第25話ホームレス、大ピンチ
要塞は瞬く間に、戦場に変わった。
要塞の右翼が猛攻にあっていた。激しい爆音が連続で発生する。
偶発的な攻撃に対する威嚇や警告攻撃ではない。完全にこちらを攻め潰すつもり満々だ。
「クニカズ少佐の魔力で、右翼の損害は軽微です!」
最初の攻撃はうまく乗り切ったな。敵も攻撃には限界がある。魔力の容量もあるし、砲弾の補給もある。
つまり敵の攻撃力は有限だ。ローザンブルク軍が、ヴォルフスブルクに侵攻する場合は、この要塞を攻略するしかない。
迂回する場合は、山岳が邪魔して大軍の移動は難しいからな。
少数の兵力だけで侵入しても、包囲されて崩壊する。
ここを突破できるかどうかで、ヴォルフスブルクが生存できるかどうかが決まる。
まさに天王山だ。
「しかし、妙だな。どうして敵軍は、この要塞の弱点である右翼を集中して狙うんだ?」
俺はあえてその言葉を漏らす。
俺はそうなる理由を知っているからだ。
「クニカズ、まさか?」
「ああ、おかしいだろう。普通なら大砲の弾は満遍なく降り注ぐのがセオリーだ。にもかかわらず、明らかに右翼しか狙っていないんだ。情報が漏れていると考えた方がいい」
「だが、要塞の構造は、最高機密だぞ。それが漏れているなんて、一大事だ。ヴォルフスブルク中枢に裏切り者、内通者がいるってことに……」
俺は静かにうなずいた。
だが、この内通者は歴史イベントなんだ。誰がスパイかはランダムで決まる。そして、この後のイベントで正体が判明し次のイベントに移行する。
誰が内通者がわからないからやっかいだぜ。
「アルフレッド、内通者がいることだけわかっただけでいい。ここからでは何もできないんだ。俺たちは防衛に専念するぞ」
「ああ、そうだな。クニカズ。敵の攻撃も有限だからな」
右翼は軽微な損害だけだ。このままなら敵の攻撃の第一波は乗り越えられる。
要塞の守備力を維持したまま、第二ステージに移行できれば勝算は見えてくる。
だが、敵の攻撃は一瞬で変化する。
「大変です。敵の攻撃が、左翼に集中しています」
「なんだと!?」
俺の魔力総量は有限だ。だから、守備力が弱い箇所の補強に回した。左翼は、守備が比較的に固いから後回しだった場所だ。
魔力による補強なら敵の攻撃はほとんど受けない。だから、右翼は現状では最強の守備力を誇っているが、相対的に見れば左翼の防御力は低くなっているんだ。
そこを火力の集中砲火を浴びれば、被害は拡大する。
まさか、ここまで柔軟な作戦指揮をしてくるとは……
さすがは、永久凍土の荒鷲だ。
「左翼の防御壁、中破しました。被害も多数出ているようです」
※
右翼への攻撃が防がれているというのを察したであろう敵が逆方向を集中して攻めてきた。
まさかここまで的確に状況判断されるとは思っていなかった。
戦力の集中。
情報の分析。
柔軟な方針転換。
そして、用意された周到な謀略の罠。
優秀な将軍としての才能を見せてくれるぜ。
「クニカズ、これ以上左翼に攻撃が集中するとまずいぞ! 魔力攻撃で大砲の弾を迎撃するか?」
「ダメだ、アルフレッド。敵の攻撃は激しすぎる。魔導士の迎撃スピードでは間に合わなくて、こちらが消耗する」
特に魔導士は、一人前になるまでに時間がかかる高価な兵科だ。できる限り消耗は抑えておきたい。
「どうしますか。このままでは敵の攻撃の第一波が終わる前にこちらの守備陣を突破される可能性もありますよ、クニカズ少佐?」
皆が俺の方向を見ている。
どうする、よく考えろ。俺の前世知識で、こういう時どう対処すればいいのか、何かヒントはなかっただろうか。
ダンボールをミサイルのように発射し撃ち落とす?
無理だ。向こうの数の方が多くて、迎撃が間に合わない。
今から補強に行く?
そんな余裕はないな。補強中に穴が広がるだけだ。
ならば……
「弾幕しかない!!」
俺はそう思いつき、すぐさま行動に移した。
「アルフレッド、俺が何とかする。防御の指揮は、任せたぞ」
「わかった! 頼むぞ、クニカズ」
「頑張ってください、クニカズ少佐」
俺は司令室を飛び出して、見通しのいい要塞の屋上に向かう。
『センパイ、私の出番ですね』
「ああ、頼むぞ、ターニャ。ダンボールを裁断して、細かい粒にしておいてくれ。できるよな」
『はい、できますけど! 破れたダンボールで何をするんですか?』
「簡単なことだ。ダンボールの弾幕を作るんだよ!!」
※
だいたい、敵の攻撃は30秒に1回のペースでこちらに襲いかかってくる。
このペースなら余裕だな。
「準備はできたか?」
『はい、いつでも大丈夫ですよ。敵の攻撃、来ます!』
俺の背後に数千枚のダンボールの破片が浮遊する。魔力で操作している。
反・魔力をこめたダンボールの弾丸によって、弾幕を作って敵の攻撃を撃ち落とせばいい。
1枚のダンボールを粉々にして、破片にしたものを飛ばせば、魔力への負担も軽くなるはずだ。
「いけぇ」
一分間に数百発の単位で、ダンボール片は敵の砲撃をとらえていく。一発、一発は弱いダンボール片だが、この連続攻撃によって砲撃を誘爆させて空中で爆発を引き起こした。ダンボール片が描く青い軌跡は、空中を鮮やかに彩った。
イメージは、軍艦に設置されている「
敵の砲撃の進行方向にダンボール片をばらまくことで撃ち落とす。1分間に2発程度の攻撃なら楽勝だぜ。
俺が作った弾幕は、次々と敵の攻撃を撃ち落とした。
※
―要塞司令室―
「なんだ、あの攻撃は!!」
「クニカズ少佐です」
「ありえないぞ。どんな理論を使えば、あの連続攻撃が可能になるんだ!?」
「魔力の小さな一撃で、幕のようなものを作っているのか?」
「なんという発想力だ」
「それだけじゃないぞ。あの完璧な魔力制御と軌道をみろ。芸術的ですらある」
「あれが異世界の、英雄……」
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