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「で、結局あの後はどうなったんです?」


 何の気兼ねもなくさらりと尋ねるジャンは、ある意味でありがたいとレティシアは感じた。遠慮してチラチラ見られるよりはずっといい。


 いいけど、遠慮がなさ過ぎるのもまた事実。


「ジャン、あのねぇ……あれだけの大事になったのよ。守秘義務というものだってあるのよ」

「当事者ですぜ、俺たちは。事の顛末を聞く権利ぐらいあるでしょうよ」


 チラリと横を見ると、アランもまた何か言いたげにしていた。大司教のことは、彼らにとって他人事ではないのだ。


「あの後、大司教様……いえグレゴワール殿下は投獄されて、今もまだ詮議の最中よ。投獄といっても、王宮の一室での監禁状態ではあるけれど。事が事だったし、色々と用意周到に進めていたせいで、罪を断じるための決定的なものがなくて、詮議は難航しているらしいわ」

「ふぅん……意外と王家も議会も宛てにならないもんだ。親父の時は、あれだけ速かった・・・・ってのに」

「……兄さん、やめよう」


 ジャンの声もアランの声も、悲しく響いた。父親の仇は、想像以上に遠いようだ。


「ごめんなさい。でも国王陛下もお父様をはじめとする重臣の方々も、今度こそ逃さないおつもりよ。だからこそ、こちらも入念にとりかからないと、と仰っていたわ」

「……別に、レティシア様に謝ってもらうことじゃありませんよ」


 ジャンはぶっきらぼうに言った。アランは、そんな兄を見て、苦笑いをしながらレティシアに頭を下げた。


 レティシアも、今、ジャンとアランの二人がどんな気持ちでいるか、少しだけ理解できた。


 軽口をきゅっと引き結んでしまったジャンに代わり、レオナールがそっと手を挙げて尋ねた。


「レティシア様の兄君は、どうなされたのですか? 確か、お約束通り罪が僅かに軽くなったとお聞きしましたが?」

「ええ。でも、自ら望んで地下牢に入ってしまったの。罪人にはここがふさわしいと言って……お兄様も、まだ詮議の最中よ」

「どのような裁きになるか、わかりますか?」


 レオナールの問いに、レティシアはそっと首を横に振った。


「『極刑もやむなし』……本人はそう言っているらしいわ」

「……俺たちが何のために骨を折ったのか、まったくわかっていないようだな、あいつは」

 アベルが、憮然として言った。


(後で聞いた話だけど、お二人は学院在籍時に親しかったのよね……?)


 レティシアとはまた違う、複雑な思いがあるようだ。パンをかじるアベルの仕草がいつになく乱暴な気がした。


 こう言う時は何かしら拗ねている時なのだと、わかるようになっていた。それはレオナール達も同じようで、話題を逸らすという方法を心得ている。


「そういえばアネット嬢はどうなりました? 彼女は放免なのでしょう?」

「ええ。だけどさすがに聖女の位は返上したわ。あんな事の後だから王都も肩身が狭いからと言って、遠方の領地の教会に行ったみたい。そこで修道女として過ごしていると聞いたわ」

「修道女に……そうですか」

「もう気軽に会えないわね。もっと話しておけば良かったわ」


 もしかしたら、友達になれたかもしれなかった……そう、感じていた。学院で出会った時には既に大司教の命を受けていたのだろうから、難しかったかもしれないが。


「アネット嬢がいなくなって、レティシア様よりもっと嘆いてる人がいるんじゃないですか?」

「よくわかったわね。アネットが王都を去った直後のリュシアン様の落ち込みようと言ったら……それはもう、酷かったわよ」


 明るく笑ってそう言うレティシアの声を聞くと、その場でただ一人、アベルだけがピクリと眉を動かした。

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