第11節
11ー1 5月19日14時過ぎ。
5月19日14時過ぎ。
「安藤さん! 目撃者見つけました!」
スマホにかかってきた向島からの電話に出たら、いきなりそう言われた。
「事件当日、13時30分頃、テニスコートの裏手で何かを燃やしている被疑者を、向かいの職員住宅の3階に住む塩手高校の先生のお姑さんが目撃したそうです! 鑑識の手配をお願いします!」
「よくやった! すぐ手配する!」
待ちかねた連絡に、安藤はスマホを切るより先にデスクの固定電話に手を伸ばした。
目撃者は、塩手高校の敷地の西側にある職員住宅に住む、数学教師の妻の母だった。
第一子を出産して間もない娘のために、ゴールデンウイークを利用して4月25日土曜日から事件当日の5月11日月曜日まで、北海道から手伝いに来ていたのだそうだ。
事件の起きた当日の14時57分T駅発の特急で帰路についたために、近隣の住人に総当たりで聞き込みをする地取り捜査の盲点になっていたのだ。
事件当日の「来客」についての質問を思いつき、コツコツと地取り捜査をやり直したのは、志願してこの事件の専任捜査をしていた高木だった。
数学教師の妻から、事件当日に母親が来ていたことを聞きだし、ひとまず電話で話を聞いたところ、目撃証言が得られたのだった。
塩手高校の敷地の西側には、南から体育館、来客用駐車場、2面のテニスコート、グラウンドが手入れの良い植栽に囲まれるように配置されている。
来客用駐車場とテニスコートの間には、西の斜面を降りる階段に到る歩道があって、階段の下で職員住宅の敷地に繋がっている。職員住宅に住む教師が出勤に使う道だそうだ。
その階段の上、テニスコートを囲う植栽の裏に、レンガ造りの焼却炉がある。
まだダイオキシンなどが問題になっておらず、家庭の紙ごみなどがそこらで燃やされるのが普通だった時代には、学校で出たごみは焼却炉で燃やすのが当たり前だった。この焼却炉はそういう時代に卒業生たちによって寄贈されたもので、今となっては実用されていないものだそうだ。
そのとき、目撃者は干していた布巾を取り込むために東向きの3階のベランダに出ていた。
塩手高校の職員住宅は、学校のある高台の西の斜面の途中にある3階建ての低層マンションだ。
高台の上にある学校敷地の高さと、職員住宅の3階の床の高さが近いために、ベランダから焼却炉の前に居るグリーンの作業服を着た明るい髪色の人物と、焼却炉の煙突から上がる白い煙が見通せたのだという。
遠目に見た被疑者の特徴的な茶髪を染めているものだと勘違いして、「いいところの子供が集まる学校だと聞いていたけど、あんな髪の色の職員もいるのか」と思ったので印象に残っていたのだそうだ。
作業服姿の被疑者のスナップ写真と、似たような作業服姿の別人の写真とを北海道警に送って、直接目撃者に確認してもらった。複数の似たような作業服の男性の写真の中から、目撃者は迷うことなく被疑者の写真を指し示したそうだ。
事件当日13時30分頃、被疑者が焼却炉前に居たのは間違いない。
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