26

 皆、大司教とアネットの関係を知っている。その上で、この非道な言葉を吐く大司教に、憤りを抱く者が多くいた。


 レティシアもアベルも、飛び出すことをかろうじて堪えていた。


 そんな中、同じように眉をひそめている国王の前に、セルジュが進み出た。


「恐れながら国王陛下……このアネット嬢には、どうか寛大なご処置を」

「ほぅ……何故?」


 かっと大きく目を見開いて抗議する大司教には見向きもせず、セルジュは続けた。


「すべて……今のこの惨状は、すべて大司教様と私による指示です。彼女はそれに従っただけです」

「な、何だと!? セルジュ……!」

「彼女は平民……我々にやれと言われれば、それが何であろうと背くなど出来るはずもない。国中の『恵み』を奪ったことも、聖女の地位に就けたことも、聖大樹を枯れさせたことも、すべて……大司教様と私によるものでございます! どうか、それ以外の者についてはご容赦下さい……!」

「……セルジュ、そなたがアネット嬢の分まで罪を背負うと?」

「それが、私と大司教様が背負うべき罪の重さだと考えます」

「思い上がるな。罪の重さを決めるのは私だ」


 頬をはたかれたような、そんな厳しく重い声だった。その声には、まだ抗議をしようとしていた大司教ですら、竦んでいた。


 国王は、大司教とセルジュの二人を見据えた。


「グレゴワール・ド・ルクレール、セルジュ・ド・リール。両名を三つの罪を犯した大罪人として捕らえる。一つ目の罪は私欲のために偽りの聖女を立てたこと。二つ目の罪は偽りの聖女を使い、国中から『恵み』を奪い、民を困窮させたこと。三つめの罪は、あろうことか国民の希望の象徴である聖大樹を枯れさせたこと。なお、ほぼ同様の罪がアネット・フェリエにも当てはまるが、王太子リュシアンの命を救ったことで放免とする」 

「え……」

「父上……! ありがとうございます!」


 リュシアンからの言葉を聞いて、国王は一瞬だけ笑ったように、レティシアには見えた。だがすぐに元の厳格な面持ちに戻っていた。


「なお、他にも余罪はある。神に捧げた身でありながら異性と交わりを持った罪、リール公爵令嬢を監禁、殺害未遂……それに八年前のパーティーでの件も含めて諸々、改めて話を聞かねばならぬようだ」


 なおも食い下がろうとする大司教を、今度は国王の側にいた王妃が視線で黙らせた。ぐっと声を飲み込んだ大司教に代わり、セルジュが深々と頭を垂れた。


「謹んで、裁きをお受けいたします」

「セルジュ……! 貴様、私を売ったのか!」


 ようやく、セルジュの告解があったのだと悟った大司教はセルジュに詰め寄っていた。だがセルジュはやんわりとその手を振り払い、穏やかな声で応えた。


「ご安心を。血の繋がった息子として、地獄までお付き合いいたしますとも」

「貴様……!」

「やめよ! この者らを早く牢へ!」


 屈強な兵達が駆け寄って、まだ責め立てようとしている大司教を引き剥がして、王宮へと引きずっていく。


 同じようにセルジュも捕縛されたその時、アベルが、静かに立ち上がった。

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