第21話ホームレス陰謀に巻き込まれる

―要塞司令官室―


「アルフレッド。すまない、朝早くに時間を作ってもらって」

 俺たちは業務が始まる前に、打ち合わせをはじめる。

 朝食を食べながらのミーティングだ。まさか、元ニートがここまで働き者になるなんて思わなかったぜ。


 将軍の朝食は、かなり質素だった。ライ麦パンとベーコン、ピクルス、チーズ。一兵卒が食べている者とほとんど変わらない。贅沢しようと思うならできるだろうに、なるべく贅沢をしないようにしているらしい。


 唯一の贅沢みたいなものは、ドライフルーツがデザートに少しだけ出てくる。アルフレッドはフルーツが好きらしい。


「さぁ、行儀は悪いが食べながら話そう。仕事が始まる前に話しておきたいことなんだろう?」


「ありがとうございます、閣下」


「閣下はいらない。この朝食のテーブルでは、俺たちは友人関係だ。ざっくばらんに情報交換をしよう」


「ありがとう、アルフレッド! 今回のローゼンブルクの軍事演習が、確実にヴォルフスブルクを威嚇する意味合いがあると思うんだ」


「ああ。軍事演習の中心は、砲撃戦を想定しているな。おそらく要塞攻略を目的とした軍事演習なんだろう」


「ローゼンブルクはおそらく、俺たちが制圧したアール砦での軍事紛争の情報をつかんでいると考えた方がいいのではないか? ザルツ公国が情報を隠ぺいしているとはいえ、公国が砦の制圧に失敗したという情報は持っていると俺は思っている」


「なるほどな。だから、こんなに緊急的に大規模軍事演習を企画したと?」


「うん。大国がいきなりこんな演習をおこなうなんて、ちょっと不自然だろ? おそらく、ローゼンブルクがヴォルフスブルクを脅威に感じているんだと思う。ザルツ公国が数的に有利でありながら、ヴォルフスブルクの守備戦術に敗北したとなれば、俺たちに注目しなくてはいけなくなるだろう」


「たしかに、そう考えればすべて辻褄つじつまがあうな。本当にクニカズはどこまで鋭いんだ? 軍人にならなくとも情報局に勤めればエースになれるよ」

 よし、アルフレッドならわかってくれると思っていたぜ。

 

「そして、俺はこの後に起きる最悪の状況に備えなくてはいけないと思っているんだ」


「最悪の状況?」


「大国がヴォルフスブルクを脅威だとみなしていたら、考えることはひとつだけだろ? 軍人として敵が巨大化する前に対処した方がいい」


「軍事演習のスキを見て偶発的な攻撃を仕掛けてくるつもりか!?」


「ああ。うまく全面戦争になればヴォルフスブルクを滅ぼせる。ある程度、軍事的なダメージを与えることができただけでも、ヴォルフスブルクの国力を考えれば再生するまでにはかなりの時間がかかる」


「今回のローゼンブルクの軍事演習の目的は、強大化しつつあるヴォルフスブルクを叩くことで、将来の脅威となる芽が成長する前に刈り取ること、か。わかった、すぐに中央にキミの分析を伝えよう。優秀な女王陛下のことだ。なんとかしてくれるはずだな」


「ああ。それから、要塞内部の兵士たちには第一種警戒態勢を。これが杞憂きゆうであればいいんだが、準備をしておくことで被害は確実に減らせる!!」


 ※


―ヴォルフスブルク王国 王都(ポール大佐視点)―


「よく来てくれた。ポール大佐」


「はっ!!」

 私は、とある要人に招集されてここに来た。政府の要人がよく使う会員制のカフェだ。ここに呼びだされたということは、今回は重要な話らしいな。


「前回の軍事学校でおこなわれた机上演習の件は、話を聞いたよ。あの自称"異世界から来た英雄という名のペテン師"にうまくやられたらしいな」


「も、申し訳ございません。閣下に期待されておりながら、あのような怪しい者に敗れてしまい申し開きもありません」


「うむ。お主は、ヴォルフスブルクの戦略の最高権威という名声にあぐらをかき、油断したうえであのような一方的な屈辱を受けた。顔に泥を塗るようなことをされて、わしも怒りに震えておったところだ」


 そういうと、彼は私の顔をにらみつけて威嚇する。


「ひぃ」


「すでに、お主の作戦課長更迭は決まっている。どこの部隊に配属されたいかな? 学生に下克上された作戦の権威などが欲しがる部隊がいると思うか? お主の経歴は、あの一瞬ですべて灰になったんだ」


 その言葉は、私を絶望の淵に叩き落すのに十分だった。

 今まで同期の中でも一番早く昇進し、エリートコースを歩んできた自分のキャリアが音ともに崩れ落ちていく。


 いやだ。

 あんな奴のために終わりたくない。


「閣下。どうか、もう一度、ご慈悲を……いままで国家のために尽くしてきたのです。一度の……それも、ただの演習での失敗を理由にすべてを奪われるのは、あまりにもひどすぎます。戦場で大きな失敗をしたのなら武人として、死をもって責任を取りますが。このような不名誉なままでは、死んでも死にきれません」


 泣きつきながら私は閣下に許しを請う。プライドはすべて投げ捨てて、彼に泣きつく。


「ああ、今回のお主の更迭は、女王陛下が考えたことだ。わしもそれは国家の功労者であるポール大佐には行き過ぎた賞罰のように思う」


「な、ならば……」

 ひとつの灯りが見えた。必死にそれをたぐり寄せる。


「ああ、だからお主は、女王陛下ではなく、わしに忠誠を誓え。わしの手足となって働くのであれば、次回の人事異動で中央に戻してやる」


「あ、ありがとうございます!! 閣下――私は、宰相閣下にすべてをささげます。たった今から私はあなたの家臣です」


 私がそう言うと、宰相閣下は「うむ、それでいい」と笑った。


「では、私はいったい何をすればいいのでしょうか?」


「うむ。まずは、我らが共通の敵を倒すために、準備を整えよう。クニカズ・ヤマダを排除するために動き始めるのじゃ」

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