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気付いた者は少ないが……その数少ない気付いた者は、皆、なにやら焦り始めていた。
「この話……アベル様に聞かせて大丈夫なんですかね?」
「おそらく大丈夫じゃないな……」
レオナールとジャンがひそひそ言い合っている間も、レティシアは話を続けている。
「もうずっと座ったまま下を向いて、テコでも動かないのよ。石像になったみたいに。まぁアネットに聖女じゃなくても妻として支えてほしいって言って見事に断られていたらしいから、無理もないけど……慰めて宥めて叱り飛ばして……議会に引きずり出すのは大変だったわ。出たら出たで心ここにあらずな調子で陛下を激怒させていたし……」
「慰めて宥めて叱って……お前が、か?」
「はい。陛下と王妃殿下に頼まれたので。リュシアン様を部屋から引きずり出して欲しいって」
レティシアは自慢げに言った。王都での奮闘ぶりを語って聞かせるつもりでいたのだが、何故かアベル達の反応が想像と違う。
もっと褒められるか、同情されるか、もしくは苦笑いをされるかと思っていたのに。
どうしてか、皆、引きつった笑いを浮かべている。
「皆どうしたの?」
そう、レティシアが尋ねると同時に、アベルが勢いよく立ち上がった。そして、風のように立ち去ってしまった。
「あ、アベル様?」
「あーあ……本格的に拗ねちまった」
「え? 拗ねた? なぜ?」
「まぁ、今のはレティシア様のせいですね。リュシアン様のことを楽しそうに話されるから……」
「え? 楽しそうに? 苦労したっていう話なのよ?」
「……レティシア様も、時々困った方ですね」
「ええ、本当に。うちのお嬢様は……」
レオナールも、ジャンも、アランも、ネリーも、集まっていた領民達までもが、一斉にため息をついた。
「な、何?」
どれだけ首を傾げても、誰も応えてくれない。そのうち、ジャンがぽんと背中を押してきた。
「さあさあレティシア様。うちの領主様をちょっぴり傷つけた罰として、ちゃーんと話をつけて誤解を解いてきてください」
そう言われたかと思うと、どんどん押されて、昼食を囲んでいた輪から弾き出されてしまった。皆、早く行けと口々に言う。
(な、何なの? 何が罰って??)
納得できないまま、レティシアはすごすごと歩き出すほかなかった……。
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