第4話ホームレス、無茶振りされる

 アルフレッドに勝利してからは、どんちゃん騒ぎだった。

 アルフレッドと観戦していた兵士たちからは、まるでサッカーで決勝点を取ったかのようにもみくちゃにされた。


 なんでも、アルフレッドは王国最強の兵士だったらしい。いや、完全に殺しに来ているな。あの宰相おっさん


 そのまま兵士たちと一緒に酒場に連れ出されて、ワインとエールを浴びるように飲んだ。

 ヴォルフスブルクの料理は、前世世界的にドイツ料理に近い。社会人時代に先輩にビアガーデンに連れ出されて、ジャガイモとソーセージ、キャベツの漬物を食べさせてもらったな。寒冷な土地だから、保存食が発展しているらしい。しょっぱい料理が酒とよく合う。


 今日は、前菜がポテトサラダ。おつまみが、辛いソーセージ。メインディッシュが「アイスバインとキャベツの漬物」だ。


 アイスバインは、豚肉の塩漬けを香味野菜と香辛料で煮込む肉料理だ。


 なんでも、こっちでは16歳から成人らしい。俺がこっちだと何歳かわからないけど、まあ中身はおっさんだから大丈夫だろう。


「じゃあ、行きましょうか! クニカズ様!!」

 飲み会の後に泥酔状態の俺にアルフレッドはそう言った。その後はよく覚えていない。二次会のお誘いだと思って、「おう、どんどん行こう」と言ったことだけは覚えているんだが……


 その後の記憶はブラックアウトだ。


 ※


 夢を見た。その夢の中で、俺は「マジックオブアイアン5」のヴォルフスブルクプレイをしていた。

 シナリオ1でヴォルフスブルクを選ぶこと自体、縛りプレイみたいなもので、俺は滅亡回数100回を超えていたはずだ。


「マジックオブアイアン5」の世界観は、魔力を使う以外なら16~17世紀の文明に近い。魔力の力で異常に発達している分野もあるが……


 きっと、ヴォルフスブルクのモデルは「神聖ローマ帝国」崩壊後のドイツだろうな。近隣は小国だらけで、四方八方を大国に囲まれているのはそっくりだ。


 宗教対立と諸外国からの軍事介入で、神聖ローマ帝国は300以上の領邦と自由都市に分裂してしまい統一までにかなりの時間がかかった。ドイツが2度の世界大戦を挑まなくてはいけなくなったのも統一の遅れが遠因だ。


 ヴォルフスブルクには、計り知れない潜在能力はある。周辺諸国をすべて併合できれば、大国すら勝てなくなるだろう。だが、統一ができないんだ。


 下手に動けば、大国がすぐに軍事介入してきて滅ぼされる。生き残るためには、綱渡り的な外交と短期決戦で隣国に完勝しなくてはいけない。少しでも長引けばゲームオーバー。


「無理ゲーすぎんだろ!!」

 俺はマウスを投げ捨てて、ベッドにもぐりこんで夢の中でもふて寝する。

 結局、俺は3年生き残ることしかできなかった。


 夢はそこで終わる。


 ※


「起きてください、クニカズ様!!」

 アルフレッドの声が聞こえた。


 いつのまにか馬車に揺られていた。なんだよ、二日酔いで気持ち悪いから寝かせてくれよ~


「もうすぐ、アール砦ですよ! 父上の試練がはじまりますから……」


 宰相の試練!?


「聞いてないぞ!?」


「昨日の宴会中に話したではありませんか! アール砦を1週間以内に修復しないといけません。そうしないと、ザルツ公国がチャンスとばかりに侵攻してくるかもしれません。ザルツ公国は、大国グレア帝国と同盟を結んでいますから、砦の守りを固めないと一瞬で併合されますぞ。救世主の力を見せてくだされ!」


 馬車の進行方向には、なぜかボロボロの砦が見えてきた。なんだよ、あれ!?

 まるで、大砲に撃ち抜かれたかのように壁がボロボロで……


 砦というよりも物置みたいだ。どうして、こうなった!?


「この試練を乗り越えなくては、我々は破滅するだけです。頑張りましょう」

 なんで、アルフレッドはこんな絶望的な状況でこんなに楽天的なんだよ。


 っていうか俺、建築とかよくわかんないんだけど。

 風よけもうまくできずに橋の下で凍死しかけたし!!


 やばい、グレア帝国はシナリオ1では大陸最強国家だ。勝てるわけがない!!

 どうすればいいんだ……


「いやだあぁぁぁぁああああああ」


 ※

 俺はボロボロの砦の現状に絶望して、ぼう然としていた。

 でも、妙だな。どうして、こんなにボロボロになっているんだ? 国境付近の最前線の重要拠点だろうに……


「なぁ、アルフレッド? どうしてこんなに砦がボロボロなんだ? 自然災害でもあったのか?」

 大主教様はそんなことを言っていなかったけどな。


「ああ、これは国境付近の小競こぜり合いに巻き込まれたからですよ」


「小競り合い?」


「そうです。ザルツ公国の国境守備隊が、グレア帝国との同盟関係を盾に私たちを挑発しているんですよ。最初は、国境の外から石を投げてくるくらいでしたが……そのうちどんどん過激化していき……最近では、大砲を撃ってくるようになりまして……それでこんな感じです」


「大砲!?」

 いや、それ完全に戦争じゃん。もう宣戦布告寸前だろ。


「屈辱的ですが、我々は反撃できないのです。そうすれば、向こうはそれを口実に我が国を併合しようと動き始めますから……」


「なんだよ、それ。あまりにも理不尽すぎるんだろ!! あれ、待てよ?」

 そういえば、マジックオブアイアン5ではこんな歴史イベントがあったよな。


 ※


アール砦の悲劇

王国歴1643年。ヴォルフスブルク王国のアール砦は、卑怯なザルツ公国軍の奇襲を受けて崩壊した。砦の守備隊は玉砕し国境は緊張感に満ちている。


女王陛下、いかがいたしますか?


①よろしい、ならば戦争だ


②ここは耐えるしかない


 ※


 これが、プレイヤー側の一番最初の絶望ポイント。最初にして詰みポイント。

 通称"どっちを選んでも死ぬ"2択。


 仮に①「よろしい、ならば戦争だ」を選んだ場合は、最強国家グレア帝国に蹂躙じゅうりんされて即ゲーム―オーバー。


 ②を選んで「屈辱に耐え」ても、国内不満度は上昇し宰相率いる軍事クーデターが発生し優秀な女王陛下が死亡したうえでグレア帝国に宣戦布告する最悪の選択肢になる。


 つまり、アール砦を崩壊させてしまえば、「ゲームはそこで終わりだよ、クニカズ君」になって終わる。このイベントの回避方法は、発生確率50パーセントのことを利用したリセマラしかない。


 そう、このイベントは発生した瞬間に終わる時限爆弾。だから、発生しない世界線を見つけるしかないんだ。セーブ&ロードというタイムリープマシーンを使って……


 まあ、確率50パーセントだからそこまできつくないんだけどさ。


「(なぁ、ターニャいるんだろ? お前の能力を使えば時間逆行とかできるんだよな?)」

 ここはゲーム世界だと俺は知っている。


『なに寝ぼけたこと言っているんですか? できるわけないでしょ、センパイ』


「えっ!?」


『ここはゲームの世界ですけど、遊びじゃないんですよ?』


「じゃあ、イベントが発生したら……」


「よろしい、ならば戦争です! センパイ!!」


「……」

 絶句してしまった。


『大丈夫ですよ。この砦を先輩の力で最強の要塞にすればいいんです!!』

 うん、無理。


 俺の絶望感がマックスに達した時、砦からひとりの老兵が出てきた。


「アルフレッド、そしてクニカズ殿、よく来てくれた。私はアール砦の守備隊長・ゴーリキと申します。この度は砦の防備のための加勢、痛み入ります」

 まさか、この人はヴォルフスブルクでよくネタキャラにされるゴーリキじゃないか!!


 アール砦の悲劇が発生すれば、問答無用で討死する武将キャラだ。

 能力は平凡で、他国なら2軍・3軍くらいの能力値だが……


 ヴォルフスブルクでは、アルフレッド・女王陛下の次に戦闘能力が高い。

 だからこそ、彼が死ぬイベントは、全プレイヤーが泣く。


「俺のゴーリキーが死んでしまった」と言えば、全国1万人のマジックオブアイアン5ファンは号泣するらしい。ちなみに、あえて誤字するのが、マジックオブアイアン5のお約束だ。


 たった今から俺の生きる目的は、この人を生かすことになった。絶対に負けられない戦いがはじまる。




―――――――

(登場人物紹介)

ヤマダクニカズ(転生後)

前世では、ニート&ホームレスだったが、転生後はダンボールの妖精の加護を受けて強大な魔力と戦闘力を手に入れた。

知略:73

戦闘:130(妖精補正)

魔力:130(妖精補正)

政治:68


スキル:妖精の加護・腹黒政治家・創造者・無詠唱魔力


ゴーリキ(アール砦の守備隊長)

長くヴォルフスブルクに仕える軍人。能力は平凡で、国家への忠誠だけが異常に高い。

他国ではめったに使われることがない能力値だが、軍人の人材が枯渇しているヴォルフスブルクでは貴重な戦闘要員。アール砦の悲劇という歴史イベントが発生すると問答無用で死ぬ。散り際や貴重な軍人枠、そして微妙に使いにくい能力もあってネットの人気はなぜか高い。


知略:38

武闘:51

魔力:11

政治・25



(用語解説)


マジックオブアイアン5

 海外メーカーが作った。歴史シミュレーションゲーム。科学ではなく魔力が発展した世界で繰り広げられるシミュレーションゲーム。難易度はかなり高くシンプルなゲーム性のために、AIも強い。

 各種歴史イベントも設定されており、プレイヤー側を苦しめる。「各種歴史イベント」はファンいわく、「歴史の修正力」と揶揄されており、弱小国家を特に苦しめる。海外歴史シミュレーションゲームなので、プレイヤー側の改造を推奨しており、自分で歴史イベントを作ったりできるカスタム性の高さのためコアな人気を誇る。

 ゲーム世界は、現実世界的にだいたい16~18世紀くらいの技術水準。

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