第5話ホームレス、砦を再建する
さて、ここに転生してから毎回絶体絶命なわけだが、今回は特にやばい。
いきなりゲーム序盤の難所を迎えた。
おそらく、今回の試練がうまくいかなければ、歴史イベントが発生し一気にバッドエンドに突入だ。
もしかしたら、守備隊長のゴーリキさんが死んでもダメかもしれない。
さらに、リセマラは不可能で失敗したら即終了。
大陸最強国家と正面から戦争をすれば、ヴォルフスブルクは1週間ももたないだろうし。
今回は、慎重にならなくてはいけない。
補給の関係で、敵の攻撃はだいたい1週間間隔らしい。だが、今の状態の砦なら簡単に崩壊するし、1発でも直撃弾をくらえば即終了だ。
前回の挑発が3日前らしいから、残された日数はあと4日か。
となると、はっきり言ってなおす余裕はない。
なにかしらの裏道を見つけなくてはいけないな。
これって完全に「
でも、この付近にそれができる川なんかないし……そもそも、これはどちらかと言えば西洋建築だもんな。木材使わないよね。床くらいかな?
俺、文系だし図面とかよくわからない……完全に専門外の注文だ。
そもそも、ホームレスになろうと思って、ダンボールを用意して寒さをしのげずに転生したくらいだもんな。
いや、待てよ。
ダンボール!!!!
そうか、これがある。
「(ターニャ、教えてくれ。ダンボールはお前の能力でいくらでも作り出せるんだよな?)」
『まぁ、そうですけど?』
「(それで、昨日の決闘みたいにダンボールの強度を上げる魔力は、どれくらい持つんだ?)」
『さすがに、24時間くらいですよ。半永久効果にするには、強度が足りないですからね』
「十分だ!! これならいけるぞ」
俺は勝利を宣言した。
俺の一夜城建設が始まった。
※
―ザルツ公国軍国境警備隊―
「隊長!! ヴォルフスブルク王国のアール砦に動きがありました」
「なに!? 先週の挑発で大きなダメージを与えたからな。もしかすると、ついにこちらに反撃する気になったのか? ならば、武器などが運び込まれているのか? こちらも守備陣形を整えなくてはな。グレア帝国が援軍に来るまで耐えきれば、こちらの勝ちだ」
「いえ、それが……」
「なんだ、はっきり言え」
「それが茶色い紙のようなものを壁に巻きつけはじめまして……」
「はぁ??」
「スパイが言うには、紙よりも少し厚い茶色い物体と……どうみても大砲に対処できるものではないと……もしかすると、何かの儀式でも始める可能性が」
「失笑ものだな。ついに神頼みか? ならば、チャンスだ。明日にはすべての準備が整う。一気に砦を崩壊させるぞ」
※
「大丈夫なのですか、クニカズ殿……こんな防備で……」
ゴーリキ隊長は心配そうだ。だからこそ、俺はあの名言を彼に贈る。
「大丈夫ですよ、問題ない!!」
砦の中には、あのダンボール特有の匂いが広がっている。
「ゴーリキ隊長。ご安心ください。この茶色い物体は、クニカズ様の作り出すマジックアイテムなのですよ。これには幾重にも強化魔力がかけられていて想像以上に丈夫です。我が剣技でも突破ができなかったくらいですから」
「なんと……アルフレッドの剣が通用しなかったんですか!?」
「はい。ダメージを与えることもできずに敗北しました。あそこまでの完敗は生まれて初めてでしたから……」
アルフレッドの話を聞いて、砦内の不穏な雰囲気は落ち着いていく。
やっぱりすごいな、こいつ。
そんな話をしている巨大な爆音が砦に響いた。ついに攻撃が始まったんだ!!
ターニャに聞いて、今回は魔力防御力を強化した。この世界の大砲は火薬ではなく魔力を応用しているので魔力無効化のコーティングを施している。
爆音だけは響くが、砦の内部に攻撃は一切影響を与えなかった。ダンボールが完全に攻撃をシャットアウトしていた。
「まさか!! あんな薄い壁ですべての攻撃を弾くのか!」
「いったいどれだけの魔力を込めているんだァ」
「なんという魔力ポテンシャル」
「怪物だ。すごすぎる!!」
「なんでこんなすごいマジックアイテムをあんなに量産できるんだ。どういう論理になっているのかさっぱりわからん」
※
―ザルツ公国軍国境警備隊―
「隊長ダメです。あの砦の紙のようなものを突破できません!!」
「なんだと!? なぜ、あんな吹けば飛ぶようなものを壊せないんだ!?」
「わかりません。マジックコーティングがほどこされている可能性も」
「そのような高価なものを貧乏なヴォルフスブルクが量産できるわけがないだろ!! バカなことをいうな」
「では、あれはいったい?」
「ええい、こうなったら大砲ではらちが明かない。突撃だ、私に続け!!」
※
「大変です。ザルツ公国軍守備隊が国境を越えました!! こちらに向かって進行中です」
見張りを担当していた兵士が慌てて伝令に来た。
「なんだと!? 数はどのくらいだ?」
ゴーリキさんが確認する。
「約300です」
「こちらの兵力は120……まずいぞ、圧倒的不利だ」
「やっぱりあいつら戦争の準備をしていたんだな」
「くそ、こうなったら砦を枕に玉砕してやる!!」
全体的に悲壮感が漂っている。
「いや、待ってくれ。みんな、これはおかしいよ」
俺はみんなを落ち着かせるために叫んだ。
「どういうことですか、クニカズ様?」
アルフレッドはやはり冷静だ。
「だってさ、普通、戦争を始めるなら一気に大軍で来るよな。下手に戦力を逐次投入するのは愚行だろ? 普通は宣戦布告と同時にグレア帝国軍とともに一気に侵攻してくるはずだ。それなのに、敵は国境警備隊の一部だけ。おかしいだろう」
「たしかにそうですが……」
「だから、これはたぶん現場の暴走だ。きっと、大砲の攻撃が効果がなく血気盛んな前線指揮官が暴走しただけですよ。それならこっちにも大義名分があります」
「どういうことですか?」
「我々は不法に国境を越えた犯罪者を捕まえるだけです。国境警備隊をほとんど捕虜にしてしまえばいいんですよ。逮捕という名目でね。だってそうでしょう? あいつらは暴走して正式な命令もなく国境を越えてしまった。俺たちは攻撃を仕掛けられた側で、戦闘はヴォルフスブルク内で行われた。捕虜もこちらに収容されている。どう考えてもザルツ公国側の不法行為です。証拠もそろっていて、捕虜たちにも証言をさせれば国際的な批難を浴びるのは公国側です。いくら同盟関係があっても、グレア帝国ですら、こんなに証拠があれば擁護できないはずですよ」
「それはそうだが……数では向こうが有利だ。どうやって捕虜にするんだ? 砦を破壊されては意味がないぞ」
「大丈夫ですよ、隊長! 俺が何とかしますから……援護してくれるよな、アルフレッド!!」
ここで下手に守備隊に犠牲者が出れば、歴史イベントに突入しかねない。
ここは俺とアルフレッドが解決するのが最適解だ。
※
「そこのザルツ公国人たち……止まりなさい。あんたたちは、何の許可もなく国境を侵犯した。これは不法行為だ。武装解除して大人しく降伏しなさい」
俺は、ダンボールをマイク代わりにそう通告した。
『あらあら、センパイ。今日はずいぶんと勇ましいですね』
「ターニャか。ああ、この前のアルフレッドとの決闘で戦い方はよくわかったからな。あれだろ、このダンボールを空中に飛ばして遠距離で攻撃したり盾にすればいいんだろ。簡単だ!」
『カッコイイ! もう手馴れですね。じゃあ、お手並み拝見と行きますか!』
「それにザルツ公国は、ヴォルフスブルクの次に弱い国だ。公王くらいしか戦闘向きの人材いないしな。こんな辺境に公王がいるわけないだろ! 楽勝だぜ」
『うわ~さっきまでのかっこよさはどこにいったのくらいダサいセリフ~ 雑魚専じゃないですか』
「俺は勝てる戦しかしないんだよ」
敵がダンボールの攻撃範囲にやってきた。よし、そろそろ攻撃を始める!
「アルフレッド! 俺の撃ち漏らした敵を頼むぜ!」
「了解」
「慌てるな。たかが敵は二人だ!」
「あんなヒョロヒョロの男に何ができる!」
「殺せ!!」
俺のダンボールが火を噴く。まぁ本当に火を噴いているんだが……
ダンボールを高速で動かすことで、摩擦熱から火を噴き出して燃えるブーメランみたいになっていた。ブーメランは全体攻撃。そう相場が決まっているんだ。
俺の燃えるダンボールブーメランが雑兵を蹴散らしていく。
「ぐへ……」
「なんだ、これ逃げても追いかけてくる……うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「あんな茶色い紙なんて剣で叩き切ってやる! なんだ、剣が折れて、来るなぁ。ぎゃあ」
「誰か魔力で止めろ!」
「ダメだ、氷の壁を作っても貫通して、ごふっ」
「これを操っている男を狙え、きっと凄腕の魔術師だ。魔術師なら一撃で倒せるだろ!」
ブーメラン攻撃をかいくぐって、なんとかひとりの兵士が俺に槍を向けた、だが、それを見逃すような男じゃないよな? アルフレッド!!
「クニカズ様には指一本触れさせんぞ!」
まさに、一刀両断。敵の兵士は一瞬で崩れ落ちた。
俺とアルフレッドのコンビはこうやって次々と敵を無力化していく。まるで、バディ物の映画みたいだ。アルフレッドは優秀で、俺の撃ち漏らした敵をことごとく潰していった。
これはきっと、のちに「王国の双璧」とか言われるパターンだぜ。そんなことを考えながら、俺たちは敵兵を制圧していく。
ダンボールは誘導式ミサイルのように追尾して、逃げる敵を蹂躙した。
数で言うなら150倍の差があるはずの敵兵は瞬く間に倒れていき、俺たちは勝利をつかんだ。
ここから俺の伝説が始まる。
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