ダンボール無双~実家を追放されたホームレスの俺が、後輩属性のダンボールの妖精に導かれて転生しました。前世知識を使って鬼畜ゲーム世界で英雄やってるけど質問ある?~
第7話ホームレス、前世の知識で無双する
第7話ホームレス、前世の知識で無双する
「あっ、このパイ美味しい! やっぱり、王宮料理ってすごいな~」
ダンボールの妖精は機嫌を取り戻していた。よかった。
「ごちそうさまでした~」
結局、美味しそうに食べるターニャを見ているのが楽しくて食べ終わるまで見てしまっていた。
「それでさ、ターニャ。聞きたいことがたくさんあるんだけど……」
「ええ、パイに免じて3つまでなら聞いていいですよ」
「じゃあ、どうして俺を選んだんだ?」
「あ~ひとめぼれですよ」
「嘘!?」
「冗談です。先輩は魔力特性が高そうだったから、私に気づけたんですよ。たまにいるんですよね。日本とか魔力が必要のない世界なのに、そっちに才能が特化した天才がね。科学世界では絶対に使わないはずなのに、少し加護を与えてあげれば怪物に生まれ変わっちゃう人」
「それが俺なのか……そもそもさ、ターニャ……お前みたいな妖精がどうして日本にいたんだよ?」
「ああ、やっぱり気になっちゃいますよね。ダンボールってどうやって作られるか知っていますか?」
質問を質問で返された。
「え~っと、たしかリサイクルだよな。ダンボールの原材料は、ほとんどリサイクルされたダンボールって聞いたことがある」
「正解! そうなんですよ、私ってある意味、先輩以上に転生していると考えてもらっていいんですよ。そして、何度も何度も転生を繰り返せば繰り返すほど、人間の執念や気持ちが私たちに集中する。魂っていろいろと伝わるものなんですよ。哲学には《魂の不死》っていう考え方があるじゃないですか。そして、私はその魂の集合体。何度も転生したことによって、私は多くの人間の魂をもらったんです」
「なるほどな」
正直、難しいからわかったようなわからないような感じだ。でも、不思議と説得力があった。それなら仕方がないみたいな……
「でもさ、現実世界で生まれたダンボールの妖精が、どうして俺をゲーム世界に飛ばせたんだよ? おかしいじゃないか」
「あ~それ聞いちゃいますかぁ。まあたしかにそうですよね。普通に考えたらおかしい。でもね、センパイ、世界ってひとつだけじゃないんですよ。いくつもの並行世界が存在している。一部の小説家やシナリオライター、ゲームクリエイターの人って意識的にその並行世界を覗き見ることができるんですよ。高度に成長した妄想の力は、世界の壁すら超えてしまうんです。そして、マジックオブアイアン5はそのクリエイターによって、異世界の情報を読み取って作られたゲームなんです。だからここは、ゲーム世界であって、遊びじゃない」
※
こうして、俺はヴォルフスブルク王国に仕えることになった。早くも正社員だ。まさか、前世であそこまで大変だった脱ニートが異世界に来るとこんなに簡単にできるなんて思わなかった。
今回はアール砦防衛の功績で、士官学校もでていないのにいきなり大尉扱いで軍に入隊できた。どうやら異世界の大学卒業の経歴が大きいようだな。
特例中の特例だったので、1か月は研修みたいなものらしい。
基礎的な体力作りとかこの世界の知識を叩き込まれる。ニート生活のせいで体力が衰えていてついていけるか不安だ。まあ、なんとかなるだろう。俺にはダンボールの妖精の加護がある。
座学は、この世界の地理・歴史・薬学・魔力理論・戦略及び戦術論・机上演習。
実習は、体力づくりを中心に行われる。
とはいっても、俺が学ぶヴォルフスブルク軍事大学は、士官の中でも有望なものたちを選抜して入学させて将来の高級幹部を作るためにある。俺の同級生はほとんど士官学校卒業した軍人だ。軍事大学といっても、実情は大学院なんだよな。
この軍事大学を卒業していないと将官への昇進はかなり難しくなる。
だから、俺も将来の幹部候補ということだ。
アルフレッドは史上最年少でこの大学を卒業した超エリートらしい。だから、ここにいる学生たちはアルフレッドには劣るかもしれないが選ばれしものだ。
そもそも、庶民は金がかかる普通の学校には通えない。だから、国が無償で学ばせてくれる士官学校への倍率が異常に高くなる。そのエリートの中からさらに選抜された超エリートがここにそろっているんだ。
なんてことを考えているとかなり不安になる。俺ついていけるかな?
「おい、聞いたか? あれが異世界から来た英雄だぜ?」
「ああ、聞いた。女王陛下とアルフレッド大佐の推薦で無試験で入学できたやつだよな」
「ずるいわね。わたしたちは死ぬほど勉強して何とか入学できたのに」
うん、完全にアウェーの洗礼だ。まぁそうだよなぁ。たたき上げのエリートたちは俺を裏口入学したコネ野郎くらいにしか思っていないよな。くそ、胃が痛くなってくる。
「それでは授業を始める。まずは歴史だ。軍人は歴史を知らねばならない。なぜなら、歴史の事実が目の前の問題解決に役立つことが多いからだ」
教官はひげを蓄えた学者のような人だった。俺は大学で政治史をやっていたから歴史は得意なんだけど……異世界の歴史は守備範囲外だ。やばいな、女王陛下の図書館でヴォルフスブルク王国史くらいは軽く勉強してきたけど……
「まずは、この布陣図を見てほしい。これは古来の戦場を図上で再現したものだ。有名ではないかもしれないがトランドールの戦いといわれている。西軍は山の上に布陣し、東軍を鳥が翼を広げるように迎え撃っている。数は西軍が6万。東軍が5万。数的にも立地的にも西軍が有利だろう。このまま数の差で東軍を包囲してしまえばいいのだからな。だが、戦争の現場では東軍が勝利した。この東軍の奇跡の勝利についてみんなに考えてほしい。なぜか類推してみたまえ。では、そこのリーニャ大尉。答えてみたまえ」
歴史といってもこういう感じなんだな。どちらかといえばシミュレーションゲームみたいだ。
リーニャ大尉はさっき俺を侮蔑した目で見ていた女性士官だった。金髪のやせ型。とても美人だが、眼光が鋭いタイプ。
「西軍の士気が低かったからではありませんか。逃亡兵や命令を無視する兵が居たら勝てるものも勝てなくなります」
「なるほどいい着眼点だ。しかし、残念ながらそうではなかった。これは西軍が負けたら首都が陥落するぎりぎりの戦いだったんだ。では、次。クリスタ大尉どう思う?」
「補給が追いついていなかったからではありませんか」
「たしかに、大軍が負ける理由としてはそれが一番多いかもしれない。だが、そうではない。この戦場の立地を考えればわかるだろう。では、なぜクリスタ大尉の考えが違っているのかも踏まえて、異世界から来た救世主殿の実力を見せてもらおうか。クニカズ大尉、どうだ? わかるか?」
なんだよ、その無茶ぶりは……!?
「ええと……」
※
なんという無茶振りだ。
どうせ、異世界から来た英雄ということで、教官も俺の頭を叩きたいんだろうな。初陣でいきなり300人の兵士を捕虜にした素人なんて目の上のたんこぶみたいなものだろう。
新兵教育でも、生意気な新兵にマウントを取って大人しくさせるのが定跡だとよく聞く。映画でそういう展開をよく見てきた。
この布陣図どこかで見たことがあるな。
そうだ、関ケ原の戦いだ!!
あの時も石田三成率いる西軍が数的な有利と立地的に優勢であったにもかかわらず、徳川家康率いる東軍に惨敗した。
どうせ、間違うなら少しでも可能性を高めてやる。
「教官、正直この世界の歴史についてはまだまだ勉強途中でわからないことだらけなのですが……」
「そうか、そうか。ならば、教えてやろう。ゆっくりと聞くが……」
「しかし、俺の世界でも似たような戦いがありましたので、そちらから推測させていただきます」
「なっ!?」
「おそらく、数に優る西軍は情報戦で敗れていたのでしょう。情報戦だけではない。諜報戦かもしれません。すでに、西軍には裏切り者がいたのではありませんか? すでに西軍は首都寸前まで追い詰められていて風前の灯火のような状況です。ならば、東軍の軍門に下って家を残そうとする者は必ず出てきます」
「……」
「さらに、おかしいのは東軍です。東軍は、本来攻める側ですよね。古今東西、いくさは守る方が有利です。守備を切り崩すためには、最低でも数倍の戦力が必要になる。にもかかわらず、東軍の戦力は西軍よりも少ない。つまり、この戦場は局地戦にすぎないのではないでしょうか。別動隊が本体でありそちらがすでに敵の首都に迫っていると考えれば、絶望する西軍の将が出てくる可能性は高い」
そうだ、関ケ原の戦いもあくまで局地戦だ。
東北では、伊達家・最上家と上杉家の連合軍が……
長野では、徳川家の別動隊と真田家が……
北陸では、前田家と丹羽家が……
九州では、黒田家と大友家が……
それぞれ激突している。
つまり、大局的に見れば、あそこで東軍が敗北しても戦争は続いていた可能性が高い。西軍の主力が壊滅したことで、日本全国が分裂したいくさが一瞬で終わったのは奇跡なんだ。
「では、クリスタ大尉が述べた理論のどこがおかしいか述べてみたまえ」
「まず、西軍は守備側であり、自国内で戦っています。補給的には間違いなく有利です。仮にここで補給が破綻していれば、戦争どころではありませんから。通常の国家運営すら崩壊しているはずです。つまり、補給問題でこの戦いに負けるとは考えにくい」
「うむ……」
「まぁ、リーニャ大尉の意見に自分の知識を上乗せしたものです。彼女の意見は、兵士の士気だけしか考えていなかったところが惜しかったのだと思います。今回の問題の主題は2つ。国家に忠誠心をもたない指揮官の弊害と局地的ではなく大局的な視点を持たなければいけないものですよね。だからこそ、着眼点は素晴らしかったが、正解とは言えないのでしょう」
教官は満足そうにうなずいた。
「素晴らしい大局観だ。まさか、この意地悪な難問を答えてしまうとは思わなかった。初陣にもかかわらずアール砦の防衛を成功させてしまった実力は本物か……」
教室はざわつきはじめた。
ラッキーパンチで正解できたみたいで俺は安心する。
リーニャ大尉が俺のことをすごい目で見つめていたけどな……
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