第26話ホームレス、敵国の将軍に分析される

―ローザンブルク陣営―


「閣下! 左翼への攻撃がかなり効果があるようです」


「よし、そのまま砲撃を続けろ。残弾は、あとどれくらい余裕がある?」


「およそ、10分程度かと」


「ならば、そのまま砲撃を継続。敵の要塞を食い破る」


「了解!!」


 順調だ。敵もこの奇襲に要塞のすべての防備を固めることはできなかったな。工作員の情報とは違って、右翼の防備は固められていたな。そのせいで無駄弾を使わなくてはいけなくなったが、仕方がない。戦場では事前情報とは違うことはよくあることだ。


「皆の者、弱小国家ながら我が軍に陰謀を働いたヴォルフスブルクを成敗する。これは正義のいくさだ!」

 正義と言っておけばいい。そうすれば兵士の士気は上がる。

 政治家や軍上層部にとってはこれほど軽い言葉もないものだがな。その時々で正義の立ち位置などは違う。我々はこの言葉を道具として使えばいい。それ以上の価値はない。


「将軍。我が砲撃が撃ち落とされています!」


「なんだと!? 敵の魔導士か? ならば、魔力詠唱の時間も必要だ。いつかはじり貧になる。このまま、押しつぶせ」


「ダメです。敵の攻撃がまるで途切れることがなくおこなわれています。まるで、空を魔力の幕が包んでいるかのように……」


「……敵は何人いる? 相当数の魔導士がいるんじゃないのか?」


「目視で確認できるのは、ひとりだけです。要塞の屋上から、青い魔力軌道を描いて、砲弾を撃ち落としています」


「ひとりか」


「信じられません。まるで数千人の魔導士が要塞を守っているかのような光景なのに……」


 そんなことができるということは、やはり「異界の英雄」か。まさかこの目で見るまでは、信じられなかったが……


 通常の人間があのような芸当をできるはずがない。まさに、おとぎ話の世界の光景だ。

 だが、これは現実だ。目に見えるていることはを否定するほど、私は落ちぶれていない。


 この魔力キャパシティならば、おそらく本人に向けて砲撃しても防がれる。ならば、この攻撃を続けて「異界の英雄」を消耗させる方が選択肢としては有力か。


 ただし、ここまで防御されるとは思っていなかったというのが本音だ。3日程度は余裕があると思っていた砲弾がすでに底をつき始めている。


 まさかここまでの才能を隠し持っていたとは……


 想定外だ。ここまでの想定外は生まれて初めてかもしれない。


「将軍、いまだ直撃弾なしです」


「攻撃を継続」


 やはり、最終的には私が出なければならないだろう。戦場で斬り合うなど、何年ぶりだ?


 ※


「ふぅ」

 ほぼ無意識で魔力を発動させていた。時間にしてどれだけ経っただろうか。砲弾はもうやってこない。どうやら、すべてを迎撃できたようだ。


『お疲れ様でした、センパイ!!』


「ありがとう。さすがに疲れたぜ。魔力を使うのってこんなに疲れるんだな」

 俺がそんな弱音を吐くと、ターニャは笑う。


『センパイ、そりゃあ疲れますよ。私の加護があるからと言って、あんなに魔力を連発すれば疲れないわけがないですもん』


「そんなにあの魔力のやり方はすごかったのか?」


『ええ、おそらく一人で数千人分の魔導士の役割をしていましたよ。センパイのスキルとして、無詠唱魔力というのがあるからできるわけで……普通の魔導士ならダンボール片を一つ撃ちこむごとに、詠唱が必要になりますからね。普通は、タイムラグが必要なんですよ。1発に撃つごとに数分は待たないといけないのに……センパイの数秒ごとに撃ちっぱなしにするなんて、魔導士が1個大隊は必要なんじゃないですか?』


「そんなに!?」


『だから、あんなことをして絶対に目をつけられましたよ? もしかしたら、センパイの首に懸賞金がかけられてしまうかも……』


 そんな某海賊マンガじゃないんだから……と思いつつ、意外と現実世界の歴史でもエースパイロットに懸賞金がかけられたりするケースってあったりする。


 有名なところだと「ルーデル閣下」だ。

 第二次世界大戦中の凄腕ドイツ人爆撃機パイロットで、スターリンからは「ソ連人民最大の敵」と呼ばれていた。上司のドイツ軍将軍からは「1人で1個師団の働きをする」とも呼ばれていた。1個師団はだいたい1万人クラスだからやばい。


 実際、彼が操縦する機体で破壊した敵軍の兵器数もすさまじいぜ。

 戦車500両以上。

 装甲車やトラック800両以上。

 戦艦1隻。

 敵の航空機9機。


 戦闘機乗りではないにもかかわらず、敵の戦闘機を落としまくってエースパイロットでもある。

 ちなみにこの数字はあくまで確認ができている公式記録だけだ。


 実際には、飛行機に乗りたいがために無断出撃をしたり、仲間たちの評価を上げてあげるために、自分の撃破スコアを譲っていたそうだから、本当の数字は……


 さらに上らしい。


 彼の首に1億円の懸賞金がかけられたとかなんとか……


 まあ、意外と無双する超人は歴史的にも珍しくないが……


『この世界では、センパイがそういう役割なんです』


 俺はその言葉を聞きながら、疲れて倒れ込んだ。

 敵の攻撃は一度停止したから、少しだけ休む、か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る