第3話ホームレス、決闘するってよ

―闘技場―

「それでは模擬戦を始める。ヤマダクニカズ、女王親衛隊隊長アルフレッド・シュヴァルツは前に!!」

 はじまってしまった。向こうはキラキラに光る白金の装備を身に着けていた。でも、俺は完全に布の服だぞ。ユニシロ製の服で勝てるのか……


「異世界の英雄と戦えるとは恐悦至極。騎士冥利に尽きる。なるほど、クニカズ様は魔術師でいらっしゃいますか。そのような軽装。私などは近づかせるまでもないと……”閃光”の異名にかけてただで負けるわけにはいきませんな」

 アルフレッドは、父親とは違ってかなりの好青年のようだ。背は高いし、顔もかなりイケメン。俺みたいな素性を知らない人間にも丁寧にあいさつしてくれた。やばい、閃光なんて異名を持っている奴はたいてい早い。そもそも、戦闘訓練をしたことすらない俺はワンパンされるだろうよ。


「それでは、試合開始!!」

 やばい、はじまった。丸腰で完全武装の剣士に勝てるわけがない。そもそも、体育で剣道しかやったことがない俺がプロに勝てるわけ……


『大丈夫ですよ、センパイ』

 ターニャ!! 胸ポケットにしまっていたダンボールの妖精が俺に語り掛ける。


『センパイには、私の魔力の加護があります。あなたは想像するだけで、それを実現できる。さぁ、力を使ってください』

 力を使うってどうやって!?


「なんとスキのないたたずまいだ。魔力の流れは偏りがなく万遍に漂っている。私の攻撃がどこに来ようとも、あなたはそれに対処できるというわけか……おもしろい。ならば、攻撃を飽和させることで、あなたを倒す!!」

 アルフレッドは一気に距離を詰めてきた。瞬間移動のように早い。

 まるで、本当に光だ。

 こんなのシロウトが受けきれるはずがない。

 木刀とはいえ大けが間違いなし。


 壁が欲しい。この男を止めることができる壁が欲しい。

『わかりました、センパイ!!』


 ターニャの声が聞こえたが、俺はあまりの恐怖に目を閉じた。

 ゴンという鈍い音が響く。絶対に骨折した。ボキボキだ。

 あれ、でも痛くない。興奮しすぎて痛みを感じないわけでもない。


 俺が目を開けると、眼前には幾重にもダンボールの壁が展開されて木刀を食い止めていた。

「えっ!?」

『言ったでしょ。センパイを守るって』


 闘技場の観衆たちも驚きの声を上げた。

「なっ!」

「いきなり壁が……」

「あのスピードに対応できるだとォ」

「それも、あの魔力を使う前に何の準備もなかった」

「まさか伝説の――」


 ※


「まさか、いったいどこから壁が……やはり、異世界から来た怪物というわけか。この速さで魔力を発動させるとは……ならば、これならどうだァ」

 アルフレッドはさらに攻撃を仕掛けてくる。

 何度もフェイントをかけて、俺の魔力の影響範囲の外から技を繰り出そうとするものの俺の願望をストレートに反映するダンボールの妖精は、相手の攻撃を簡単に防いでいく。


『先輩! こんなにすごい攻撃ばかりだとさすがに新しくダンボールを作るのが大変なんで、周囲に浮かべておきますね。いまから、このダンボールたちはあなたの思うままに動きますから好きにやっちゃってください!』


 いままで作り出されたダンボールがその言葉に反応するように宙を舞った。


「ばかな……この数の物体を同時に動かすだと!? なんという魔力キャパシティだ。ええい、やはり異世界の英雄は化け物かァ」


 意思を持ったダンボールは、アルフレッドの動きを完全に制限した。攻撃態勢に移る前にダンボールが相手に突撃し、バランスを崩させる。魔力による強化も発動しているんだろうな。ペラペラのはずのダンボールが、木剣と互角以上の強度になっている。


 そして、いくつものダンボールによる波状攻撃の後、ついにその瞬間は訪れた。さすがのアルフレッドもダンボールによる連鎖攻撃をかわしきれずにバランスを崩し、俺の意思で突撃させたダンボールの第2波が木剣を叩き折った。


 折れた刀の半分が、クルクルと宙を舞い地面に突き刺さる。

 

 審判が慌てて、俺たちの間に入った。


「そこまで。勝者・クニカズ!!」


「わあああ」という歓声とともに、拍手がまき起きる。模擬戦を見ていた兵士たちもあわてて、アルフレッドに近寄った。


「まさか、伝説の無詠唱魔力に、数十を超える物体操作だと!? クニカズの魔力キャパシティはどうなっているんじゃ……」


「それも、この武器だが、触ってみればよく分かる。まるで、厚めの紙のようなものだ……これが木刀を叩き折るくらいの強度に変化していた。物体操作と同時に、硬度上昇魔力も使っているんだ」


「王国最強の剣士が、敵に一回も触れることができずに、敗北しただとぉ」


 俺はその様子をぼう然と見ていた。


『やりましたね、先輩!! さすがは私の見込んだホームレスです。天性のダンボールさばき。まさに、ファンタジスタの系譜!』

 いや、人をサッカー選手みたいに呼ばないで? それ、褒めているんだかけなされているんだかよくわかんない。


『やっぱり、30まで○○の人は魔法使いになれるってのは本当だったんですね! 初戦闘で世界最高の魔力センスですよ!!』

 絶対にからかっているんだろ。そうなんだろ!


 俺が妖精と脳内で会話していると、敗者のアルフレッドが近づいてきた。


「クニカズ様! さすがは、異界の英雄ですね。お見それいたしました。完敗です。20年ほど生きてきましたが、これほどの完敗は生まれて初めてです。やはり、あなたは本物だ。わが父がご無礼をいたしましたこと、一族を代表して謝罪させていただきます」


 いや、むしろなんかごめん。


「いや、しかしすごい武器でしたな。気がついたらふわりと出現してまるで生きているかのように動くのですから。これはきっとなにか名のある魔力道具なのでしょうなァ。なんというのですか?」


「えっと、ダンボールっていうんだ。俺たちの世界では子供の時からよく使っていてさ」

 ソリにしたり、文化祭のお化け屋敷を作るのに使ったりするもんな。


「なんと!? これ程のアイテムを子供の時からですか!? なるほど、クニカズ様が住んでいる世界は、幼少期からそのようなエリート教育をしているのですね。おそろしい」


「いや、これは戦闘というか本来、物を作ったり運んだりするときに使うもので……」

 俺は布団代わりに使っていたけどさ。


「ということは、非戦闘用のアイテムということですか!? まさか、それであのような戦闘力を発揮するとは……まだ、本気を出されていないのですね。これはますます本物の救世主だ」

 や・ば・い。

 完全に勘違いされている。


 アルフレッドの中での日本は完全に世紀末世界になっている。でも、誤解を解くと、不利になるかもしれないから笑ってごまかそう。尊敬されるなんて向こうじゃ滅多になかったしなァ。


 だが、まだ当の宰相は納得していなかったようだ。

 息子が敗れたことに憤慨している。


「まだだ、これはまだ一つ目の試練にすぎません。次の試験が残っておりますぞぉ!!!」


―――――

ウィルヘルミナ女王(ヴォルフスブルク王国君主)


弱小国家のヴォルフスブルク王国君主。聡明な女性で、まだ10代でありながらもヴォルフスブルク王国を掌握している。国家基盤が弱小のヴォルフスブルク王国が生き残れているのは彼女の非凡な政治力のおかげである。賢王と称された父王暗殺後、若干15歳で王位についた。邦和がやっていたマジックオブアイアン5の世界で、シナリオ2以降はヴォルフスブルク王国を大陸最強国家に育て上げ、中興の祖と言われ尊敬されている。シナリオ1(グランドキャンペーン)のヴォルフスブルク王国は軍事面で彼女とアルフレッド以外にまともな人材はおらず大国に飲み込まれる運命にある。

知略:95

戦闘:69

魔力:85

政治:99

スキル:カリスマ・威圧・守護者


大主教様(本名:ダニエル)

クニカズを救い才能を見出した男。好々爺で学問にすぐれ多くの人に尊敬されている。女王の家庭教師を務めたこともある。

お人好しなところがあり、たまに詐欺師に騙される。

マジックオブアイアン5の世界では、ヴォルフスブルク王国の一員で女王の補佐官としては優秀な人物だが、戦闘能力は皆無に近い。魔力は高いが神官の為、戦闘向きではない。

政治:70

戦闘:5

魔力:90

知力:89

スキル:神の加護


宰相

ヴォルフスブルク王国の宰相。行政のトップではあるが、若き女王を内心では疎んじている。

ゲームでは優秀な内政官ではあるが、国家への忠誠度が低い。

政治:81

戦闘:11

魔力:9

知略:30

スキル:裏工作


アルフレッド(宰相の息子)

ヴォルフスブルク王国宰相の息子。父親とは違い、優秀な軍人であり誠実な人物。若くして女王親衛隊隊長を務める愛国者。

ゲームではヴォルフスブルク王国所属のなかで数少ない指揮官タイプ。無理ゲーとされるシナリオ1では彼と女王をどれだけうまく使えるかがキーとなる。

シナリオ2以降は、女王とともにヴォルフスブルク王国の中興の祖とされている。

政治:48

戦闘:88

魔力:79

知略:70


スキル:閃光・燃える理想

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