17-4「『出資』?」
「『出資』?」
その言葉に、蒼田は少しばかり驚いた。
てっきり、「助けてくれ」と言ってくるものだと思っていた。あるいは、「金を貸してくれ」と言ってくる可能性も考えていた。
それが、『出資』ときた。
「『融資』ではないのかね?」
「はい。融資をしてもらうためには、その融資に見合う信用か担保が必要ですよね? でも、私はただの高校生一年生です。信用もありませんし、必要な金額に見合う担保になるような物も持ってません。だから、融資をお願いするのは無理だと判断しました」
「もっともだ」
蒼田は頷いた。
「もし君が、私に金を貸してほしいと言って来ていたら、私はそう言って断っただろう。
では、君は、出資と融資はどう違うと思っているのかね?」
「出資してもらうのには、担保が要りません。返済の義務もありません。代わりに、私が上げた成果を分配することになります。様々な決定権も明け渡すことになります」
「なるほど。
株を買うという形で株式会社に出資すれば、配当金という形で成果が分配され、株主議決権という形で決定権を行使できる。
君個人に出資する私に、同様の物を提供しようということか。
つまりは、ここから先はギブ・アンド・テイクのビジネスの話というわけだ」
蒼田は喉を鳴らして笑った。
「おめでとう。
君は、少なくとも君の提案する『ギブ』と『テイク』の内容を把握するまでは君の話を聞いても良いと、私に思わせることに成功した。
よかろう。では、ビジネスの話をしようじゃないか。
それで、君は、私にいくら出資して欲しいのかね?」
蒼田は、まずそう聞いた。
それがはっきりしなければ、リスク計算ができない。
「金額でいくらと指定できないものをみっつ、『出資』していただきたいんです」
「試しに、言ってみたまえ」
「ひとつ目は、特待生契約書への、保証人の署名と押印です」
ここで、その話を持ってくるか。
蒼田は感心した。
「私は、自分の意志で国公立大学医学部を目指しています。特待生資格を失うほどに成績を落とすつもりはありませんし、保証人に迷惑をかけることなく塩田高校を卒業する自信もあります。
さきほど、理事長先生は私のことを『理想的な特待生』とおっしゃって下さいました。
私にそれができることを、理事長先生も納得して下さると思います」
塩田高校には、学習意欲に欠ける生徒も多い。そもそも、他の高校では医学部合格が危ういレベルだから塩田高校に入学、編入するのだから、生徒のレベルもそれなりだ。これだけやる気がある峰ならば、上位4割をキープすることは難しくあるまい。
「なるほど。確かに金額を指定できない『出資』だな」
「国公立大学医学部に合格すれば、そこから先は公的支援と奨学金とアルバイトで何とかなる計算ですが、やはり様々な状況で保証人は必要になると思われますので、大学を卒業して医師になるまでに必要な保証人のサインと押印も『出資』していただきたいです。
これがふたつ目です」
それは、元特待生の卒業生として、それなりの成果を蒼田にもたらすためにも必要なものだ。
ここまでのふたつの『出資』は、蒼田にとっても悪い話ではない。
「保証人として名前を貸すことにより、露と消えたはずだった特待生一期生からもたらされる恩恵を予定通りに受け取れるようになる」という話だからだ
「もしも、途中でその成果が期待できなくなった場合……君の学力が伸び悩んだり、事故などで勉学の継続が難しくなった場合は、どうする?」
「その場合は、切り捨てて下さって構いません。別の保証人を探す努力はしますが、駄目だったら医師になることを諦めて、在学中の学校を退学し、公的支援を使って生活を立て直して自力で生きていきます」
そういうことならば、リスクは相当に少ない。
「何の書類に保証人としてサインするのか」、というところでこちらが間抜けな見落としをしない限り、大怪我をすることはないだろう。
「『出資』してもらいたいものは、みっつだと言っていたね? 最後のひとつは?」
半分以上その気になりながら、蒼田は話の続きを促した。
峰真治は、一度手元に目を落とし、膝の上で両手をぐっと握ってから、顔を上げた。
「妹の……白血病で入院している、私の妹、峰華子への最高の治療です」
18へ続く
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