無力化する方法を採用するものだと結論付けた。


 大砲の弾丸は有限だ。国全体の生産ラインをそこに投入するとしても、限界は必ずやってくる。さらに、この世界は産業革命も発生していないんだ。砲弾の量産はそんなに簡単なものではない。


 いくら大国であってもあの量の総攻撃はあと2回か3回が限界だろう。

 そこをしのぐが俺たちの作戦の根幹。


 だが、守ってばかりでは被害は増える一方だ。俺の防御だって限界が来てしまうかもしれない。

 敵地攻撃も必要だ。


 俺たちは事前に集めていた敵国の地理や物流の状況からいくつかの補給物資集結場所を特定した。

 そこを叩けば、敵の継戦能力を奪うことができる。


 だが、敵地の奥深くにある補給ポイントを強襲するのは普通なら不可能だろう。

 だから、普通じゃない手段を使う。


 陸上から国境を超えるなら普通に捕まる。だから、俺たちが使うのは《空》だ。

 ダンボールにできないことはない。

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