第35話 平和

 亜人は馬鹿だ。


 金髪の青年は改めてそう思う。


 生物として。

 種として。


 やはり人間こそが万物の霊長だと思う。


 見た目だけは人間の形に似ているだけの亜人ども。


 魔力が高くて容姿が整っているが非力なエルフ。

 身体能力は高いが毛だらけの獣人。

 総合力は高いが食事に難がある魔族。

 腕力だけで脳筋な鬼。


 そして、全ての亜人どもに共通しているのは、揃って無知で知能が低いことだと、金髪の青年は思う。


 女神が言う通り、人間より劣った存在で、世界にとって異物である亜人たち。

 全て殺せばいいとまでは思わないが、ペットや家畜として飼ってやるしかないと思う。


 二千年もの平和で緩んだ世界。

 戦争の仕方も知らない無知な住民たち。


 元の世界であれば、子供でも分かるような戦略の矛盾に気付けない馬鹿な者たち。


 その上、女神の使徒である金髪の青年たちには、それぞれこの世の理を超えた神の力としか言えない、称号と呼ばれる特異な力まである。


 難易度の低いゲームのチュートリアルをやっているかのような。

 未就学児相手にスポーツで勝負しているような。

 自分たちがまるで神になったかのような。


 そんな感覚。


 負けることのない勝負。

 自分たちの勝ちが約束された勝負。


 つまらない。

 本当につまらない。


 平和は毒だ。

 ゆっくりとまわり、国を腐らせる緩慢な毒だ。


 元の世界の自らの国も、たかだか数十年の平和で、国は腐り、政治は機能しなくなった。


 二千年も平和が続いた国なら推して知るべしだ。


 その結果は、この国が今まさに、滅びを持って示そうとしている。


 ゲームはある程度の難しさがあるから面白い。

 絶対に勝つゲームなんてやる価値がない。


 金髪の青年はそう思うが、こればかりは仕方ないと諦める。


 女神はかつて、亜人を滅ぼし、人間だけの世界を作ることに失敗したという。


 だからこそ。


 二千年の時をかけて準備したと聞いていた。


 平和に慣れさせて、戦いを忘れさせ。

 称号の力と親和性が高い金髪の青年たちを探し出し、異界から呼んだ。

 女神自身も二千年間力を蓄え、失敗する要素など皆無だという。


 だから金髪の青年は、別の楽しみ方を探していた。


 ゲームの本筋がつまらないならサイドストーリーやミニゲームを楽しめばいい。


 他の仲間たち同様、初めは、元の世界では芸能人やトップアイドルでもおかしくない亜人のメスを、玩具にしてみた。


 それはそれで悪くないが、すぐに飽きた。


 元の世界なら一発で死刑になるような残虐行為にも手を出してみたが、青年には合わなかった。


 今試しているのは、侵略行為に時間制限を設けて、スポーツ感覚で楽しむことだが、それも相手が弱過ぎてつまらないものと化していた。


 敵の隠し球である姫という存在を早々に暴き。

 姫の幼馴染で護衛のオスを称号の力と姫への恋心を利用して操り。


 敵の戦力も。

 敵の作戦も。


 全て筒抜けの状態での侵略。


 その結果、目の前にいるのは敗戦を悟り、項垂れるエルフの姫と、自分が利用されていた事にようやく気付き呆然とするエルフのオス。


 つまらない。

 本当につまらない。


 金髪の青年はどうすれば楽しくなるか考える。


 もはや勝利は確定。

 敵に逆転の目はない。


 国の侵略というゲームはあっけなく終わった。


 称号の力で貞淑な王妃を寝取り、薬と快楽で王を堕落させ、エルフの一割以上を犯して従順なダークエルフと変えた事で、もう詰みだ。


 そして今。


 最後の希望であった姫の戦意を折った事でチェックメイトだと金髪の青年は確信した。


 あとはどう始末するか。


 ただ殺してもつまらない。

 性欲塗れの奴らに渡してもいいが、それでは自分が楽しめない。


 このバカなオスの目の前で、姫を犯し、処女を散らせばどうか。


 金髪の青年はその時のオスの反応が楽しそうだと思った。


 それにまあ、と金髪の青年は頭の中でつぶやく。


 エルフのメスを犯すのに飽きていたのは事実だが、その中でも段違いに美しいこの姫を犯すのは、男として興味がないわけではない。


 女神を凌駕するほどに美しく、国を救えると勘違いするほどには強いエルフの姫。


 国を救えず悲嘆に暮れるこの極上のメスを、国を売るほどに恋い慕うオスの前で犯す。


 考えると、それはこのつまらないゲームをクリアした褒美になるくらいにはそそられる。


 数多のエルフの平穏。

 二千年以上続いた平和。


 その終わりを告げるのにこれ以上にいい出し物はない。


 金髪の青年はそう考えて笑う。


 そうだ。


 このバカなオスだけとは言わず、平和ボケしたエルフの国民の前で犯せばどうか。


 これからお前たちは、この姫と同じように、我々の玩具になるのだと告げるのに、これ以上のイベントはない。


 人に見られて喜ぶ趣味はないが、エルフたちを絶望に落とす演出ならば仕方ない。


 そんなことを思いながら、金髪の青年はエルフの姫の方へ歩み寄っていく。


 その顔に暗い笑みを浮かべながら。

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