第22話ホームレス、妨害される
俺たちは要塞の防備を固めるために、休日返上で準備を整えていた。
要塞の防備が薄い箇所は、ダンボールで補強する。このダンボール防御の頑丈さはアール砦で証明済みだ。俺の魔力によって、すぐに補強できるから中央から物資を取り寄せなくてもいいのが楽だ。
俺も少しだけ要領をつかんだのか、この前よりも長く魔力を維持できるようになっていた。
「クニカズ少佐。将軍が呼んでいます。どうやら、中央からの使いが来たようですね」
アルフレッドの副官に俺は「すぐに行きます」と返事した。
※
「リーニャ!! 来てくれたのか!?」
アルフレッドの部屋には、俺の同級生が待っていた。どうやら、中央からの使者とは彼女だったらしい。
「ええ、クニカズ少佐。この前振りです。まさか、こんなに早く一緒に仕事ができるとは思いませんでした」
たしかに、彼女は大貴族の家柄だし、女王陛下と親戚関係だったはず。女王陛下の意思を伝えるには適任ということだろう。
「こちらにしばらく残ってくれるのか? たしか、今は……」
彼女は中央の軍務省に勤めていた。彼女の事務能力を考えると適任だろうな。
「軍務省法務局国際法務課係長です。もし、最前線で戦闘が発生した場合、国際法の知識が必要になるだろうからと、私が派遣されたわけです。もちろん、クニカズ少佐との相性も考えてでしょうけどね?」
「本当に心強いよ。よろしく頼む」
俺と彼女が握手すると、胸に眠っているダンボールの妖精が怒りだす。頭に直接、イライラした声が……
『ねぇ、センパイ? 前から思っていたんですが、彼女、距離近すぎません?? あと、どんだけ先輩のことが好きなんですかね? わざわざ、安全な後方から、センパイのために前線に来るなんて……どんだけ、あなたセンパイのことが好きなのか。いや、むしろ愛が重すぎるんじゃないですか。そんなことされても、センパイは渡さないというか。そもそも、私とセンパイは愛とか恋とかそういう次元じゃないというか……』
などと供述していた。
うん、めんどくさいから無視しよう。
「それで、女王陛下は、どんな反応だった??」
「はい、陛下は『クニカズ少佐の推測は理にかなっている』とおっしゃっていました」
よし、ならば俺たちに賛同してくれたんだろう。
なら、話が早い。
「よかった、今回の件は中央と連携しなくてはいけないからな」
「ですが、一つだけ問題があります。援軍は残念ながら、こちらに回すことはできないようです」
「えっ!?」
最悪の場合は限られた戦力で、最強の陸軍国家に挑まないといけないのか。
「ですから、陛下はアルフレッド閣下とクニカズ少佐を信用するそうです。こちらにおける全権は、あなたたち二人に任せるそうです」
※
「俺たちに全権委任だって!?」
すごいことになってしまった。女王陛下が俺たちを信用していることは嬉しいが……
「ええ、そうです。女王陛下は、二人を信頼していると。仮に、それが法を逸脱していないかは、私がチェックして助言するようにと言われております」
となると、アルフレッドと俺、リーニャの3人で全てを解決しろってことか。ずいぶんすごい無茶ぶりだな。
「しかし、リーニャ少佐に聞きたい。女王陛下はどうして援軍を出してくれないんだい? はっきり言えばこの要塞は国家の生命線じゃないか。偶発的な軍事作戦で、ここが陥落すればすべて終わるんだよ?」
アルフレッドは当然の疑問をぶつけた。
「私は上司からは何も聞けませんでした。ですから、貴族としての権限を活用して、情報を集めたのですが」
「それで結果は?」
「どうも閣議で強い反対意見があったようです」
閣議か。つまり、宰相の差し金だな!!
「女王陛下は、要塞の兵力増員を強く主張していたんですが……宰相及び外務省の強い反対があり、女王陛下は断念したようです」
「なぜだ!! 父上と外務省はどうしてそんなことを……」
憤慨する将軍は、机を強くたたいた。
リーニャ少佐は、その大きな音にビクッと震えた。
「それは……」
将軍の大声に、彼女は気押されている。
俺は彼女に助け船を出す。
「アルフレッド、少佐が怖がっているよ」
「ああ、すまない。つい、感情的になってしまった」
「きっと、宰相たちはこう言ったんだろう。『そのような根拠のない推測で、要塞の兵力を増強することはできない。ローザンブルク側はただの演習のつもりなのに、我らがそのような軍事的な挑発をしてしまえば、取り返しのつかないことにだってなりうる。よって、政府としては、クニカズ少佐の意見には反対である』とかな」
宰相は俺のことを特に嫌っているからな。某提督の決断のように、俺の提案はすべて『政府としては軍の提案には反対である』とか『一発だけなら誤射かもしれないから、反撃を禁止する』とか言われかねない。
いや、よく言うじゃん。最大の敵は、味方の中にいるとかさ。
第二次世界大戦でも、日本やアメリカでは陸軍と海軍の仲が悪くて、『陸軍と海軍はけんかしている片手間に戦争をしている』とか揶揄されていた。いや、それで戦争なんかされたら、最前線の兵士や家を焼かれる民間人はたまったもんじゃないぞ!!
「すごい、クニカズ少佐は、どうしてわかったんですか?」
まさか、本当にそうだとは思わなかった。最悪だぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます