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「アラン、何か手伝う事はある?」
レティシアは、まっすぐに厨房に向かった。
皆が整地作業に精を出す傍らで、アランは集まった村人たち全員分の昼食を作っていた。いつもの何倍もの量だ。
「レティさん、お疲れ様です。ちょうど下ごしらえの最中だったんです。手伝ってもらってもいいですか?」
「わかったわ。残りの芋の皮むきをしたらいい?」
「ええ。僕が水を汲んでくるので、その間にお願いできますか?」
「だったら私が汲んでくるわ。泥だらけの手を洗いたいし」
「えぇ? でも……」
「いいから、ちょっと待ってて」
レティシアはアランから桶を受け取って、厨房を後にした。
(確か井戸はこっちだったわね)
領主館を訪れたことは何度もあるが、裏口から先へ行くことはなかった。以前に聞いた道順を思い返しながら歩いていると、どうにか、井戸らしきものの姿が見えた。
無事にたどり着けてほっとするのも束の間、井戸の向こうに、別の姿が浮かんだ。
「これは……聖堂?」
よく見ると、領主館と同じかそれ以上に高い建物だった。質素ながらも神を象徴する太陽のレリーフが飾られている、教会と同じ造りだ。
ただ、人々の信仰を集める教会の建物にしてはずいぶんと汚れて荒れている。
ドアははずれかかっているどころか、施錠された形跡もない。
(入っても……大丈夫かしら?)
レティシアは、そっとドアを開けた。錆びた金属独特の、耳に付く音が響いた。屋内の造りはやはり聖堂だ。王都にあるものよりも数段こじんまりしているとはいえ、確かに教会の祈りの場だ。
信者が集まる際のための長椅子が並び、太陽の紋章が掲げられ、天上にはガラスをふんだんに使った明かり取りの窓がいくつもある。そして、その中央には天に向かって枝を伸ばし、どっしりとした重厚な幹が根を下ろしている、荘厳とも呼べる佇まい。
この姿を、レティシアはよく知っている。そう思い至ったとき、頭に浮かんだ永、口をついて零れ出た。
「これは――聖大樹!?」
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