第62話 罠②
『綿津見(わたつみ)!』
グレンさんの炎を打ち消すように、突如現れた大量の水が巨大な波となって炎を打ち消す。
「お前が炎を使うのは知っている。だから神国で一番の水の魔法の使い手を連れてきた。俺の称号の力で強化してな」
魔族が使える魔法は強力な代わりに基本一属性のみだ。
弱点となる属性の魔法で対抗されると厳しくなる。
そう言って笑うのは『狩人』の称号を持つ元クラスメイト。
狩の対象を攻撃する時に、自分だけでなく仲間も含めて魔力や身体能力を向上させる彼の能力は強力だ。
それでもグレンさんは怯まない。
炎が通じないと判断すると、全身に魔力を漲らせ、肉弾戦に切り替える。
魔族の身体能力は驚異的だ。
魔法が通じなくとも、その拳が恐ろしい武器となる。
でも……。
ーーバキッーー
膨大な魔力が込められたグレンさんの拳。
ほどどのものを砕き貫くであろうその拳が、相手を捉えたかに見えた。
でも、砕けたのはグレンさんの拳だった。
「俺の称号の力は触れたもの全てを破壊する。物理攻撃で俺にダメージを与えるのは不可能だ」
そう言ったのは『破壊者』の称号を持つ元クラスメイト。
彼の能力を目の当たりにするのは初めてだったが、その名前通りの強力な能力に、私は驚くしかなかった。
私のように怪我や病気を治すだけの能力じゃなく、敵を攻撃することに特化した能力。
その強力さに、私にできることは少なかった。
魔法も通じず、物理攻撃も通じない。
それでは、どれだけ魔力量が多くても勝つのは無理だ。
すかさず、無事な方の右手で炎を放つグレンさん。
『紅蓮!』
女神様の力は強力ではあっても万能ではない。
物理攻撃に対しては無敵の強さを誇る『破壊者』の称号も、魔法に対しては弱い。
ーーゴオッーー
燃え盛る豪炎が『破壊者』の称号を持つ元クラスメイトを包む。
炎が消えると、そこには燃え滓すら残っていなかった。
グレンさんが『破壊者』を倒したのかと思ったが、そうではなかった。
「危ねえ……」
そう呟くのは『破壊者』の称号を持つ元クラスメイト。
彼に向けられているのは『旅行者』の右手。
彼女が仲間を緊急退避させる際に用いるショートトリップの効果だろう。
焼き払われたかに思えた『破壊者』は、火傷一つ負うことなく、無事にグレンさんの攻撃を回避していた。
自分がグレンさんたちの仲間になるまで意識していなかったが、確かに『旅行者』の称号は強力だ。
彼女は移動の概念を覆すだけでなく、戦闘における回避の概念も覆していた。
彼女が直接触れた相手だけにしかその能力は影響しないのかと思っていたが、今の回避を見るに、触れる必要はなさそうだった。
能力発動の条件は分からなかったが、そうだとすると彼女の能力の応用範囲は広過ぎる。
戦闘の素人の私でも、その脅威は分かった。
炎の魔法は水の魔法で防がれるか『旅行者』の力で回避される。
直接攻撃は『破壊者』の力で通じず、片手を砕かれた。
大量の魔力に強靭な肉体。
強力な魔法と戦闘技術。
絶対的強者であるはずのグレンさんは追い詰められていた。
『水天!』
そうしている間にも、龍を模った水の魔法がグレンさんを襲う。
魔法障壁でその魔法を防ぐグレンさん。
でも……
ーーパリンッーー
その分厚い壁は、薄い氷のようが割れるような音を立てて砕ける。
魔法障壁を簡単に破壊した『破壊者』は、その手でグレンさんを殴りつける。
「くっ……」
辛うじて残った方の手でその攻撃を受けたグレンさん。
ただ、直接触れてしまったことで、グレンさんの残った方の手も、簡単に砕けてしまった。
両腕の肘より先がぐちゃぐちゃになってしまったグレンさん。
その姿は目を背けたくなるほどに酷かった。
せめてもの助けにと、私は両腕をグレンさんに向ける。
グレンさんの両手が、私の力で輝き出した。
ただ、あまりにも酷い怪我のせいでなかなか治らない。
これなら切断された腕をつなげるほうがはるかに楽だった。
「おい隠キャ!」
とて前の声に、私は力を止めてしまう。
「お前、裏切ってるんじゃねえよな?」
そう言って私を睨む『破壊者』の言葉。
「脅されて協力させられてるだけなら見逃してやる。奴隷契約で縛られてるなら仲間の力で解除もしてやる」
水の魔法使いの手が私の方へ向けられた。
「裏切ってるなら殺す。脅されてるなら助けてやる。お前はどっちだ?」
グレンさんは両腕が使えず、私が回復しなければ恐らく戦闘不能。
でも、元クラスメイトたちは、私がグレンさんを治すまで待ってなどくれないだろう。
そして私には、戦う力は全くない。
グレンさんが無表情にじっとこっちを見る。
今ここでグレンさんを見捨てたところで、元の生活に戻るだけだ。
グレンさんも、私が降参したところで奴隷契約の魔法を使って仕返ししたりはしないだろう。
短期間ではあるが、グレンさんと一緒にいて、彼女の人となりは少しはわかったつもりだ。
厳しくはあるが冷酷ではない。
私たちを憎んではいるが、罪を償いたいという私の気持ちを汲んでくれてもいる。
だから今、生き残るために私が、昔話のコウモリのように、元クラスメイトたちの方へ戻ったとしても、きっと咎めはしないだろう。
それでも私は、再び両手をグレンさんに向け、グレンさんの傷を治すために力を使った。
「あなたたちがやっていることは間違っています。そんなあなたたちに協力していた私も間違っていました。私は自分が犯した間違いを許せません。その罪を償うために、私はグレンさんと一緒にあなたたちと戦います」
私の言葉を聞いた元クラスメイトたちの顔色が変わる。
「……死んでもか?」
私は震える膝を抑えながら答える。
「死んでもです」
私の言葉を聞いたグレンさんが笑い出す。
「ふっ」
それを見た『破壊者』がグレンさんを睨みつける。
「死ぬのを前におかしくなったか? お前とそこの陰キャは、簡単に死ねると思うなよ。徹底的に犯した後、自分たちから死ぬのを懇願するような目に合わせてから殺してやる」
それを聞いたグレンさんが、今度はバカにしたように笑う。
「犯す。殺す。お前たちはそればっかりだ。ケダモノ以下の発想に吐き気がする。ただ、それも今日この時までだ。お前たちこそ、これから死を懇願する目にあうから覚悟をしておけ」
絶体絶命の状況にもかかわらず強気な態度のグレンさん。
「この強気なメスを服従させながら犯すのが最高なんだよな。お前ら悪い。最初は俺がいただくわ」
元クラスメイトたちにそう告げた『破壊者』がグレンさんの方に歩み寄る。
「死ぬ前に最高の快楽を教えてやる。感謝しろ」
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