第65話 旅行者⑤
絶体絶命だったはずの紅眼の魔族と『医師』。
でも、その状況は一変していた。
自慢の魔物を一撃で殺されて口をパクパクさせる『猛獣使い』。
そんな『猛獣使い』を見て、悪魔的な笑みを浮かべる紅眼の……いや、金眼の魔族。
神々しささえ感じる眩いばかりの魔力。
その魔力は、魔族というよりは、神や天使だと言われた方が素直に受け入れられそうだった。
金眼の魔族は、サラサラの金髪を靡かせながら右手を『猛獣使い』の方へ向ける。
「まずは一人」
そう呟く金髪の魔族に向けて、神国一の水の魔法の使い手が右手を向ける。
『水天!』
龍の形を象った水が、金眼の魔族を襲う。
金眼の魔族はそれを、魔法障壁で受けた。
「お前が先に死にたいのか?」
金眼の魔族の言葉に、水の魔法使いが答える。
「たとえ魔力が上がっても、お前の炎は俺の水に敵わない」
水の魔法使いの言葉に、金眼の魔族はフッと笑う。
「確かにそうかもな」
そう言いながらも、右手を水の魔法使いへ向ける金眼の魔族。
「無駄なことを」
それに対抗するように水の魔法使いも右手を金眼の魔族へ向ける。
その様子を見ながら、私はふと気付く。
いつの間にか空が暗く、太陽が隠れていることに。
『水天!』
『火雷(ほのいかづち)』
先ほどと同じように金眼の魔族を襲う水の龍。
金眼の魔族が放つ炎の魔法とぶつかるはずだったその龍は、再び金眼の魔族の魔法障壁へとぶつかる。
そして……。
ーーゴロゴロ……ドッガッッ!ーー
大音量の雷鳴を響かせ、上空から雷が、水の魔法使いを襲った。
黒焦げになった水の魔法使いが、ぷすぷすと煙を上げながらゆっくりと倒れる。
ーードサッーー
倒れた水の魔法使いを見て、『狩人』が動揺する。
「な、なぜ……」
そう言いながら金眼の魔族を指差す。
「なぜ炎の使い手である魔族が、雷の魔法まで使える?」
それを聞いた金眼の魔族は再びふっと笑う。
「俺の目を見れば分かるだろ? 魔族は得意な魔法の属性が瞳の色に表れる。今の俺の瞳は金色。炎の赤ではない」
金眼の魔族の言葉に、『狩人』は怒鳴る。
「なぜ瞳の色が変わっているのか聞いている。それに、金色の瞳なんて聞いたこともない。なんなんだお前は?」
金眼の魔族は笑いながら右手を『狩人』へ向ける。
「それをお前に答える義理はない。特に、これから死ぬやつに余計必要ないだろ?」
その言葉を聞いて後退りし、足を絡めて尻餅をつく『狩人』。
「うおおっ!」
それを見て雄叫びを上げながら右手の拳を握り、金眼の魔族へ向かって駆ける『破壊者』。
「ああ、お前のことを忘れていた」
金眼の魔族はそう言うと、右手すら向けずに呟く。
『風槍』
魔法使いが最初に覚える初級魔法。
その風の槍が、金眼の魔族の膨大な魔力によって強力な魔法となり、『破壊者』を襲う。
「くっ……」
それでも、魔法に心得のある者なら、難なく防げるであろうその魔法。
その魔法を受けようと右手を前に出す『破壊者』。
……でも。
ーーブシュッーー
風の槍は『破壊者』の右の手のひらを貫いた。
「ぐわぁっ!」
右手に穴の空いた『破壊者』が叫ぶ。
「たかが手に穴が空いたくらいで、汚らしい声をあげるな。俺はお前に両手をぐちゃぐちゃに砕かれても、そんな声はあげなかったぞ?」
その言葉を聞いた『破壊者』は、左手で右の手のひらを押さえながら、金眼の魔族を睨みつける。
「クソがっ。絶対ぐちゃぐちゃに犯してやる。殺してくださいとお前から言ってくるくらいメチャクチャにしてやる」
その言葉を聞いた金眼の魔族は声をあげて笑う。
「ハハハッ。ここまで来ると笑えてくるな。お前たちの頭の中には本当に犯すことと殺すことしかないようだな。それに、もっと頭が悪いのは、お前に次があると思っていることだ」
金眼の魔族はそう言って黒焦げの魔法使いを指差す。
「あいつは戦闘不能」
次に『猛獣使い』を指差す。
「あいつはペットがやられて戦えない」
次に『狩人』を指差す。
「あいつは一人では戦えない」
そして最後に『破壊者』を蔑むような目で見る。
「そしてお前は、片手をやられただけでビービー叫ぶ雑魚だ」
そう言ってぷっと笑う金眼の魔族。
「お前ぇぇ!」
無事な左手を振りかぶって、逆上したまま駆け寄ろうとする『破壊者』。
ーーブシュッーー
その拳ごと、金眼の魔族が放った風の槍が貫く。
「ぐわあぁっ!」
先ほどより一段情けない声をあげて膝をつく『破壊者』。
「お前は、破壊という概念が通用しない火や水、風や雷の前では無力だ」
金眼の魔族はそう言うと、右手を『破壊者』の顔に向けた。
「や、やめろ……」
怯える『破壊者』を汚物を見るような凍りついた目で見ながら、金眼の魔族は冷徹に言い放つ。
「俺の国の民がそう言った時、お前も、お前の仲間もやめはしなかっただろ?」
金眼の魔族がそう言って『破壊者』を殺そうとしたその時だった。
「おい!」
私の方を向いてそう叫んだのは『狩人』だった。
「お前の力なら逃げられるだろう?」
その言葉は間違いない。
私の称号の力ならこの窮地でも脱出できるだろう。
ただ、これまでと違うのは、戻った先に『医師』はいないということだ。
黒焦げの人間の命を救うことも、穴の空いた手をすぐに治すことも難しいだろう。
治癒魔法使いはもちろん『医師』以外にもたくさんいるが、『医師』ほどの力を持った者はいない。
そして何より、予知の力をもってしても、戦闘に特化したメンバーで弱点を突いても倒せなかった金眼の魔族。
もちろん神国にはまだまだ強力な称号持ちがいるし、総合力なら負けていないだろう。
ただ、目の前の神々しい輝きを放つ魔族には、何かを期待してしまう。
私は迫られていた。
このまま神国の使い犬として苦しむか。
それとも、この金眼の魔族に賭けるかを。
私の決断は……
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