ろだうぇうぇん

Planet_Rana

★ろだうぇうぇん


 某月某日。自宅に覚えの薄い宅配物が届いた。


 休日でもない真昼のことだ。


 送り付け詐欺がはびこる昨今、通常なら受け取り拒否案件なのだが、覚えが薄くとも差出人のことは知っていたので署名をした。

 配達員は学生時代からの同級生で、一言二言当たり障りない会話と、次の飲み会の約束をして見送る。


 扉を閉じ、小さな机の上に箱を置いた。

 私の名前は、成田伊造という。


 今は特に話すネタもありはしないが暴露できることがあるとすれば、私がしがない物書き志望の若造だということぐらいだろう。


 六畳一間の一室を借りて毎日を打ちひしがれたように過ごしながら漫画とゲームと小説の更新を楽しみに新聞を開いたり雑誌を開いたりする妄想をする。テレビは無いしスマホもない。電気代がひっ迫する現代、夜間作業につぎ込んできた生活リズムがひっくり返され、氷すら作れなくなった冷蔵庫が一台と一口コンロとの横ではみ出したまな板を気にしながら、肉を買う度に切り分け小分けに冷凍する。焼いた数片の肉にほんの少し塩と胡椒を振る。電子レンジの恩恵にあやかったパックご飯を半分器に盛って、もう半分を夜食用に冷凍し、昨夜作ったホウレンソウのおひたしの作り置きを梅干を一つ乗せるくらいの感覚で盛り付ける。肉と野菜と穀物。一日のほとんどを外出せずに済ませている身とはいえ、このほんの少しのカロリーで半日過ごすのだから、財布のひっ迫具合が良くわかる。


 財布が薄くとも飲みには行くし、そのためにアルバイトをしたりリワード収入を得ているのだが、実は数日前にコンビニ店員をクビになったばかりであり (棚卸しにレジ打ちに揚げ物にパン作りにシフト管理の適正がことごとくなかったのである)、ぽつぽつと更新するしかできていない小説投稿サイトから得られる広告収入も雀の涙ほどで換金できないというありさま、しかもここ数か月はスランプの真っ最中というフルコンボだドォォォォォンな状態だ。なんなら家賃光熱費住民税自治会費国保年金奨学金返済と様々なものに追われながら確定申告の準備にもぶち当たるこの時期に職を失ったという事実は受け入れがたく、絶賛現実逃避の真っ最中だった。


 さて。先ほど友人の手から受け取ったこの小さな梱包には何が入っているのだろうか。


 本日は十月三十一日。皆が良く知るハロウィンだ――そして、差出人は「のべるあ」と記入されている。


 何を隠そう女神様が広告塔を務める小説投稿サイト「のべるあ」は、他の投稿サイトと比べ奇抜なイベントを行うことが多々あるのだ。私がここ最近で最後に参加したイベントは「悪戯コン」。十月のハロウィン、「トリックオアトリート」ならぬ「トリックするならトリックされても仕方がねぇよな!」というコンセプトでサイトの運営が投稿者に何かしら送り付けてくる可能性が否めないという趣旨の、実にトリッキーなイベントである (勿論真面目なイベントも開催されているのだが時折こうしてネジが緩んだイベントを起こすのが魅力のサイトだ……)。


 ちなみに、私は送り付けを「許可」する形で作品を投稿していた。「拒否」もできるが、私は万年金欠なので少しでも食材が手に入るならそれがゲテモノと呼ばれるものであっても参加を渋る理由にはならない。それに正直なことを言うと、虫が来ようが人体模型が来ようが三角コーンが来ようが作家志望にはすべからずネタになる。どんな体験でも価値があると自分を言い聞かせながら、期待半分恐ろしさ半分怯えのスパイスを添えて投稿ボタンを押した。それが、今月頭あたりの話だった。


 それで、本日ハロウィンに届いたのがこの箱である。サイズを測ると奥行き百二十ミリに縦九十四ミリ横百六十三ミリの小さな箱だ。こんな小さな箱に一体何が入っているのだろうかと恐る恐る開封すると、出てきたのはプチプチな梱包材と運営からの手紙、そして缶詰がひとつだった。


 黄色地に赤文字でろ……だ……うぇうぇん (?)と書かれている。上部には狼か何かが遠吠えする絵。箱の大きさから想像したよりもずっと薄い厚みの缶詰だった。

 日本語の欠片も見られないことから外国製の缶詰なのだろう。表記文字も英語かと思ったら英語ではない。なぜなら英語では「オー」の字に「・・」が付かないだろうからだ。アルファベットを表記に使用している国で、恐らく欧州の何処かに位置する国の言葉なのだろう。


 まあ「悪戯」として送り付けられたからには (当選者になったということなのだからこれは喜ばしい)しっかり調べて食べ、レビューするのが筋だろう。

 小説投稿の為に持っているノートパソコンを起動して、部屋のWi-Fiに頼りながら検索をかけた。



 カタカタカタカタ。 ろだうぇうぇん 缶詰 (検索) カチッ。



 そうして、ようやく私は自分が受け取ったものの重大さに、手にしているものの危険さに戦慄した――どうやらこれが、かの悪名高いシュールストレミングの缶、らしい。


 シュールストレミング。

 またはスーシュトレンミン、シュルストレミングス。


 直訳は「酸っぱいバルト海産のニシン」。誰もが一度は耳に掠め聞いたことがあるだろう、世界で一番臭い食べ物だと言われることもあるスウェーデン生産の塩漬けニシンの缶詰食品である。


 バラエティ番組での罰ゲームなどで食べるシーンが放送されることもしばしばあるが、基本的に日本人の日常生活とはかかわりが薄い食べ物である。缶詰のデザインで気づかなかったのも、大抵は「シュールストレミング」という言葉を聞いて「あぁ、あの臭い魚の缶詰か」となるだけで、それがスウェーデンの缶詰で酸っぱい塩漬けで赤と黄色の鮮やかで割と悪くないデザインをした缶に封じ込められているとまで連想できる人物は少ないだろうことを物語っている。ましてや、私はこれが手元に届いて目にするまで缶のデザインに狼っぽい動物の絵柄が使用されていることすら知らなかったのだから、いかに「ニシンの塩漬け (激臭)」のイメージのみで刷り込まれてきたのかが分かるというものだった。


 軽く調べてみると、生産地では屋内での開缶が禁止されている上に飛行機での輸送は危険物扱い、海上輸送でも航路によっては日本へたどり着くまでの間に発酵が進みすぎてしまう場合があって、この日本で食べる場合のコンディションは手元に来るまでにまちまちになってしまうらしい。送られてきたこれが果たしてハラワタ入りなのかカズノコ入りなのかは分からないが、一応現地でカズノコは食べないとだけ書かれていたのでそこだけ気を付けることにした。


 気を付けることにした、ということはつまり「食べる」ということだ。


 というのも、この缶詰が輸送ルートに乗ってからどれだけの期間を経てこの島国にたどり着いたかが分からない。スウェーデンの夏場七月に仕込まれて八月に売り出される、いわゆる追熟系発酵食品 (これも調べて知ったことだが、発酵を促すために滅菌されていないので日本基準で言う缶詰には含まれないらしい。缶に詰まっているのに缶詰ではないなら何かと思えば出てきた表記が「危険物」だった)が十月末現在の我が家に届いたうえ缶詰が膨らみきってパンパンなのだからどう気張ろうにも焦りが先に来る。借家アパートの中で開缶する度胸は持ち合わせていないが、温帯の地で保存するのは数日であっても万が一破裂した場合のリスクが高すぎる。


 そういうわけで、そそくさと犠牲にする服を寝間着から一着選び、購入後一度も使用していないゴム手袋とビニールポンチョをリュックに突っ込む。

 缶切り、カセットコンロ (停電用に仕舞ってあったもの)、行く道でカセットボンベや追加の食材を買うとして、寝癖を隠すために頭をタオルで巻いて「良し」と意気込んだ。


 こう見えて、野外のひとり遊びには耐性がある方なのだ。







 必要物資を買い揃えてやってきたのは、自宅から少しばかり離れた西向きの海岸だった。海が身近な環境で育ち、記憶といえば学生時代にバーベキューをしたもので止まってはいるが遠浅のエメラルドグリーンと素足では歩けない貝殻と珊瑚の砂浜は馴染み深い光景である。泡立つ波打ち際には人の姿より打ち上げられた海藻とゴミばかりが目についた。広く、広い海岸だが、人はいない。整備されたビーチと違って海の家の痕跡もキャンプの後も無い海岸なので地元の住民が走りこんだり犬の散歩をする程度にしか使われず、時折年配のおじさまおばさまが談笑しながら貝殻を拾っているくらい穏やかな海岸だ。


 まあ、この穏やかさを今から台無しにするのだと思うと多少の引け目があるが。海風はあるが私の後方には防風林に畑と山があり、住宅街はその向こう側だ。ここで激臭の缶詰を開缶したところで通報されるわけでもなし、皆で昼食へ行くか仕事休憩の仮眠をとるような、通行人の一人もいない真昼間直前のこの時間帯だからこその所業である。なんという完全犯罪の計画だろうか。


 ……いや、そんなことを言う余裕はなかった。普通に寒い。早く食べて帰ろう。


 砂の上に座る場所を確保して、気持ちばかりの敷物を敷いて荷物を置く。海風を凌ぐ為にそこそこ立派な砂の防波堤を作って (巨大な砂の山になった)、陸側にコンロ台を置く。フライパンを乗せた。砂粒がスパイス代わりに降りかかりそうだが、このだだっ広い海岸を選んだ私なので文句を言わず飲み込む。すでに海の生臭さと鼻が闘い始めているが、本格的な戦闘行為はこの後に控えている。改めて、気を引き締めて取り掛かることにする。


 私は意を決して、玉ねぎやらキャベツやらをチマチマと家で切ったものを二斤袋に控え、家の棚に眠っていた強めの酒を横に置き、小さなバケツとミネラルウォーターを一本、缶切りを構えた。


 対するは北欧の缶詰、赤と黄色の色合い鮮やかなニシンの塩漬け。


 地元に存在しない故に食べ慣れない外国からの輸入品に手を出す際に大事なのは、食文化の差異と味覚の差異がある現実を覚悟することである。


 蛍光色のバターケーキに激甘の緑茶、しこたまバターを投入したミルクティーにスターゲイザーパイ。

 少年の尿で茹でられた卵、アザラシの内で発酵させる海鳥、糸を引くまで藁に詰めて発酵させた豆、猿に虫に燕の巣。


 世界には様々な食文化があり、そしてそれらが食用とされる多くの事情を私は知らない。


 そのことを思えば、目の前にあるシュールストレミングというニシンの塩漬けは「臭い発酵食品」だというだけで、日本人的にも「普通に食べられる魚をさばいて塩漬けにした」というだけなのだ。文字に起こしてみれば大分目に優しいのではなかろうか。日本人だってどうやっても食べられない芋をどういうわけかコンニャクにして食べるのだし、食物繊維盛りだくさん生だと土味のゴボウを煮込みにして美味しくいただいてしまうところなんか食へのあくなき探求のたまものである。それに漬けものは漬けものだろう、日本にも塩を使った漬けものは存在しているしその多くが美味しいものだ。加えて私にはネットから得た読み齧りの知識が存在する。


 開封するときは水の中で、ガスだまりを作るために缶は少し傾ける。間違っても手袋を忘れないこと。そして、開けるからには、食材として対峙するからには完食を目指すこと――だ。尚、無理そうな場合は誰か人を呼ぼうと考えている。相手は現地ですら室内で開けることを許されていない缶詰なのだ。自らの畏れと好奇心とに敬礼し、私は缶を水に沈めて缶切りを淵にかけた。


 ぱきっ。


 今のところは水没している缶詰から匂いの類は感じられない。

 感じられないはずなのだが、ほのかに海由来のものではない「形容しがたい臭い」の気配がした。


 ……馬鹿な。水にゴム手袋にポンチョにマスクだぞ!? こいつ、多重障壁をいとも簡単に貫通するというのか!?


 しかし食べると決めたのだから食べなければニシンに失礼だ。この缶詰を作った現地の方々にも、この缶詰を国内に輸入してくれた名も顔も知らない貿易商人にも申し訳がたたなくなってしまう。なので、私は覚悟を決めて水から缶詰を引き上げる。


 臭い。


 形容しがたい臭さというより、臭い。単純にきつい匂いだ。酸っぱくて生臭くてその中にまろやかな鼻触りの臭みがいてあまりの混乱に脳内が大乱闘である。

 少なくとも食べるものとして嗅いだことがある匂いのどれとも記憶に合致するものがなく、代わりに濡れた雑巾から香る牛乳臭さや、腹を下した日のおなら、電柱に引っかけられたションベンの揮発臭、ありていに言って掃除が行き届いていない公衆便所の香りに似た何かの成分たちが缶詰から漂っているのだ。


 うむ。確かに臭い。

 そして今更ながら一人で一缶消費できるのか雲行きが怪しくなってきた。真昼の太陽は十月最終日にして燦燦と降り注いでいるが、パラソルもない海岸の砂浜でぼっちキャンプ擬きをしながら激臭の缶詰を開封した一般成人男性 (現在無職)はますます肩身の狭い思いで缶詰の開封を続ける。


 こんなことなら、最初の「ぷしゅ」を怖がらず堪能するくらいの気概で開けた方が何倍もましだったに違いない。調べた情報によるとこの缶詰は日本で買うには数千円とそれなりに高価なので、「次」があるとすれば私は新しい就職先を探さなければならないのだった。


 八割ほど開けて蓋をつまみ引き開けると、これまた「かつて魚だったなにか」が視界に飛び込んでぎょっとした。ああ、そうか。私が手にしたシュールストレミングは日本へ渡って来る間に、もしくは購入者を待つ間にすっかり発酵が進んでしまって半分くらいどろりとした何かにほどけてしまっていたのだ。古いホルマリン漬けや溶解が進んだ生ごみを彷彿とさせる見た目からは、これが「ニシンの塩漬け」という「れっきとした食べ物」であるという事実を忘れさせる攻撃力がある。……それでも、臭い匂いの向こう側に何か得るものがあると信じたかった私は、かろうじて残った魚肉片を目に留めて、とりあえず一枚、フライパンに乗せた。


 ちょろっと酒をかけて濯ぎ (酒の匂いが周囲に広がり元々広がっていた匂いの系統と混ざって更に恐ろしい風味になったが私はこの期に及んで酒の消臭効果とやらを信じることにした)、コンロに火をつけてシュールストレミングを焼く。酒や牛乳で洗ったり、火を通せばいくらか臭いが収まるとネットの先駆者は言っていた。私はそれを信じたい。信じがたいが信じたいのだ。


 揮発によって鼻を襲う臭気から顔を背けることなく数分。しっかり熱が通ったニシンの塩漬けを前にコンロの火を止めて、私はゴム手袋を一度外し、リュックサックの中からコッペパンを取り出した。なぜコッペパンかというと、道中寄ったスーパーにはレンジ加熱型のナンしか置いておらず、現地の食べ方を再現するには至らないからせめて見栄えを意識しようとバゲットやクラッカーを探すもこちらもなく、仕方がないので切り込み入りのコッペパン×五個入りバター付きを購入した次第である。


 で、何をするかというと。

 片面に塗られたバターをもう片面にも塗り広げ、玉ねぎとキャベツの千切りを乗せ、その間に焼いたニシンの塩漬けを挟む。


 ――人類の英知を込めたシュールストレミングサンドイッチの完成である。


 これだけ対症療法 (?)を試して尚、臭いが消えないというのは一周回って潔さすら感じられる。世界一臭い食べ物がこの程度で屈していてはいけないとでも思っているのだろうか。振り向けば残ったニシンの塩漬けが居るので風向き的に巻き散る臭いが消えないことについては頷くしかないのだが、この方法なら匂いがする魚をダイレクトに鼻へ近づけることなく口の中へ運ぶことができるという算段だ。一本のコッペパンにニシンの塩漬け一枚という何とも見た目は比率の悪い腰の引けたサンドイッチだが私はこれが心配のし過ぎだとは思っていない。


 よし。まずは食べてみよう。

 果たして塩の味しかしないのかニシンの旨味が生きているのか、それは神とこの後の私の舌のみが知ることだ。


 ぱく。むしゃ。

 もぐもぐ。


 もぐ。……もぐもぐもぐもぐ。


 もぎゅ。ごくん。


(水を手に取る)………………ごっごっごっごっごっごっご――――ぷはぁ!!


 ああ。うん。これは臭いぞ。ジワリと喉を駆け上がる臭いの存在感が鼻を通って外へ出ていくのが分かる。一方で塩味が舌を突き抜け魚としては美味しいのがまた脳がバグる要因だった。

 美味しいが、臭いし塩だ。とても食べ物の臭いとは思えないが。このような臭いを放つものがする味だとも思えない旨味が確かに存在していることも確認できた。


 先ほど水を飲んだが効果は薄い。やはり、世界一と称されるだけはある。口臭の点からも、今日明日は家から出られないと考えていいだろう。


 興味本位で缶詰から二枚目のニシンをつまみ、ほんの少し切り分けてそのまま口にしてみたが、こちらは塩味と口内を蹂躙する激臭に悶え苦しむ結果となった (どこかしらにニシンの旨味を感じたのは確かであるが料理を楽しむには香りがかなり重要なのである)。まあいい。いい体験だ。二度と食べようという気はしないが、これもいい体験である。


 私は深呼吸しようとして、むせる。

 遠くで犬が吠える声がした。


 海は変わらず風をこちらにたたきつけ、食べかけのコッペパンに砂がつもり、フライパンにも砂がつもる。気持ちラップをかけた缶詰の中身だけが無事だが、これが発酵食品が行きつく臭いなのかと思うと、食べたことがない「くさや」や「ブルーチーズ」なども案外食べられない味ではないのかもしれないと人ごとに思った。臭いが身体にまとわりついたのかと思うほど取れないししつこいので現実逃避もできなくなったが、生理的な嫌悪の理由が製法ではなく「臭い」に集約しているのでまだ食べられる。という結論に至った。少なくとも現地で食べられているシュールストレミングと日本の消費者に届いたそれでは全く同じような発酵具合ではないだろうし、臭いは変わらずとも食べられる食品として代々受け継がれている食べ物と文化の素晴らしさを実感できたように思う。二度と食べようという気はしないが、本当にいい体験だったと思う。


 私はニシンの塩漬け一枚で崩れ落ちるほどちっぽけで、世界はこんなにも広い。

 お金がない夢が叶わない努力が実を結ばないとただ嘆くより、行動することが、選択することが何よりも尊いとされるように。


 ……まあそれはそれとして臭いは臭い。


 この衝撃を一人で味わうのは何とももったいないので (決して一人で食べきることができないと諦めたわけではない、断じて)道連れを呼ぶことにした。

 合流した友人たちから「これは間違っても人が通りかかる場所で開けるもんじゃねぇんだぞ」と怒られてしまったのは言うまでもない。


 陸風に変わり大分平和を取り戻した夕方の海岸線で、私は食道を這い上がり鼻を突き抜ける異臭を味わいながらぼんやりと腹を決める。

 思考の端っこに待っているのは、罪滅ぼしのゴミ拾いと空き缶を片付ける予定と、現実だ。


 これはもう仕方がない。

 燻っていても埒があかないのは分かっていた。


 冒険をするのもいいが、いい加減ハロワに赴くとしよう。と。







 蛇足。


 この数日後にハロワに行った際に酷い口臭で受付係や周囲の利用客にドン引きされてしまったし、あの日届いた荷物が「のべるあ」から届いたものでもなかったことも後日運営に確認をしたことで判明した。

 それはそうだ、何故なら「のべるあ」が行っている悪戯コンテストの締め切りは十一月三十日。十月に作品を投稿しようが、選考期間をすっ飛ばして荷物が送りつけられるはずがなかったのである。


 今後「のべるあ」から何が送られてくるのか、何も送られてこないのか。結局は時の流れに身を任せるしかないと分かった。スランプはスランプのままだし、就職活動も順風満帆より逆風といった方がふさわしいように思うが、今の私にそれを考える余裕はない。


 曰く、職を失い引きこもりがちになった上、青い鳥でスランプをぼやく私を気にした某友人が「気分転換になればいいな」と仕組んだ悪戯だったのだと。


 If you're gonna play a prank, I'm gonna play a prank.


 配達を終えて飲み会に合流した友人から一連の経緯を知った私は今、蛇嫌いの彼にハブ酒をおごっている。





(【完】生還End )



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