第8話ホームレス優等生と対立する

「さすがですね! クニカズ大尉!! まさか、異世界から来ているのにこちらの歴史についても精通しているなんて」

 授業が終わって、クリスタ大尉が俺に話しかけてくれた。

 もしかして、アウェーの洗礼でこのまま大学ボッチになると覚悟していたら話しかけてくれたことが最高に嬉しかった。


「いやぁ、まぐれだよ。さっきも言ったように、俺の世界でも似たようなことがあったからさ……それでわかったんだ」


「なるほど! 今日の昼食ですが、よかったらご一緒させてください! 俺、異世界の話聞きたいです」


「ああ、いいよ。俺もこっちに来ていきなり大学で勉強になったから、どうすればいいのか悩んでいたんだ。こちらこそ、まだまだ不慣れだからいろいろと教えて欲しい!」


 幸運なことにこうして俺は友達を作ることができた。転校生は目立つうちに友達を作れないとボッチになると決まっているからな。


 初日に話せる人ができてよかった。


 ※


―軍事大学・学食―


 俺たちは学食で食事をしながら、とりあえず自己紹介をしていた。

 クリスタ大尉は、農家の出身で仕送りしながら軍で働いているらしい。


 やはり、無償で勉強できる軍事大学ではそういう人も多いんだな。


「すごいですね、クニカズ大尉は、異世界でも大学をでていらっしゃったんですか! もしかすると、異界の貴族様かなにかなのですか?」


「いや、普通の庶民だよ」


「庶民なのに、大学まで行けるなんて夢のような国ですねぇ。俺も生まれたかった」


 そう言いながら、彼は美味しそうにポテトを食べていた。


「ところでさ、クリスタ大尉。教えて欲しい。さっきから、リーニャ大尉が俺をにらんできているんだけど……俺、なんかしちゃった?」


「あ~、彼女はプライドが高いですからね。仕方ありませんよ。さっきの教官からの問題で、自分が解けなかったのに、クニカズ大尉があっさり解いてしまってかなり落ち込んでいるんじゃないのかな? 彼女はずっと士官学校から主席のエリート中のエリートだから……」


「なるほど、そういうことかぁ」

 たしかに、それは嫉妬されるよね。怖い。


「でも、気をつけた方がいいですよ。彼女、自分が勝つまで結構執着するタイプですからね……たぶん、相当、対抗心を向けられてますよ、クニカズ大尉は」


 そうだろうな。食堂の中なら大丈夫かと思っても向こうはこっちを強くにらんでいる。


「どうやったら許してくれんだ?」


「全力を出して負けてあげればいいんじゃないですか。手加減すると間違いなく怒りますもん。彼女は有力貴族出身の女性士官ですからね」


 なんだよ、かなり厄介な人に目をつけられてるじゃん……


 ※


 さて、次の授業は戦略論だな。

 これは机上演習を中心に行われる実戦的な授業だ。


 数人のペアを組んでも机上で演習が行われる。サイコロとチェスの駒でやる原始的なシミュレーションゲームと考えればわかりやすいだろう。


「兵棋演習」や「図上演習」とも言われて、今でも世界中の軍隊で採用されている。ちなみに、現代の机上演習は、PCゲームを使っておこなう国もあるという。そう考えると、あながちシロウトが遊んでいるゲームもバカにならなかったりする。実際、中世から近世ぐらいまではチェスがその役割を務めていたとされる。


 ちなみに、ゲームみたいなものと侮るなかれ。


 有名なところだと、こういう逸話がある。

 第二次世界大戦で、日本海軍による真珠湾奇襲で壊滅状態に陥ったアメリカ海軍を立ち直らせたアメリカ太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツは、戦後にこう語っている。


「太平洋戦線は、海軍兵学校で学んだ机上演習の再現だった」と。


 つまり、戦争にめちゃくちゃ影響する。なめていると痛い目に合うんだ。


「クニカズ大尉、よければ僕と組まないか?」

 クリスタ大尉が昼食の時にそう言ってくれたから、俺もあぶれることなくチームを作ることができた。


「教官! 私は、クニカズ大尉のチームと戦いたいです」

 リーニャ大尉が大声でそう言った。もう仕掛けてくるのか!? さすがに早すぎるだろ。

 

「うむ、異界の英雄と秀才・リーニャ大尉の戦いか。おもしろそうだな。よろしい。ならば、両者のチームで戦ってもらおう。最初の授業だからな。わかりやすくリーニャ大尉の攻める側が5万の兵力。防衛指揮官のクニカズ大尉は2万の兵を率いる設定にしよう。兵数では有利だが、攻める側よりも地の利はあるうえに、補給的にも有利だからな」


「「わかりました」」


「それでは2時間ほど両チームで設定資料を読み込み作戦を考えるがいい。他のチームは、その設定資料を読み込んで自分ならどのように作戦を立てるか考えてレポートにすること。以上だ」


俺たちは今回の設定資料を渡された。う~ん、難しそうだな。


「クニカズ大尉、お話したいことがあります!!」

 背筋を伸ばして、リーニャ大尉が俺に詰め寄って来た。やけに近いな。


「なんですか?」


「私は、一番にならないといけないのです。家の名誉のためにも、私の矜持きょうじにかけても言わせていただきます。あなたには負けません。今回の演習でそのことを証明してみせます。覚悟しておいてくださいね!!」


 とても威勢のいい女の子だな。俺は苦笑して首を縦に振る。


「負けませんよ!」


 ※


「では、クニカズ大尉、どうしようか。正直に言えば戦力は心もとないよ。2万の兵力で広範囲の領土を守り切るのは難しすぎる。となると戦力を集中させて、決戦を挑むしか……」

 俺とクリスタは一緒に作戦を考える。


 今回の俺たちの勝利条件は期限内までの首都の防衛だ。敵国の兵士は、兵農分離が済んでいない設定なので、農業の繁忙期には帰国しなくてはいけないんだ。


 兵農分離というのは、専門の軍人だけじゃなくて農民も兵役を課して戦争をしている状態だ。日本なら豊臣秀吉の刀狩りで職業軍人と農民が完全に分離されるわけだけど……


「ああ……たしかに戦力の集中は大事だ。でも、クリスタ大尉。下手に決戦を挑めば、俺たちは不利だ。ここは首都防衛に特化して消耗抑制ドクトリンを採用したいと思うんだけど?」


「"消耗抑制ドクトリン"?? なんだい、それは?」


「ああ、そうか。こっちの世界ではまだ、それが体系化されていないんだな。でも、基本はわかりやすいよ。基本的に防御に徹して、敵を消耗させつつ、自分たちの損害を少なくする作戦だと考えればいい。本来ならば、砦や要塞を使うのが効果的だけど……」


「ああ、なるほど。そういうことか! うん、よくわかる。でもさ、この想定だと、使えそうな砦や要塞はほとんどないよね? まばらな砦を使っても、各個包囲されて撃破されるだけだし……」


「うん。でもね、クリスタ大尉。別に、人工物を使わなくてもカバーできるよ。地形を使えばいいんだ!」


「地形を使う??」


「たとえば、ここの湿地帯さ。この湿地帯は、山に囲われて小さな道しかない。大軍がここに展開しても、窮屈でうまく動けないのさ。ならば、ここに簡易的でも固い陣地を作って、砲兵も展開して迎え撃てば……」


「敵は大混乱に陥って、大きな被害を受ける!! さらに、少数の兵力でも有効的に大軍を迎え撃てるんだね!!」


「正解! だからさ、この湿地帯に必要物資を運ぶ計画を立ててくれないかな。俺は地図を眺めて、他に利用できそうな地形を探してみる」


「了解、クニカズ司令官!!」

 クリスタ大尉は勝機が見えたと元気に俺をからかった。


「頼むぞ、クリスタ後方参謀!」


 実は、この作戦も歴史知識を応用した。戦国時代に発生した"沖田畷おきたなわての戦い"のオマージュだ。


 九州の覇権を争っていた龍造寺家と島津家の争いで、2倍以上の戦力を有していた龍造寺軍が動きにくい湿地帯におびきだされて、少数の島津軍に大敗した。龍造寺当主の龍造寺隆信はこのいくさで戦死し、九州の覇権が島津家に傾いたんだ。


 これともう一つの歴史知識を使わせてもらう。

「遊撃戦論」だ!!


―――

登場人物紹介


クリスタ大尉

知略:71

戦闘:40

魔力:39

政治:60

スキル:実務処理・ロジスティクス・合理主義


ヴォルフスブルク軍事大学の学生。実家は農家で、家族を楽にさせたいので軍人を志望した。

まだまだ、発展途上の能力値。

ゲーム内では、シナリオ1では未登場で、シナリオ2から登場する。

能力値は、はっきり言って高くなく中途半端。しかし、スキルに有用なものがそろっており、後方支援要員としてトップクラスの人材になる。特に、輸送部隊の指揮官や計画策定に関しては、序盤最高クラスの人材であり、最強国家ヴォルフスブルクの裏の支配者としておそれられている。

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